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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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18話 空回りな王子様

 火山の洞窟を出て、宝鐘ほうしょうの守り人二代目ドレクの長話で分かったのは、俺達を襲った理由だけだった。

 しかも、その理由が、魔族にしてもらった恩を返す為と言う長話の意味が全く無い理由。

 殆どがドレクが世界を旅してロックを広げようとしていたと言う話だった。

 宝鐘の守り人として英雄に伝える話は、封印の巫女であるベルが戻って来てからと言う事になった。


 そんなわけで、ドレクの長話を聞かされて暫らくが経ち、俺達はウクレレの村人達の避難所へと戻って来た。

 すると、何やら人ごみが出来ていて、その中心から騒がしい声が聞こえてきた。


「どうしたんでしゅかね?」


「片方はヘンリー様のようね。何かあったのかしら?」


「分かんないけど、ちょっと行ってくるか」


 村人達の様子からすると、あまり良さそうな感じはしない。

 俺は少しだけ小走りで近づいて、その中心へと向かった。


「せやから何回言わすん!? あんたにやる食料は無い言うてるやろ! 小さい子かてお腹空かしとるのに、先の事考えて我慢しとるんやで!」


「お前こそ話の通じない娘だな。何より、クラライトの第二王子であるオレに対してのその言いぐさ、不敬であると知れ! オレが食料を食べるのは、来たるべき戦いに備えての事。本当に子供の事を考えるのであれば、子供の将来の為にも、魔族を撃ち滅ぼすオレに食料を渡すべきだ」


 思わずため息を吐き出したくなった。

 言い争いをしていたのはニクスとヘンリー。

 しかも、ヘンリーはいつもの調子で、その背後には騎士と侍女が当然とでも言いたげな顔して立っていた。

 今の会話でだいたい状況は察して、黙って見過ごすわけにもいかないよなと、とりあえず二人の前に出る。


「二人とも落ち着けー」


「ヒロ! 良い所に来たな!」


 俺の顔を見て、ヘンリーは勝ち誇った様な笑顔を見せる。

 ニクスは驚いた顔した後に、ヘンリーの顔を見て眉を寄せた。

 それに、それはニクスだけじゃない。

 周囲にいた村人達もどよめいて、俺の顔を見て「なんだよ、こいつかよ」や「あのボンクラ王子の仲間だ」など、コソコソと言われてしまう。

 まあ、無理もないだろう。

 ベル達から聞いた話では、俺達が洞窟で食べた食料は、ヘンリーが村人から奪った物らしい。

 どこの盗賊だよと言いたくなるその所業に、俺は聞いた当時ため息を吐き出したくらいだ。

 とまあ、それはともかく、俺はヘンリーを助けに来たわけじゃない。

 喜んだ顔したヘンリーに向き合い、真剣な面持ちを向けた。


「とりあえず、何をしてたか教えてくれるか?」


 何も聞かずにただ責めるのは良くない。

 だから、俺は質問した。

 すると、ヘンリーは「ああ、勿論だ」と口角を上げて答え、周囲にいる村人達を一瞥してから言葉を続ける。


「彼等がオレの妹、ベルから食料と水をわけて貰っていたんだ。だから、オレはそれは元々オレの物だから、返せと言ったら非難を受けてね。恩を仇で返す様な事をされて、その上その娘に駄々をこねられて困っていたのさ」


 ヘンリーの言葉に、村人達が口々にヘンリーを小声で非難して鋭く睨む。

 ニクスも眉根を上げて、かなりの苛立ちを見せた。


「元々オレの物って言うのは? ベルが持って来たんだろ?」


「だからだ。ベルが持って来たと言う事は、それはクラライトの物だ。つまり、オレの物だと言える。何も間違ってはいないだろう?」


 どこのガキ大将だよ。などと思いながら、俺は冷や汗を流した。

 と言うか、本気で言っているのかと疑ってしまう。

 だが、ヘンリーのこの自信に満ち溢れた顔を見るに、マジなのだろう。

 出来るだけ事を荒立てたくもないし、この馬鹿王子をどうやって説得しようかと考えていると、別の馬鹿が登場する。


「ロックじゃねえなあ」


「――何?」


 いつの間にか縛られたままのロック馬鹿ドレクがヘンリーの背後に立っていて、ヘンリーがドレクに振り向く。

 そして、ヘンリーの側に立っていた騎士はドレクの姿を見て、ヘンリーを護るように前に立った。


「ロックじゃねえって言ったんだZE。クラライトの王子だったか? 小さいねえ」


「小さい? 誰だ貴様は!」


「俺が誰かなんてどうだっていい。てめえの器が小さいって言ってんだよ。クラライトってのは世界最大国家って話だけど、まさかこんなに小せえ男が王族なんてな。お前のハートにゃロック魂が欠片もねえZE」


