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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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11話 メドゥーサの居場所

「って事は、ナオと何人かの村の人は無事なのか」


「でしゅね。それから、ベルしゃんやみゆしゃん達はここにはいないから、石化もしてないでしゅ。だから、そこは安心するでしゅ」


「そうか」


 人の話を全く聞かないハバネロの婚約発言の後に、ウクレレで再会したアミーから、俺が都市ヴィオラに向かってから後の事を聞いた。

 それで分かったのは、この村に来たのがアミーとナオとランとピュネちゃんの四人だけで、昨日この村に到着していたと言う事。

 それからベルの兄であるアベルは左足を石にされて、クラライト城で休養中で、セイは石化していると言う事。


「でも、本当にヒロしゃんが来てくれて良かったでしゅよ。無事と言っても、ナオしゃんは昨日の戦闘で負傷して、今は安静の状態なんでしゅ。だから、あたちがこうして村の様子を見に来たんでしゅが、その甲斐があったってもんでしゅよ」


「この村を襲った魔族……ゴルゴン三姉妹の三女のメドゥーサってのは、そんなにヤバい奴なのか?」


「そうでしゅね。ナオしゃんとピュネしゃんが協力して、最初はそれなりに戦えていたでしゅ。でも、ピュネしゃんが逃げ遅れた人を庇って石にされてしまって、それからは殆ど一方的になったでしゅ」


「逃げ遅れた人?」


「あ、言って無かったでしゅね。昨日あたち等がここに着いた時は、村の彼方此方に村人が残っていたでしゅよ。でも、理由はメドゥーサに奴隷の様に扱われていてって状態だったでしゅ」


「それで助けに入ったって事か」


「でしゅね。でも、村人を逃がす時に地震が起きて、それで村人の何人かが悲鳴を上げたんでしゅよ。それでメドゥーサにバレてそのまま戦闘に入って、結果は惨敗でしゅ」


「そうか。だけど、よく逃げられたな。ナオが安静の状態って事は、かなりヤバい状況だったんだろ?」


「それは運が良かったんでしゅよ。追い詰められていた時に、ルシファーの配下のサタナキアが来たんでしゅ。それで、ゴルゴン三姉妹の次女エウリュアレーが死んだという報告を聞いて、メドゥーサが戦闘をやめてどっかに行ったんでしゅ」


