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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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22話 鳥娘のひみつ

「ななな、なんの事か、わ、分からへんなあ」


 妖族の里にやって来て、それを懐かしんでいたニクスだったが、俺達の前では見せてはいけない姿だったらしい。

 慌てて訂正するニクスに放った俺のツッコミがよほど聞いたのか、ニクスは動揺して目を泳がせた。


「もう隠しても無駄でしゅよ。ニクスしゃんは転生者だったんでしゅね」


「ててててて、転生者? な、なんの事かさっぱりわからんわあ」


「ニクス様、もう隠すのは限界では?」


「メレカさんまで何言うてんの? 嫌やわあ」


 ニクスは視線を集めて大量の汗を流す。

 俺はそんなニクスを見て、何となくだが分かってしまった。

 それに気付いたのは他の皆も一緒だ。


 そして、ニクスに止めをさしたのは、この騒ぎと醤油の香ばしい匂いでたった今目を覚ましたみゆだった。


「にくすちゃんは自分が転生者って事を隠すために、今まで誤魔化してたんだね。ふぁあ……おはよう、お兄ちゃん。なんか良い匂いする」


 みゆの言葉に観念した表情を見せたニクスは、俺がみゆに「そうだな」と返事をして地面に降ろしている間に、その場に座って正座した。


「ホンマは、師匠にウチが転生者である事がバレそうな話はするな言われててん。せやから、この村に師匠が来てる言う事も言えんかったんや」


「そうだったんだ……。でも、なんで自分がてんせ……って、え? ニクスちゃんのお師匠さんがこの里にいるの?」


「せやな。師匠がドレク……今は先代みたいやけど、ドレクに会いに、妖怪の里に行く言うてたんよ。暫らくここに滞在する言うて」


「妖怪の里……ああ、そう言う事か。妖族じゃなくて妖怪か。なるほどな」


「にゃー? 妖怪ってなんにゃ?」


「そう言う事だよ。ナオは妖怪って聞いても、それが妖族を指してる言葉って分からなかっただろ?」


「妖族が妖怪にゃ?」


「妖怪…………私も初めて聞きますね。妖族の中の種族の一つですか?」


「あー、そうじゃなくて、俺達の世界では、妖怪って呼んでるんだよ」


「なるほど。つまり妖族の里ではなく妖怪の里と呼べば、ニクス様が前世でヒロ様の世界にいたと分かるのですね」


「そう言う事だな。でも、別に隠さなくても、妖怪の里じゃなくて妖族の里って言えば良いと思うんだが?」


「そんなん、いつ口を滑らすか分からんやん。ウチはいつもこの里を妖怪の里言うてるんやで? 最初から言わん方が安全やろ」


「私にはニクス氏の気持ちが分かりますよ~。普段から使ってる言葉って、うっかり出ちゃいますもんね~」


 フウがいつもの様にポーズを決めて話すと、ニクスは「せやろ」としみじみした顔で頷き、言葉を続ける。


「でも、まさかこの里に来る事になるとは思わんかったわ。ドレクに合わなんだら、別のルートでウチが連れてく予定やったのに……」


「そうだったんだ」


「つうか、ニクスが転生者ってのは、始めの方から分かってたけどな」


「…………なんやて!?」


 当然のように話すと、ニクスは間を置いてから、大口を開けて滅茶苦茶驚いた。

 ニクス本人は隠せているつもりだった様だし、恐らく気が付いていないのだろう。

 何に気が付いていないかと言うのは、ピュネちゃんから転生者の事を聞いた者であれば、誰でも分かる真実だ。


「最初に会った頃に、ニクスの能力スキルでフェニックスの本質を人に変えて、宝鐘の封印から逃れたって言ってただろ?」


「……た、確かに言うたけど、それが――っあ」


