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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第1章 異世界召喚
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11話 魔人イポスとの死闘

※今回もベル側の三人称視点のお話です。

 あとがきで魔族の情報を載せています。

 興味のある方はどうぞです。



「――メレカ!」


「先程の質問、元魔従(まじゅう)。とだけ言っておきましょうかー」


 メレカが大量の血を流し、その場で倒れてしまった。

 イポスはそこへ追い打ちをかける様に、魔力を集中してメレカを狙う。


「させない! ライトニードル」


 咄嗟に魔力を集中し、ベルが放った魔法が光速で飛翔してイポスを襲う。

 だが、イポスはそれを軽く避けてしまった。

 でも、ベルの狙いは魔法を当てる事では無い。

 イポスが魔法を避けている間に、ベルはメレカに駆け寄った。


「姫様、申し訳ございま……せん……」


「酷い怪我。早く治療しないと!」


 ベルはメレカの傷口に杖をかざし魔力を集中して、魔法陣を浮かび上がらせる。


「キュアライト」


 魔法陣から光の粒子が飛び出して、メレカの傷口を包み込んだ。


「姫様いけません……。私など構わず……ぉ……逃げくだ……」


「だめだよ! そんなの絶対だめ!」


「しかし……」


「大丈夫だから!」


「姫様……」


 ここで逃げたら絶対に後悔する。と、ベルは封印の儀式を失敗した日の事を思い出していた。

 後悔しか残らなかったあの日。

 今でも、魔人を目にしただけで怖く震える程のトラウマを植え付けられてしまった。

 イポスを見た時からそうだった。

 本当はあの時の記憶が甦って、恐怖で震えが止まらないのだ。

 どれだけ震えるなと自分に言い聞かせても、そんなもので恐怖が拭えるわけがないのだ。


 それでも、それでもだ。

 もう二度と大切な誰かを置いて逃げるなんて、大切な人を自分の無力で失うなんて、ベルは絶対にしたくなかった。

 だからこそ、ベルは絶対に大切な人を、姉の様に慕っているメレカを置いて逃げたりはしない。

 例えそれが愚かな行為だとしてもだ。


「ほー。わたーしと言う敵が目の前にいるというのにー、呑気にお話とーは、随分となめられたものであーる」


 イポスが一瞬でベルに接近し、流れる様に斬りかかる。

 しかし、その斬撃は大きくくうを斬り、からぶった。


「――なにっ!?」


 イポスは驚き、ベルとメレカのいた所を確認する。

 避けられたと思ったが、確かにそこには間違いなく二人の姿があった。


 二人の姿を確認し、戸惑うイポスのを見て、ベルが声を出さずに思考する。


(何とか時間は稼げそうだけど、きっとそんなにもたないよね? せめてメレカの傷が回復できるまでもってくれれば良いんけど……)


