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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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8話 戦場の都市

 ゴルゴン三姉妹の次女エウリュアレーとの戦いは、益々激化する。

 エウリュアレーの刃となった髪の毛は伸縮自在。

 そしてそれは鞭の様な動きを見せ、不規則な動きで襲いくる。


「くっそ。読みづれえ!」


 幾つもある髪の刃の動きはかなりのスピードで、動きが全く読めない。

 右腕を失っている以上、それ等を左腕だけで防ぐか、あるいは避けるかしか出来ない。

 しかも俺は右利きだったから、どう転んでも失った代償は大きかった。


 だが、読み辛いなら読まなきゃいい。

 防ぐのも避けるのもこのままではらちが明かないので、思い切って突き進む事にした。


 危険は承知だ。

 体が多少斬られようが構やしない。

 俺は左拳に能力スキルを集中して、一気に駆け抜ける。


「――進んで来た!? 来るなああ!」


 エウリュアレーの髪の刃の鋭さが増し、更にスピードも跳ね上がる。

 だが、俺は怯まず突き進み、全身に切り傷を作りながらエウリュアレーの目の前まで辿り着く。

 そして、エウリュアレーのみぞおちを狙って、拳を振るった。


「なーんちゃって」


「――っ!?」


 瞬間――とんでもない重力の波が押し寄せた。

 気が付けば俺は地面に這いつくばる様に倒れていて、そして、気がついた時には宙に浮かび上がった。


「重力を乗せた蹴りをお食べ」


 ヤバ――


「――がっぁ……っ!」


 宙に浮かんだ俺はエウリュアレーの蹴りを腹に食らい吹っ飛んだ。

 その威力は尋常では無く、俺は吹っ飛びながら血反吐を吐く。

 そして、吹っ飛んだ先にあった建物を幾つも破壊して、最後は民家の外壁に背中を打ちつけて路上に倒れた。


「いってえ。今までの魔族の非じゃねえぞあいつ……」


 まずは立ち上がり、体の調子を確認する。

 とりあえず意識はある。

 足もまだちゃんと動く。

 腹は……考えたくもない痛みがする。


 次に周囲を確認して、状況のヤバさにため息を吐き出したくなった。

 周囲にはまばらではあるが人がいた。

 吹っ飛んできた俺に全員が注目して、なんだどうしたと騒いでいる。

 壁に大穴を開けてしまった建物からも、驚いた様子で何人かが俺を覗き見ている。

 叫び声は今のところないが、時間の問題かもしれない。

 唯一の救いは、恐らくではあるがまだ負傷者が出ていないと言う所だ。

 だが、このままだといずれ巻き込んでしまう。


「みんなここから離れろ!」


 とにかく離れてもらうしかないと思い、一先ず叫んだ。

 だが、まだ危機感を持ってない人達に叫んだところで、なんの効果も無かった。


「くそっ」


「可哀想。だ~れも言う事を聞いてくれないわね」


「――っぐぁ!」


 完全に不意を突かれた。

 頭上から声が聞こえて、その直後に重力で地面に叩きつけられてしまう。

 しかもその重力の範囲は広範囲で、俺の側にいた無関係の人までが数名それを食らってしまった。

 俺ですら抵抗できない程の重力なのに、一般人が食らって無事で済むはずがない。