 どうやら気がついたらしい。

 ニクスは口をパクパクとパクつかせて、ベルやメレカさん達に視線を向けて、最後に俺に視線を戻した。


能力スキルは転生者の特権やのに、ウチ、気付かんと自分から言ってもうたんか……。アホやん」


「せやな」


「こら」


 ニクスのアホやんに同意して頷いたみゆの頭をペチリと叩く。

 すると、みゆは俺の顔を見上げてイタズラっぽく笑った。


「ま、そう言う事だからさ、隠してたのが転生者って事なら、もう隠さなくて良いぞ」


「うんうん。良かったら、何で隠そうとしてたのか教えてほしいな」


「ヒロ、ベル…………せやな。ウチも話してスッキリする事にするわ。ちょっと、場所移してもええ?」


 ニクスは苦笑して尋ね、俺達は頷いた。







「もう皆も知ってる通り、ウチは転生者なわけやけど、隠しとったんは魔族にばれん為や」


 周囲に人がいない場所に移動して、ニクスは少し俯きがちになって話し始めた。

 その顔はどこかはかなげで、視線は地面に向けられていた。


「師匠の居場所を隠してたんも、実際に秘密にしとったんよ。ウチの師匠……フェニックスは、五千年前の戦いで魔族を裏切って英雄の仲間なったで、魔族から恨まれとる。せやから、例え相手が魔族ちゃうくても、居場所は教えられへんかった。教えてしもたら、その人に魔族が狙われるかもしれんやろ?」


「確かにそうかもな。実際、魔族達がニクスを狙ってたのは、フェニックスの居場所を知ってると思われていたからなんだろ?」


「せやな。師匠とウチの関係が最近になってバレてもうて、狙われるようなったんや。ウチは転生者やなかったら、まだ良かったんやけどなあ。ウチの事までバレてまったら、ウチの能力スキルを利用されて、もっと悲惨な事になってまう。転生者は魔族になる素質があるでなあ。アミーなら、その意味が分かるやろ?」


「そうでしゅね。どれだけ穏やかな性格の人でも、魔族になった途端に過激になったりするでしゅからねえ。そうでなくても、魔族になると言う事は邪神の支配下に置かれると言う事でしゅし、間違いなく利用されましゅね。それに、あたちも転生者でしゅが、前世の記憶があるわけでは無いでしゅ。前世の記憶を持つ魔族は能力スキルが二つありましゅし、覚醒もするでしゅからねえ。ニクスしゃんは間違いなく利用されるでしゅ」


能力スキルが二つで覚醒……? そう言や、親衛隊の一人が覚醒がどうのって言ってたな」


 親衛隊の一人で【炎帝】を使っていた魔人プルスラスは、魔人ベレトと違い、能力スキルを覚醒させていると言っていた。


「あれ? 兄貴は能力スキルの覚醒と能力スキル二つ持ちの話を聞いてないのか?」


 ドレクが不思議そうに俺を見つめた。

 ニクスの話は途中だったが、それが気になった俺はドレクに「どう言う事だ?」と尋ねた。

 すると、ドレクは眉を潜ませて腕を組み、一拍置いてから何かに気がついた様な表情を見せた。


「そう言えば、あいつ等がバセットホルンの守り人を殺したって言ってたな。だからか」


「確かにそうだが……。っつうか、その代わりにピュネちゃ……デルピュネーから話を聞いたぞ?」


「ああ。あのウクレレで油断して石にされた女か。あの女の実力なら、メドゥーサに負けないのに、村人を護って石にされちまって……って、そんな事は良いか。なら、このロック魂の情熱(ソウルスピリット)を持つ俺が教えてやるZE!」


「お、おう」


 急にテンションが高くなったドレクに少し引き気味に頷くと、ドレクがギターを弾くようなしぐさを見せて語り出す。


「デルピュネーが話し忘れてたみたいだが、能力スキルってのは極めれば覚醒して、強化したり丸々別物の様な力を出したりするんだZE! しかも、前世の記憶を持つ者であれば、極める必要なく覚醒出来る可能性が高いのさ!」