「わけの分からない事を! オレほど器の大きな者はいないのが分からんとは、貴様こそ器が小さい不届き者の様だな」


 ドレクとヘンリーが睨み合う。

 俺は更にややこしくなりそうな雰囲気にため息を吐き出したくなる気持ちになりながら、一先ず手を叩いて音を出し、この場にいる全員の視線を集めた。


「ヘンリーを借りてくな」


「――な、何!?」


 ヘンリーの肩を掴み、突然の事に慌てるヘンリーを連れて、アミー達に声をかけてこの場を離れた。

 背後から村人達の「二度と戻って来るな」などの罵声を浴びながら……。




 ヘンリーを連れて向かった先、それはウクレレだ。

 ウクレレに辿り着くと適当に座れそうな場所を探して、そこにヘンリーを座らせる。


「ヒロしゃん、急にどうしたでしゅか?」


「話はまだ終わってへんのやけど?」


「分かってるって。これ以上ベルの顔に泥を塗りたくなかったから移動したんだよ。っつうか、ハバネロとドレクは?」


「ハバネロしゃんは疲れて追いかけてくる気力が無いみたいでしゅ。ドレクしゃんは村人に共感して、残ってた騎士と侍女になんかしてたでしゅね」


「おいおい、それ大丈夫なやつなのか?」


「そんなの知らないでしゅよ。放っておけばいいでしゅ」


「心配せんでも大丈夫やろ。仮にも一国の王子の従者やし、下手な事して国際問題になったら大問題やからなあ」


「それもそうか……」


「ヒロ、その失礼な娘と知り合いだったのか?」


「失礼なんはあんたやろ!」


「何だと?」


 ニクスとヘンリーが睨み合って、今にも掴みかかり合いそうになったので、俺とアミーはそんな二人をなだめた。

 そして、二人が落ち着いたところで、俺はヘンリーに尋ねる。


「っつうかさ、なんでまた村人から食料を貰おうとしてたんだ?」


「ふん。そんなの決まっている。村人から貰った食料は結局食べていないから、また貰おうとしたまでだ。だが、この娘のせいでオレは何も口にしていない」


「何が貰ったや。奪ったの間違いやろ」


「これだから田舎の下民は困る。国民が王族に食料を差し出すのは当然の事だ」


「ここはあんたの国やない。そんな事も分からんの?」


「そんなものは関係ない。この国とオレの国は友好関係にある。ならば、その礼儀は何処へ行っても同じだ。少なくとも、こんな田舎村では無い都市ヴィオラではそうだった」


「そない言うなら、そのヴィオラでわけてもろたらええやんか。この村の大人はな、子供の為に自分等も腹空かしとるのに我慢しとるんや!」


「情けない話だ。それならば、隣村か町に食料を調達しに行けば良い。ここなら、近くの村まで歩いて二日か三日もあれば辿り着くだろう。少々時間はかかるが、そこまで行けば乗り物を借りられる筈だ。そうなれば帰りは半日あれば戻って来れるだろう。実にくだらない言い分だな」


「はあ? そんなら、あんたが行けばええやんか! あんた、それでも一国の王子なん?」


「そうだ。オレは王子だ。王子であるオレが、何故そこまでしてやらねばならんのだ? 少しは頭を使って考えたらどうなんだ? それとも、礼儀を持たぬお前では考えても無駄な話だったか? 下民の娘」


「なんやて!?」


「うわあ。流石にドン引きでしゅ」


 アミーが呟き、ヘンリーがアミーを睨む。

 そして、ヘンリーはアミーにも何かを言おうと口を開いたので、俺はそれを止める。


「なあ、ヘンリー」


「なんだ?」


「王族や貴族の礼儀作法ってのが俺には分からないけどさ、もう少し周りに気を配ってくれないか?」


「気を配る? オレが? ヒロ、お前まで何を言っているんだ? 気を配るべきは下々の者達だ。お前までオレを侮辱するのか?」


「あー。いや、まあ、普通はそうなんだけどさ。気に障ったならすまん。要するにさ、もっと仲良くしようぜって事」


「ふん。仲良くしようとしていないのは、オレではなく周りの連中だ」


「そうだな。でも、それはヘンリーも同じだろ? 俺は今までベルと一緒にいたから知ってるけど、クラライトの王族ってのは、いついかなる時も上に立つ者として民の事を第一に考える者だろ? ベルが自分を犠牲にして誰かを護ろうとする姿を、俺は知ってる」