 食らった人達はこの重力に耐えられずに、声を上げる事もなく意識を失った。

 そして、この状況になって、ようやく事態のヤバさに気がついて、それを見ていた人達が悲鳴を上げて逃げ出した。


「煩いわ。全員殺して黙らせようかしら?」


「さっ……せるかっよおおおおおおお!」


 俺は気合で立ち上がり、宙に浮いていたエウリュアレーに向かって跳躍。

 だが、重力が消えたわけでなかった為に大したスピードが出ず、再びエウリュアレーから蹴りを腹に食らわされた。


 再び吹っ飛んだ俺は大きな通りまで吹っ飛ばされて、道を抉って倒れる。

 そこは人の往来が激しく、道のど真ん中だった。

 そんな所に吹っ飛んできた俺に、注目が集まらないわけが無い。

 どよめきの声が飛び交い、野次馬が集まり出した。


 血反吐を吐き出しながら立ち上がると、次の瞬間、俺が吹っ飛んできた方向から真っ黒な何か……魔力の塊が大量に飛んできた。


「全員伏せろおおおおお!」


 瞬間――魔力の塊がこの大通りに到達し、それが所構わず破壊していく。

 俺は能力スキルと絆の魔法を駆使して、人に直接被害が及ぶものを相殺していった。

 しかし、護れたのは人だけだ。

 そこ等中の物がそれによって破壊されていき、一部の建物は倒壊し、瓦礫の山が積み上がる。

 悲鳴や逃げ惑う人々が現れ、大通りは混乱の渦へと陥れられた。


 くそっ。

 最小限に防げたと思いたいが――


「庇いながら戦うのって、大変そうね」


「――――っく」


 突然背後にエウリュアレーが現れ、再び蹴りを入れられる。

 だが、何度もそれを食らってやるつもりは無い。

 こっちも警戒は怠っていない。


 背後に現れ蹴りを繰り出したエウリュアレーに振り向き、俺も蹴り返す。

 俺の蹴りとエウリュアレーの蹴りがぶつかり合うと、そこから衝撃が発生して大気が揺れた。


「それなりに痛いのを食べさせてあげたのに、まだ動けるのね?」


「痛いのは慣れっこなんでな」


 一言だけ言葉を交わすと、エウリュアレーが髪の毛を再び刃に変えて鞭の様に振るう。

 しかも、今回は範囲も広い。

 俺だけを狙ってくれれば良いものの、そこ等中を無差別に所構わず切り刻んでいく。

 それだけじゃない。

 重力がここ等一帯を支配し、ある程度遠くに離れていた逃げている人達まで巻き込んだ。

 しかもそんな中で、髪の刃だけでなく、エウリュアレーが俺に蹴りを何度も繰り出す。


 最悪な状況だ。

 巻き込まれた人達を助けたくても、重力で体を重くされ、その上で怒濤に襲いくる複数の髪の刃と連続蹴り。

 助けに向かう余裕なんてあったもんじゃない。


「動きが鈍いわね。重力に逆らうのは辛いでしょ?」


「余っ裕!」


 苦し紛れに言い返すが、もちろん余裕なんてない。

 だが、それでも俺は、エウリュアレーの攻撃を解決する糸口を考えた。


 エウリュアレーの能力スキルは、思い出の肖像(メモリアルストーン)とか言う石化攻撃だ。

 そして、問題はこの他にも能力スキルの様なものを持っていると言う事。

 髪の毛を伸ばして刃に変えて、鞭の様に振るって攻撃をするこれも、普通に見たら能力スキルにしか見えない。

 更に、重力を操るなんて、どれだけ能力スキルが使えるんだと言いたくなる。

 だが、俺は思った。

 本当にこれ等が全て能力スキルによるものなのかと。


 そう思った俺は、ふと、ある事に気がついた。

