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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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17話 VS宝鐘の守り人にしてイカレたロック野郎ドレク

「何で宝鐘の守り人が魔族と手を組んでんだよ!?」


 宝鐘の守り人と名乗ったドレクに俺が驚いて訊ねると、ドレクは腕を組んであごを上げ、鼻で笑ってからニヤリと笑む。


「組んじゃいねえZE。魔族を利用してやったのさ。俺のハートはインフィニティだ。でも、それだけじゃあロックは語れねえ。英雄、てめえの言いてえ事は分かるZE。確かに奴等はクレイジーだ。触れりゃあ、火傷じゃすまねえ。だがな、俺のハートにクールは似合わねえ。だから、俺はなったのさ。俺自身も魔族になって、世界に俺のロック魂の情熱(ソウルスピリット)を刻む為!」


「……お、おう?」


 ロックと言いながら何故かラップ調で話すドレクに、俺は困惑して汗を流す。

 そして、困惑したのは俺だけでなく、俺の背後にいるベル達もヒソヒソと話しだした。


「め、メレカ。結局、宝鐘の守り人は何で魔族になったのかな?」


「申し訳ございません。私には、あの者の言葉の解読が出来ません」


「なんだかおかしな人が出て来ちゃいましたね~」


「にゃー? フウフウに似てるにゃ」


「うぇー? 私ゃあんな意味不明な言語は喋りませんよぅ」


「この方、頭を何処かでぶつけたのではなくて?」


「ハバネロしゃん、あの人は素でアレでしゅ。関わらない方がいいタイプのアホでしゅ」


 背後でベル達が言葉を交わす中、一人だけ、ドレクの言葉を理解した猛者がゆっくりと歩き出す。

 そしてその猛者は右手にカスタネットを装着し、ドレクの前に躍り出て、カスタネットをターンっと鳴らした。


「さっきの魔族は村の皆を石にしたんだよ。それなのに自分の欲望に負けて、それを無視して魔族になるなんて、そんなの全然ロックじゃないよ!」


「――っ!?」


 ドレクはみゆの言葉を聞くと、驚いた顔で両膝をつき、がっくりと項垂れ顔を俯かせる。

 そして、みゆは戦いを終えた戦士の様な勝ち誇った顔で、ドレクに背を向けて歩き出した。


「お兄ちゃん、今がチャンスだよ。今の内にキルしちゃいなYO」


「キルしちゃいなYO、じゃないだろ」


 このドレクと言う少年が本当に宝鐘の守り人だと言うなら、どちらにせよ殺すわけにはいかない。

 宝鐘の在り処を聞き出す必要だってあるし、魔族を利用したと言っているのだから、ちゃんと守り人としての役目を果たす気でいるのかの確認もしたい。

 項垂れているドレクに視線を向け、妙に気まずい空気を感じながらも、とりあえず話しかける事にした。


「あのさ――」


「認めねえ」


「――ん?」


「認めねえ!」


 ドレクが顔を上げて、鋭く眼光を光らせて立ち上がる。

 そして、ドレクの頭上に魔法陣が浮かび上がった。


「俺は宝鐘の守り人二代目ドレク! 世界中の奴等の魂にロックを刻むスピリットハート! ロックも分からねえガキに、言い負かされる程、俺のロックは落ちぶれちゃいないZE! 来い! 俺のソウルフレンド!」