「なるほどな。って事は、今この村にメドゥーサがいないのもそれが理由か……」


 と言う事は、つまりは俺がエウリュアレーを倒した事で、ナオとアミーが助かったと言う事だ。

 それには俺達の会話を黙って聞いていたハバネロも気がついた様だ。


「アミーは私のヒロ様のおかげで助かったのね」


 誇らしげな表情でハバネロが話して、アミーもその意味を理解した。


「ヒロしゃん、もしかしてエウリュアレーを倒したんでしゅか?」


「ああ。かなり苦戦したけど、ヴィオラで戦ってきた」


「そうだったんでしゅね。流石はヒロしゃんでしゅ。でも、そうなると厄介な事になりましゅね」


「厄介な事? どう言う事だ?」


「メドゥーサが去り際に、長女のステンノーを連れて、エウリュアレーを殺した奴を殺しに行くって言ってたでしゅ」


「……って事は、メドゥーサがヴィオラに向かった可能性があるって事か!?」


「まだ分からないでしゅが、可能性はありましゅね。どうしましゅ?」


「どうするって、戻るしかないだろ」


「分かったでしゅ。でも、先にナオしゃんのいる避難場所まで一緒に来てほしいでしゅ」


「ああ。先を急いだ方が良いとも思うが、ナオの状態も気になる。案内してくれ」


「了解でしゅ」







 すっかり存在を忘れていたヘンリーと合流してから、アミーの案内でナオや村人達が避難している場所へとやって来た。


 そこは、村の近くにあった山の洞穴で、森の木々に囲まれた場所だった。

 確かにここであれば隠れるには持って来いだろう。

 ここにいる村人の数は、たったの八人程度の両手で数えれる人数。

 やはり石化していた村人が殆どで、助かったのはごく一部の様だった。


「ヒイロー!」


 洞穴の中に入ると、直ぐにナオが俺を見つけて飛び込んできた。

 俺はナオに抱き付かれてバランスを崩して倒れそうになったが、なんとか踏ん張って事無きを得る。


「にゃ? ベルっちとみゆみゆ達は一緒じゃないにゃ?」


「ああ。実はベル達とは――」


「なんなの貴女? 私の婚約者に馴れ馴れしいわね」


「にゃー?」


 俺に抱き付くナオを引き剥がし、ハバネロがナオを睨み見て、ナオは首を傾げて目を合わす。


「誰にゃ?」


「誰ですって? まあまあまあ! なんて礼儀知らずな子なの? 私はカイズナー公爵家のハバネロよ。貴女ね、その格好からするに随分と身分の低いご家庭で育っている様だけど、礼儀くらいはしっかりしたらどうなの?」


「にゃー? ニャーはこれでも村長の孫にゃ。偉いにゃ」


「村長? ナオさんと言いましたっけ? どこの田舎村の村長のお孫さんかは存じないけど、カイズナー公爵の娘である私にそんな態度をとるくらいだもの。その村の村長もたかが知れているわね」


「にゃー!? ヒイロなんなんにゃこいつ! 爺ちゃんの悪口は許さないにゃ!」


「落ち着けナオ。ハバネロも俺の仲間とその家族を侮辱しないでくれ」


「あらやだわ、私ったら。ごめんなさい、ヒロ様」


「ニャーはこいつ嫌いにゃ」


 ナオとハバネロが睨み合う。

 そんな二人を見ながら、俺はナオは王族の血が流れているとは言わないんだな、などと呑気に考えた。

 と、そこで、ヘンリーがナオに布を一枚被せた。


「ハバネロ、君も公爵家のご令嬢なら、ナオの格好を見て気付くべきだな」


「ヘンリー様?」


「彼女は魔族に襲われたのだ。卑しい魔族達によって服を脱がされ、余程怖い目にあったのだろう。ヒロに出会った早々に抱き付くなどと言うはしたない行為が、それを物語っている証拠だ」