「当然だ。だからこうして、オレは危険を顧みず前戦へ来たのだ」


「だったら今回の事で言えば、村の皆に食料を貰うのではなくて、分ける側になるのも王族として立派な行いになるんじゃないか?」


「……なら、君は腹を空かせて前戦に立てと言うのか? それは愚かな行為だ。君は何も食わずして、まともに戦えるとでも思っているのか?」


「思ってないさ。やり方はともかく、ヘンリーに食料を貰ったおかげで、あの馬鹿みたいに暑い洞窟の中で戦えたんだ。感謝してるよ」


「だったら、やはりオレが正しいではないか」


「でも、村の人に申し訳ない気持ちになった。だってそうだろ? 護るべき人達から何かを奪うなんて、そんなの全然正しくない。少なくとも俺はそう思うし、そんな風に誰かから何かを奪う“英雄”になんてなりたくない」


「……君は甘いな。何かを得る為には多少の犠牲はつきものだ。それがたかが食料で済むのであれば、気にする必要なんて無いだろうに」


「それは違う。たかがじゃない。人は食べないと死ぬんだ。ヘンリー、お前がやったのは、生きる術を取り上げた行為なんだよ」


「話にならんな。食料如きで大袈裟すぎだ」


 ヘンリーはそう言うと、俺に背中を向けて歩き出した。

 どうやら、もう俺と話をする気は起きないらしい。

 ここで下手に食いついても話がこじれるだけなので、俺はその背中を黙って見送った。


「あの王子しゃんは、本当にベルしゃんのお兄しゃんでしゅか? とても兄妹とは思えないでしゅ」


 ヘンリーの姿が見えなくなると、アミーが呆れ顔でぼやいた。

 アミーのぼやきにはニクスも同意して、同じ様に呆れた顔して「ホンマやで」と頷くので、そんな二人に俺は苦笑した。


「ごめんな、ニクス。ヘンリーが失礼な事を言って」


「なんでヒロが謝るん? ヒロは関係無いやん」


「んー。まあ、一応あいつ友達だしさ」


「あんなんと友達思てるん? 絶対向こうは思ってへんよ? やめとき」


「ははは。実際どうなんだろな? まあ、でもさ。ヘンリーはヘンリーなりにこの世界を救いたいって必死なんだろうし、空回りしてるだけだと思うんだよな」


「そうでしゅねえ。空回りの域を越えてましゅけど」


「あんた等大人やなあ。ウチはそんな風には考えられへんわ」


「何度も言いましゅが、あたちはこう見えてもれっきとした大人でしゅ」


「俺は大人なんじゃなくて、ニクスが怒ってくれてるから、おかげで冷静になれてるだけだな」


「もしかして、ウチ口説かれとる?」


「でしゅね」


「おい。なんでそうなるんだよ?」


「ニクスの存在が俺を冷静にしてくれるんだぜ。とか言ってるでしゅ」


「なんで含みのある言い方に変えてんだよ」


「ごめんなさい。ウチ、ヒロはタイプやないんよ」


「なんで俺フラれたの? 微妙に傷つくからやめてくれない?」


 っつうか、最近この流れ多すぎないか?

 マジでなんなんだ?


「それより、色々聞きたいんやけど、メレカさん達とは洞窟で合流できたんよね? 村の人等も石になったまんまやし、どないなっとるん? なんやよう分からんけど、代わりに変なのも増えとったし、あれって魔族やろ? 捕虜にでもしたん?」


「ああ、そうか。そう言えば、まだ話してなかったな」


「そうでしゅね。あの馬鹿王子のせいで忘れていたでしゅ」


 帰って来て早々に揉め事に遭遇して、ついうっかり忘れていたが、俺達は目的に失敗して戻って来てしまった。

 なんとも情け無い話だが、ニクスに洞窟内で起きた事やドレクの事を説明する。

 そして、今更ではあるが再会の挨拶を交わした。

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