 次の瞬間、ドレクの頭上の魔法陣から燃え盛る何か……恐らくエレキギターが出現し、ドレクがそれを掴んで音を鳴らす。


「残念だったな! 俺のロックは止められねえZE!」


 ドレクがみゆに指をさし、みゆがジト目をドレクに向ける。


「お兄ちゃん、あの人きっと都合の良い事しか考えない頭の悪い人だよ。とりあえずロックって言っとけば良いみたいな」


「お、おう。って言うか、どっちにしろ一度黙らせた方が良いな」


「うん。男の子だけど、わからせちゃおう」


「ん? 男とか関係あるの――――かあ!?」


 不意に俺の目の前に電気を帯びた綱が舞った。

 俺は驚きながらもみゆを抱えてそれを避け、その綱の出所を探る。


「――な! あいつの能力スキルか!」


 電気を帯びた綱の出所は、ドレクの腕。

 ドレクの腕から綱が何本も生える様に出現して、それが電気を帯びて生き物の様に宙に漂っていたのだ。


 俺は直ぐにみゆを降ろして、ドレクに向かって駆けだす。


「来いよ英雄! 俺の能力スキル痺れ綱(ロックバインド)】で、てめえのハートにもロックを刻んでやるZE!」


「いらねえよ!」


 念の為に魔力を見る目を一度使い、魔力の流れを視認する。

 ただ、見る必要も無かった。

 雰囲気から分かる事だが、このドレクと言う奴は裏が無い。

 燃え盛るギターは魔力で出来た炎の塊だし、電気が流れる綱には魔力が微塵も交ざっていない。

 とにかく素直に見たまんまの攻撃だった。

 とは言え、それで優しくしてやるなんてつもりは無い。


 ドレクを拳の間合いに入れ、顔面に向かって拳を振るう。

 だが、そう簡単に殴らしてはくれない。

 電気の綱が目の前に飛び出し、俺はやむなく拳を引っ込めて後ろに下がった。

 すると今度は、魔法陣が俺を囲むようにして幾つも浮かび上がる。


「いくZE! バーストヘブン!」


 瞬間――魔法陣から炎の塊が飛び出し、直後に爆発。

 それは、周囲に影響を及ぼす程の高威力だった……が、問題は無い。


 俺は直ぐに絆の魔法を発動させて、それ等を全て無力化する。

 そして、直ぐにドレクに再び近づき、その顔面を思いっきり殴り飛ばした。


「――ぶがは…………っ!」


 ドレクは吹っ飛んで壁にぶつかって地面に倒れる。

 すると、さっきまでそこら中を漂っていた電気の綱もサッと一瞬で消えていった。


「ヒロくん、殺しちゃったの?」


「してない。あいつは魔族だから、死んだらヒビ入って爆発するしな」


「あ、そっか。じゃあ……」


「気絶しただけだな。とにかく、さっさと洞窟を出て、目を覚ましたら色々聞き出そうぜ」


 結局メドゥーサは逃がしてしまったし、今後の事をマジで考えないといけない。

 ただ、今はまず脱出だ。

 みゆのおかげで完全に暑さはどうにかなったが、それでも、溶岩と隣り合わせなこんな場所とはさっさとおさらばしたい。

 マジでいつ何が起こるか分からないし、早く外に出て落ち着きたい気分だった。


「この洞窟の中にも楽器魔法があるみたいだから、わたし、ピアノを取って来るね。お兄ちゃん」


「は? 待て待て、危ないだろ」


「大丈夫だよ~」


「そう言えば、みゆちゃん洞窟に入ってからずっと言ってたもんね。私も一緒に行くよ」


「では、私もお供いたします」


「そうですねん。結局このまま戻っても、ついて来た意味が無いですし、私も協力しますよん」


「ニャーも行くにゃ。不完全燃焼気味にゃ」


「あたちはパスでしゅ。もうさっさと出たいでしゅ」


「あたくしも早く外に出たいわ。ヒロ様、一緒に早く出ましょうよ」


「いやいや、妹を置いて出られるかよ。ハバネロはアミーと二人で行ってくれ」


 こんな洞窟はさっさと出たい所だが、みゆが残るってんなら話は別だ。

 大事な妹をこんな危険な場所に残して帰るなんて出来るわけが無い。

 だが、その妹のみゆに、何故かジト目で睨まれる。


「お兄ちゃんは来なくて良いよ。そこで気絶してる変な人も一緒に外に連れて行かないとなんでしょ? あみーお姉ちゃん一人にさせるの?」


「そんなわけないだろ? こいつも一緒に俺が連れてく」


「だったら尚更だよ。わたし、その人と一緒にはピアノを取りに行きたくないもん。手に入れる瞬間に暴れられたらどうするの?」


「う…………た、確かにそうかもだが……」


 みゆの言っている事は最もだ。

 ルシファーって奴が音魔法を使えるみゆを狙っているみたいだし、そんな奴と関わりのあるドレクを、楽器魔法を手に入れる瞬間に立ち会わせるわけにはいかない。