「――っまあ! なんて事……。私とした事が、嫉妬のあまりそんな簡単な事も分からないなんて。ごめんなさいね、ナオ。貴女の気持ちを少しは考えてあげるべきだったわ」


「にゃー?」


 なんかよく分からんが、ヘンリーとハバネロは勝手に解釈して勝手に納得する。

 ナオは首を傾げていたが、俺はもうこの二人の事を考えるのはやめた。

 何を言っても話を聞かないし、自分達の世界に入り浸ってしまう。

 話すだけ無駄なのだ。

 因みに、いつも通りナオはサラシとスパッツだけの格好なので、勘違いされても多少は仕方が無い。


「ヒロしゃん、この二人と一緒にいると疲れないでしゅか?」


「そうだな」


 コソコソと話しかけてきたアミーに頷き、とりあえず気持ちを切り替える。

 話が変な方向へと流れているが、今はこんな事をしている場合ではないのだ。


 ナオにヴィオラでの事を話して、今からヴィオラに戻る事を告げると、ナオは首を横に振った。


「今は行く必要は無いにゃ」


「行く必要が無い?」


「何ででしゅか?」


「ニャーもベルっちと姉様ほどじゃないけど魔力を探知出来るにゃ。だから分かるのにゃ。メドゥーサの魔力は、今は山の中にゃ」 


「山の中……? マジでどう言う事だ?」


「にゃー。ここ等辺の山は殆どが火山で、大きな洞窟があるにゃ。そこにメドゥーサの魔力と、知らない魔族っぽい魔力が幾つかあるにゃ」


「あ、そう言う事か。そう言やナオは火の属性だから、魔力探知は熱で読み取るんだよな? だから火山の中だと読み取り易くて分かるのか」


「そう言う事にゃ」


「しかし、そうか。なら、こっちから仕掛けた方が良いよな」


「でしゅね」


「にゃー」


 火山の洞窟となると結構危険な感じがするが、これは攻め時だ。

 そこでメドゥーサを倒せば、石にされた人達も助けられるし、ヴィオラを再び戦場にせずに済む。

 チャンスと言っても良い状況だ。


「ほう、君は魔力を読む力まであるのか。ふっ。良いだろう。君もオレの仲間に加えてやる」


 ヘンリーの虚言が再び始まり、俺は「またか」と心の中で呟く。

 正直言って、今はヘンリーに構っている場合ではない。

 とりあえず無視して話を進めたい所だが、ヘンリーの事を全く知らないナオが首を傾げて反応を見せてしまった。


「にゃー? なんの話にゃ?」


「君も知っている通り、オレはクラライト王国の第二王子ヘンリー=クラライトその人だ。封印の巫女である妹ベルに代わり、英雄ヒロと共に魔族の討伐をしているのだ。そしてその崇高な目的を果たす為に、ナオ、君を仲間にしてやろう」


「いらないにゃ」


 即答である。

 と言うか、流石はナオ。

 自分の気持ちに嘘をつかないその心持ちは、例えこの世界の最大国家の王子相手であろうと変わらない。


「ふっ。戸惑う気持ちは理解出来る。だが、自分の気持ちに嘘をついてはいけないな。魔族と戦ったと言う君は、オレと共にありたいと願っている」


「全然思ってないにゃ。それよりヒイロ、メドゥーサを倒しに行くなら、ニャーも一緒に行くにゃ」


「お、おう。っつうか、安静にしてるって聞いたが、寝てなくて平気なのか?」


「ヒイロが来るまで寝てたから、もう元気にゃ! このままやられっぱなしでは終われないにゃ」


「そうか。まあ、あんま無理はするなよ?」


 ナオの頭を撫でると、ナオは気持ち良さそうに「にゃー」と返事をしながら尻尾をピンと立たせた。

 すると、煩い二人がグイグイと近づいて来た。


「ヒロ様、良ければ私の頭も撫でて下さっても良いのですよ? さあ、どうぞ!」

「恥ずかしがりやだね、ナオ。やはりオレとヒロの仲間になりたかったんだな!」


「二人ともモテモテでしゅね~」


 俺とナオに迫る面倒臭い二人。

 アミーは距離を置き、俺達を関わり合いたくないと目で語りながら見つめている。

 なんと言うかまあ、本当に先が思いやられるこの状況で、俺は果たして魔族とまともに戦う事が出来るのだろうか?

 ため息を出したくなるくらいには不安だ。


 とは言え、前に進まなくてはいけない。

 俺はナオとアミー、それから来るなと言っても聞かないヘンリーとハバネロを連れ、村人達をヘンリーとハバネロの騎士と侍女に任せて火山の洞窟の中へと向かった。

 そして………。


「あっっっつ!! マジで暑いぞ! 何だここ!?」


「にゃー。サラシとスパッツも脱ぎたい気分にゃ……」


「それは絶対したら駄目でしゅって、何脱ごうとしてるでしゅかああ!?」


 洞窟の中に入った瞬間にムワァっときた熱気に当てられ、魔族の許に辿り着く前から、俺達の体に疲労が押し寄せ始めてしまっていた。

 あまりの暑さにヘンリーは入って早々にバテて、既に疲労困憊(こんぱい)で言葉すら出てこない。

 意外にもハバネロは暑さには強いのか、ナオより平然とした顔だったが、それでも無駄に体力を使わない為に口数は減った。

 そう言うわけもあり、ハバネロにヘンリーの事を任せて、俺達は洞窟の奥へと進む事にした。




 火山の洞窟の名は“ピアノ”。

 幾つもの火山が連なり、とても長い年月をかけて出来た長く大きな洞窟で、この国が出来る前からあるいにしえの遺産。

 洞窟内には楽器のピアノを演奏している様な音色が聞こえるが、その正体は風のふき抜け音。

 風に乗って熱気が流れ、執拗に体力を奪うこの洞窟は、進むとなれば想像を絶する過酷を披露する。

 暴獣が多く生息し、溶岩が日常的に噴き出す危険な地。

 洞窟の奥には聖獣が住みついていると、ウクレレに住む村人達が口を揃えて語る聖地。


 人が長居するには好ましくない熱気漂うこの洞窟で、俺達の長い一日が始まりを迎えた。

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