 そして、魔力を見る目を使って、ようやく一つの答えが出た。


「頑張るのね。諦めて死ねばいいのに」


「やだね!」


 直後、俺は重力から逃れ、一気に加速。

 突然加速した俺に驚いて隙を見せたエウリュアレーに、拳を叩き込んだ。

 だが、やはり一筋縄ではいかない。

 エウリュアレーに拳が命中し、吹っ飛ばせはしたが大きなダメージは与えれていない。

 寸でで髪の毛でガードされたし、吹っ飛んだのも僅か数十メートル程度。

 致命傷には全然至っていなかった。

 しかし、それだけで十分だった。

 何故なら、俺の気付きが当たっていたと言う事だからだ。


 俺が気付いた答え。

 それは、魔法陣無しの無詠唱で強力な重力の魔法を使われていたと言う事。

 恐らく、俺は今までエウリュアレーの作戦に引っかかっていた。

 俺が重力の魔法が魔法だと思わなかったのは、一番最初に鋼鉄の雨を魔法で出された時に、大量の魔法陣を見たからだ。

 エウリュアレーは大量の魔法陣がある中で髪の毛を広げて空中で停止する事で、それが重力の魔法によるものだと言う考えを捨てさせたのだ。

 実際に俺はそれを見て、宙で停止したアレを魔法だと思わなかった。


 ただ、髪の刃は魔法とは関係なく、重力の方と違って絆の魔法で相殺は不可だ。

 これだけは原因不明で、元々エウリュアレーが能力スキルや魔法に関係なく使えるものと認識した方が良いかもしれない。

 とは言え、それも絆の魔法で重力を防げるなら、そこまで脅威にならない。

 余裕……とまではいかないが、いくらでもやりようがある。


 しかし、そんな時だ。

 ようやくまともに戦えると思った矢先に、まさかの人物が現れて声を上げる。


「これはどう言う事!? これは貴方がやったの!?」


「――っハバネロ!?」


「何とか言いなさい!」


 ハバネロは重力によって地面に倒れる人々の近くに立っていた。

 ただ、既に俺が重力を相殺しているので、ハバネロにその影響は出ていない。

 そして、エウリュアレーを吹っ飛ばしたから、ハバネロからは見えていないのだろう。

 倒れた人々の中心に俺がいるもんだから、勘違いして俺を睨んだ。


「知り合い?」


「――しま――――っ」


 次の瞬間、ハバネロが宙に浮き、エウリュアレーに引き寄せられる。

 ハバネロの登場で完全に油断していた俺は、それを防ぐ事が出来なかった。


 エウリュアレーは引き寄せたハバネロに魔法で鎖を出して手足を縛り、地面に叩きつけた。


「きゃあああ!」」


「あら? さっきの悪運の強いお嬢ちゃん。へえ。どうりで――」


「な、何が起きてるの!? あ、貴女は先程のっ! 分かったわ! 貴女がこれをやったのね!? 離して!」


「はあ、煩い。まあ良いわ」


 ハバネロが怒鳴る中、エウリュアレーが面倒とでも言いたげな表情で呟き、俺に視線を移した。

 そして、ニヤリと笑みを浮かべて、ハバネロの口に鎖を出現させて縛り黙らせて、宙に浮かせた。


「ねえ、この子を殺されたくないでしょう? だったら、分かるわよね?」


 ニコリと笑みを浮かべるエウリュアレーは、刃に変えた髪の毛の切っ先をハバネロの首元につけた。


「動くなって事か」


「正解。やっぱり人質は知り合いを選ぶのが一番よね。見ず知らずの誰かなんて、見捨てられる可能性があるもの。その点、このお嬢ちゃんは貴方と知り合いなんでしょう? なら、人質としての価値がある。そう思わない?」