 だが、それでも兄としては譲れない気持ちがある。

 どうしたものかと頭を悩ませると、ベルが真剣な面持ちで「ヒロくん」と話しかけてきた。


「みゆちゃんの事が凄く心配な気持ちは分かるよ。だから、みゆちゃんの事は私に任せて? 絶対何があっても護るから」


「ベル……」


「そうですね。姫様、それに私がいます。ヒロ様は安心して、宝鐘の守り人と名乗るこの男を連れて行って下さい」


「…………分かったよ。それじゃあ、みゆの事は頼む」


「うん」


「はい」


 みゆの事は心配だが、今はベルとメレカさんを信じる事にした。

 それに、既にこの洞窟内には魔族はいないし、そこまでの脅威はないだろう。


 俺は屈んでみゆと目線を合わせ、みゆの頭を撫でて微笑む。


「気をつけるんだぞ?」


「うん!」


 みゆが元気に返事をして、俺達は微笑み合った。







 楽器魔法“ピアノ”を手に入れに向かったみゆと別れて暫らくして、俺とアミーとハバネロはようやく洞窟を抜けだした。

 外は既に暗くなっていて、随分と長い間あの溶岩ひしめく洞窟内を歩き回っていた事が直ぐに分かる。


「外の空気が滅茶苦茶うまいでしゅー」


「ホントな。みゆと別れた後は、またハバネロの持って来てくれた魔石で暑さを耐えてたし、マジで格別だな」


「これでやっとゆっくり出来ますわ~」


「ったく、根性の……ロック魂の無い奴等だぜ」


「「…………」」


「って、いつの間に目を覚ましてたでしゅか!?」


「へへ。この俺、宝鐘の守り人二代目ドレクがまさかあんなにあっさり負けるなんてな。お前のロック……いや、兄貴のロック、俺の魂で受け取ったZE」


「人の話聞いてないし、滅茶苦茶意味わかんない事言ってるでしゅ!」


 アミーの魔法で鎖を出して、ドレクを縛って拘束していて逃げられる心配は無いので、とりあえずドレクを地面に投げる。


「いってえ。兄貴、もう少し優しく扱ってくれよ」


「誰が兄貴だ」


「兄貴が怒るのも無理はねえ。だけど、俺は兄貴のロック魂に痺れたんだ。俺が探し求めていたのは、兄貴だったって気がついたんだZE!」


 ドレクが俺に向かってウインクする。

 正直気持ち悪いと思ってしまった。

 と言うかだ。

 俺にロック魂なんてものは無い。


「ヒロしゃん凄いでしゅね~。今度は男にモテてるでしゅ」


「まあ! そうなの!?」


「嬉しくねえしそんなんじゃねえだろ、これ。っつうか、あのな? ドレク、お前さ。よく分からんが、ロックロック言うわりには尻軽すぎないか? さっきまで魔族と手を組んでただろ?」


「だから手を組んでないって言ってるだろ兄貴。俺は確かにロックにゃクレイジーだが、魔族と組むなんてクレイジーな事はしねえ。いかしたロックで龍族の存在をアピールする為に、魔族になってロック魂をマックスに上がらせただけだZE」


「えーと……つまり? 滅んだと思われてる龍族の存在を広げたかったって事か?」


「その通りだZE、兄貴」


「凄いでしゅね~、ヒロしゃん。流石は兄貴でしゅね」


「だから兄貴じゃねえよ。っつうか、それなら宝鐘の在り処とか、守り人が英雄に告げる言葉とかも、ちゃんと言ってくれんだよな?」


「そんなの当たり前だZE。俺のロックは包み隠すなんて事はしねえ。ハートを揺さぶり、魂をスパークさせ、溢れ出すパトスをロックに刻むZE!」


「や、ヤバいでしゅ。もう何言ってるか分かんないでしゅ」


「奇遇ね。あたくしも田舎のなまりは詳しくないの」


「訛りってレベルじゃないでしゅよ……。て言うか、これって会話が成り立っているでしゅか?」


 アミーの言いたい事は本当によく分かる。

 正直俺も分からん。

 とは言え、分かった事はある。


「俺達を襲った理由、それから、お前の知ってる宝鐘の守り人としての情報を話してもらうぞ」


「オッケー、兄貴! ロックに乗せてハートに響くソウルを刻むZE!」


「どうでも良いけど、いい加減その兄貴ってのやめてくれないか?」


「あれは、俺がロック魂を世界に広げる為に、人里に向かった時さ。人里で……」


 分かった事……それは、こいつも人の話を聞かない馬鹿で、真っ直ぐなアホだと言う事だ。

 っつうか、何処から話すつもりなんだこいつは……? と、縛られたまま語り始めたドレクに、俺は思わずため息を吐き出したくなった。


「ヒロしゃん、これ、何処から本題に入るでしゅ?」


「俺に聞くなよ……」

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