「ねえねえ、召喚してもらった人は転生者と違うよね? でも、お兄ちゃんは使えてるよ。なんでなの? もし召喚してもらった人も使えるなら、わたしも能力スキルほしい」


 みゆが手を上げて質問する。

 すると、ドレクはみゆと目を合わせて、再びギターを弾くようなしぐさをした。


「召喚された奴は一つだけ能力スキルを得られるんだZE! それから、みゆパイセンは召喚じゃなくて転移だろ? 残念だけど転移者はノースキルだZE!」


「ええ……そっかあ」


 何故みゆが召喚ではなく、ゲートの様なものをくぐって来た転移者だと分かったのかは分からないが、一先ずそれは置いておく。

 それよりも、まだ本題の一つが残っている。


「それで、能力スキルが二つあるってのは? 俺が今まで戦ってきた魔族は、多くても一つだったんだが?」


「そりゃそうだZE。使える条件は前世の記憶を取り戻す事。前世の記憶が無い奴は、能力スキルを二つどころか、一つだって使えない事がざらにあるのさ。さっきそこの魔族が言った通りだZE」


「ああ、そうか。アミーが記憶がある魔族は二つって言ってたな。って事は、前世の記憶なんて普通ないのか」


「でしゅね。あたちの場合は断片的に覚えてましゅが、それでも能力スキルなんて一つも使えないでしゅよ」


「そうだったのか」


 にしても、ちょっと驚きではある。

 そうなると、この先いつ能力スキルを二つ持っている魔族と戦う事になっても、おかしくないって事だ。

 能力スキルは俺の絆の魔法で無力化出来ないし、これは結構厄介な事かもしれない。


「ん? ……ニクスの喋り方って方言だよな? しかも俺の世界の。まさか、ニクスは前世の記憶があるって事か?」


「当たりや。せやから、さっきも言うたけど、魔族に転生者ってバレてしもたら確実に狙われてまうやろなあ。魔族化させられて利用されるか、能力スキルを知られて脅威と思われたら消されるかするんちゃう?」


 少しだけ冗談めかしに苦笑しながら話すニクスだが、その顔はどこか悲し気で、辛い気持ちを我慢している顔だった。


 ニクスは魔族であるフェニックスの本質を人間に変えて、宝鐘の封印から逃したと言っていた。

 そんなの、どう考えたって利用されるに決まってる能力スキルだ。

 この世界の言い伝え通りであれば、邪神は再び英雄と封印の巫女に封印される。

 だが、ニクスの能力スキルを使えば、それを回避出来てしまう。

 そうなれば、裏切り者のフェニックスを狙う為どころか、ニクス本人を狙うに決まっている。

 ニクスはそれが分かっているからこそ、本当は怖くて仕方が無いのだろう。


「ねえ、ニクスちゃん。エレキ寺院に行った後も、暫らく私達と一緒に旅をしようよ?」


 不意にベルが真剣な面持ちをニクスに向けて話した。

 ベルの言葉にニクスは驚いて、ベルと目をかち合わせる。

 すると、ベルはニクスの目を真っ直ぐと見つめて言葉を続ける。


「私、ニクスちゃんを護りたい。一人になんてさせられないもん。だから、一緒に行こう?」


「……そんなん言うても、ウチ、戦うなんて出来へんし、絶対足手纏いになってまうやん」


「そんな事無い。それに、足手纏いって言うなら、私もそうだよ。邪神に魔力を奪われて、魔石が無いと魔法がまともに使えないの。護られてばっかりなんだよ? 封印の巫女なのにね……」


「ベル……」


「ニクス様、姫様の言う通り、ご一緒に旅をしませんか? 楽しい旅……と言うわけではございませんが、ご一緒して頂けると嬉しく存じます」


「メレカさん……」


「えー。絶対楽しいよ! 行こうよ、にくすちゃん」


「にゃー。皆まとめてニャーが護ってあげるにゃ」


「私も微力ながらお守りしますよん」


「あたちは新参者でしゅが、大歓迎でしゅよ」


「そうだな。俺も歓迎するぜ」


「……みんな、ありがとうな。ウチ、一緒に行く。面倒かけたらごめんやけど、よろしくや」


 そう言って、ニクスは目に涙を浮かべて微笑んだ。

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