「スティレットダークネス」


 イポスが魔法を使い、闇の小剣が視界に映るベルとメレカを襲う。

 だが、ベルとメレカをすり抜けて、背後の壁に突き刺さった。


「残像……? どういう原理かは分かーりませんがー、少々厄介な魔法を使いまーすねー」


 イポスは呟くと、魔従の姿から魔人の姿に戻った。

 そして、小剣を天井にかざし、イポスを中心にして魔法陣を大量に浮かび上がらせた。


「良いでしょう。それなーらば、わたーしにも考えがあーる。これーを受けーなさい。スティレットダークネス」


 次の瞬間、大量にある魔法陣から闇の小剣が飛び出して、それが全方向に勢いよく飛び散った。


「――っ! ウォールライト!」


 ベルが魔法を唱えたその時、誰もいないはずの場所に光の壁が現れ、イポスの魔法を防いだ。

 そして、ベルとメレカの姿がその場に現れる。


「見つけたのであーる。首を刈らせて貰うのであーる」


 イポスは二人の姿を確認すると、ベルに向かって走り出す。

 そして、あっという間に接近して、小剣でベルの首を切り離そうと振りかぶる。

 だが、ベルも直ぐに杖を構えて、迎撃態勢をとっていた。

 しかし、最悪な事態が起こった。


「ライトニードル! ――そんな! 魔力切れ!?」


 そう。

 魔法を唱えるも、使用していた魔石の魔力が切れてしまい、魔法が発動しなかったのだ。

 だと言うのに、ベルの首を狙うイポスの小剣は、既にその首を刈ろうと振られてしまっている。 


「させないと言った! ブレイドウォーター!」


 イポスの小剣がベルの首に届く手前で、メレカの出した水の刃が小剣を止めて弾いた。

 そして、メレカは更に手の平をイポスに向けて、魔法陣を浮かび上がらせる。


「スプラッシュ!」


「――っ死にーぞこないが!」


 魔法陣から魔力を帯びた大量の水が飛び出してイポスを襲う。

 だが、イポスはこれを両腕で受け止めダメージを減らす。


「その死にぞこないに手こずるなんて、マヌケな魔族もいたものね!」


 続けてメレカが追い打ちで水の刃で斬りかかるが、それも小剣で受け流された。

 しかし、イポスも虚を突かれた為か、後方に下がってベルとメレカから距離をとった。


「良かった、メレカ。もう動けるのね?」


「はい。心配をおかけして申し訳ございませんでした」


「姫様、あの魔法(・・・・)を使う為の弓は生成可能でしょうか?」


「え? うん。それだけなら詠唱に時間が少しかかっちゃうけど、出せると思う」


「では、詠唱を始めてください」


「駄目なのメレカ。もう魔石の魔力を使い果たしちゃって、今の私じゃ……っ!」


 二人が話している途中で、イポスが再び攻撃を仕掛けて来た。

 そしてそれを、メレカが水の刃で受け止める。


「やはりマヌケな魔族の様ね! こんな事では、誰一人殺せないのでは?」


「何をするつもーりか知りませんがー、あなーたの先程からの態度は、少々不愉快であーる! 先に殺してあげまーす!」


「望む所よ!」


 メレカの水の刃とイポスの小剣が何度もぶつかり合う。

 しかし、互角では無い。

 イポスが優勢で、メレカはギリギリの所で攻撃を受けていた。

 そしてそんな中でも、メレカはイポスの攻撃を防ぎながら、視線を向けずにベルに向かって声を上げる。


「姫様! 私を信じて詠唱を始めて下さい!」


「あなーたに喋ってる余裕なんてー、無いのではありませんかーっ?」


 イポスがニヤリと笑みを浮かべる。

 そして次の瞬間、メレカは先程斬られた脇腹をイポスに蹴られて、真横に吹っ飛んだ。


「ぁぐ……っ」


 蹴られた反動で傷口が開いてしまったが、メレカは何とか痛みに耐えて、転倒せず地に足で踏みとどまる。


「メレカ!」


「私は大丈夫です! 姫様、早く詠唱を!」


「……わかった! メレカを信じる!」


「お願いします!」


 ベルは杖を構え、魔法の詠唱を始めた。

 イポスは何かをするつもりだと言うのに気が付いているが、よっぽどメレカを先に殺したいようで、ベルの事は放っている。

 それを後づけるかのように、イポスが余裕の笑みを見せて口を開く。


「何を企んでいるか知りませんがー、既に魔法が使えなくなった巫女姫にー、何が出来るのであーる? 無駄な事だと分かーらないのですかー? しかしー、それもあなーたを殺して、お終いにであーる」


 イポスの言葉、それは、メレカの計画通りであった。

 メレカはベルが魔法を使えなくなった時、瞬時に計画を考えた。

 それは、とある事の為に、ベルから意識をこちら側に完全に向けさせると言うもの。

 そしてそれは見事に成功して、詠唱を続ける無防備なベルを、イポスは見向きもしなかった。


 メレカとイポスがお互い走り出し、刃を交わす。

 だが、やはりメレカは押されている。

 何とか斬撃を受けきれてはいるが、壁際まで追い込まれてしまった。


 メレカは自分の体力が、限界を迎えているのを感じていた。

 開いた傷口からは血が流れ、頭が朦朧としている。

 最早まともに戦えるような状態では無かった。

 そして、魔力すらも限界を迎えて、水の刃を保つ事すら出来なくなってしまった。

 ベルの前では平静を装ってはいたが、本当は今直ぐ倒れてもおかしくない程にボロボロだったのだ。


「そろそろ終わりにするのであーる」


 最早抵抗する力が残っていないだろうと、イポスがニヤリと笑みを浮かべる。

 そんなイポスにメレカは近くにあった石を拾って投げるが、避けられるまでもなく、それは別の場所へと飛んでいった。


「おやおーや。それがあなーたの全力でーすか?」


 想像以上にボロボロのメレカの行動に、イポスは愉快そうに笑った。

 そして、そんなイポスに向かって、メレカは力を振り絞って小杖を振るうが、軽々と避けられて反撃で傷口を蹴られて吹っ飛ばされてしまった。


「ぐぁっっ……っ」


 メレカは吹っ飛んだ先で地面に倒れ、立ち上がるだけの力も無くなってしまった。


「さあ、とどめであーる! わたーしとここまで戦えた事に敬意を払いー、無残な死を贈るのであーる」


 イポスは再び魔従化し、牙と両足に魔力を集中させる。


「食い殺してあげましょー! キルバイト!」


 次の瞬間、イポスの牙が闇に包まれ、音速とも思える速度でイポスがメレカに接近する。

 しかしその時だ。


「――っ!?」


 イポスの背後に強大な魔力が発生し、イポスはそれに気が付き振り向いた。

 そして、イポスが振り向いたその先にいたのはベルだった。

 杖を光の弓の形にし構えたベルが、もの凄い魔力を光の矢に集中させてそこに立っていたのだ。


「シャイニング――」


 神々しいまでに輝く魔法陣が、光の矢の先でゆっくりと回転しながら浮かび上がっている。

 それを見て、その膨大な魔力の量を見て、その凄まじさにイポスの思考が一瞬だけ停止する。


「しまっ――」


 直ぐに我に返ったイポスは逃げようとしたが、もう遅い。


「――アロオオオオオオオォォォォッッッ!!」


 瞬間――膨大な魔力を含んだ光の矢が光速で放たれ、周囲の地面や壁や天井などを削り取りながら飛翔し、イポスを貫く。


「ぎぅぉおおおおぉおおぉぉっっっ!!」


 イポスは体に風穴を開け、血反吐を吐き散らした。

 光の矢はイポスを貫いた後も威力がおさまらず、そのまま洞窟の壁に大きな穴を開けたて、光の粒子となって消えていった。


「ば……馬鹿な。何故巫女がこれーほどの魔力を……?」


「これだよ」


 ベルはイポスに見える様に、光の属性の宿った魔石を見せた。


「それ……は…………?」


「純度の高い光の魔石だ」


 そう答えたのは、メレカだった。

 メレカはフラフラな足で立ち上がって、イポスにゆっくりと近づいて行く。


「気が付かなかったの? 先程いた場所。あそこは最初にお前が膝で私を蹴り飛ばした所よ」


 イポスはその場所に視線を向ける。

 そして理解した。

 そこが自分がベルやメレカと戦う前に、魔石を掘り起こしていた場所だと。


「……まさー……かっ!?」


 そう。

 メレカが壁際に追い込まれたその場所は、最初に膝を腹部に食らって打ちつけられた場所でもあった。

 そしてそこには、イポスが掘り起こした魔石が転がっている。

 メレカはその場所で、純度の高い光属性の魔石を見つけていたのだ。

 そして、追い込まれるフリをしながら、その場所まで行って拾った。

 あの時当たらなかった石は魔石で、当たらなかったのではなく、ベルに投げていたのだ。

 ベルは魔法を詠唱する事により矢を放つ為の弓を出現させて、メレカから魔石を受け取り、魔法を完成させたのだ。


「わたー……しは…まんまと――」


 最後の言葉を言い終わる前に、イポスは力尽きる。

 そして、魔従と化したイポスの全身が、骨を残して煙を上げながら溶け落ちていった。


「勝った……の?」


 ベルはイポスの最後を見届けると、緊張が解けて、足の力が抜けて崩れる様に地面に腰を落とした。


「姫様、お疲れ様です。く……っ」


 メレカがベルに近づき、そこで、限界が訪れてその場で膝をつく。


「メレカッ」


 ベルはメレカの体を急いで両手で支えた。


「お手間をかけさせてしまって、本当に申し訳ございません。私なら大丈夫です」


「大丈夫なんかじゃないよ!」


 ベルはそのままメレカを抱きしめる。


「良かった。メレカが死ななくて……本当に良かった」


「姫様……」


 メレカはベルの温もりを感じながら、優しく微笑む。

 そして、弱々しくだが、力いっぱいベルを抱きしめ返した。


「ふふ。姫様を置いて、死んだりなんてしませんよ」


「うん。うん……」


 ベルとメレカは、強く、強く抱きしめ合った。


 今後は、あとがきを使って倒した魔族などの情報を載せます。

 よろしければ見て下さい。


【魔族紹介】


 イポス

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 人型

 魔法 : 闇属性


 何故か魔石を採掘していた魔人で、魔人ネビロスの部下。

 元魔従で、魔従の姿に戻って身体能力を向上させる事が出来る。

 動きが速いのが特徴で、魔従になれば更にスピードが増す。

 ただ、魔従になると魔法の威力が下がる欠点があり、それに加えて本人は醜い姿だと嫌っているので、基本は魔従の姿にはなりたがらない。

 戦闘中はその場の状況によって姿を変える為、それなりに戦い辛い敵ではある。

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