「…………」


 そんなもの、知り合いだとか関係ないと否定してやりたかったが、質問には敢えて答えない。

 嘘を言って肯定しても状況は変わらないし、否定すれば人質が増えるだけで状況が悪化するかもしれないからだ。

 それに、あと一つ、答えない理由があった。


 俺が何も答えないのを肯定だと捉えたのか、エウリュアレーは「やっぱりね」と笑みを浮かべた。

 すると、どうやらハバネロは正義感のあるご令嬢な様で、俺と同じ事を思ったのだろう。

 エウリュアレーのその言葉を否定しない俺を睨んできた。


 こりゃあ、後で怒鳴られるかもな。


 そんな事を思いながらも、集中し、能力スキルを発動。

 一瞬でエウリュアレーに近づき、拳を振るった。


「馬鹿ね。人質がいるのよ?」


 エウリュアレーがハバネロを目の前に出し盾にして、俺の拳はハバネロに直撃。

 ハバネロは俺の拳をまともに食らってしまい、そのまま意識を失う……なんて事にはならない。

 なんせ、俺はこれを予想していたからだ。


 とは言え、正直言って助かった。

 万が一にも接近した事で、ハバネロの首を斬り落とされていたら不味かった。

 だから、これは一種の賭けだったのだ。

 さっきの質問に答えなかった俺が、人質がいるのに攻撃を仕掛けた事で意味がうまれる賭け。


 その賭けとは、エウリュアレーがハバネロを人質としてどう扱うかだ。

 肯定も否定もしていない俺を相手に、エウリュアレーは人質であるハバネロをどう扱うか判断が難しくなった。

 俺が攻撃を仕掛けた時に動くなと言って殺す素振りをしても、俺が言う事を聞かずに自分に害を及ぼすなら、人質としての意味が無い。

 殺す暇があったら、生きたままハバネロを盾にした方が、まだ使い道はあると言うものだ。

 何故なら、もし俺が関係無いと演じていた場合でも、ハバネロには攻撃を出来ないし、攻撃してもハバネロがそれ受けるだけで自身は護れる。

 だからこそ、まんまと俺の作戦に引っかかったエウリュアレーは、どちらに転んでも自身を護れる盾と言う選択を選んだ。


「悪いな。最初から人質狙いだ」


 俺の拳はハバネロの体ではなく、ハバネロを縛り付けている鎖を砕いた。

 更に絆の魔法も使ったので、ハバネロを拘束していたものは全て解除されて、俺はそのままハバネロを引っ張って抱き寄せる。

 そして、抱き寄せた事で髪の毛の刃も首から離れて、ハバネロを完全に人質として利用できなくした。


「あ、貴方……最初からあたくしを助ける為に…………?」


「賭けだったけどな。だから、それは謝る。ごめんな。でも、無事で良かった」


 驚いた顔で質問したハバネロに答えて笑顔を向ける。

 すると、ハバネロは顔を俯かせた。


 やっぱり怒られそうだな、こりゃあ。

 まあでも、それはこれが終わってからだ。


 俺はエウリュアレーから距離をとり、ハバネロを離して、再び集中して一気に駆けだした。


「調子に乗らないでほしいわね、英雄さん!」


「今は乗りたい気分だね!」


 直後にエウリュアレーの重力が周囲を押し潰し、周囲にあった建物を巻き込んで倒壊させて、それが原因で火の手が上がる。

 重力に巻き込まれた人々が悲鳴を上げ、次々と倒れていく。

 エウリュアレーの攻撃は重力だけではない。

 同時に髪の毛の刃が伸びて俺を襲い、多少避けはしたが横腹をざっくりと斬られた。

 だが、俺は駆ける速度を落とさず絆の魔法を使って重力を無効化しながらも、防御は完全に捨てて突き進む。

 この程度の大怪我なんて、真っ二つにされた時と比べれば可愛いもんだ。


 内臓まで届いていそうな傷だったが、かえってそれが功を成す。

 全く怯まず突き進む俺にエウリュアレーが怯み、一瞬の隙を作った。


「いい加減にしろよ」


 怯んだ隙に一気に間合いを詰めた俺は、静かに告げて、次の瞬間にはエウリュアレーの首元を殴って飛ばした。


 エウリュアレーは地面を弾む様に吹っ飛び、最後には大きく弾んで仰向けで倒れ、全身にひびが走り出す。

 すると、エウリュアレーは起き上がりながら、全身がひび割れていくのを見て震えながら頭を抱える。

 次第にひび割れた場所から黒紫色の光を放ち出すと、エウリュアレーは「いやああああ!」と叫び出した。

 そして……。


「う、嘘よ。こんな――」


 それを最後の言葉にして、エウリュアレーは爆散して死亡した。

 俺はそれを見届けて、何となくだが、罪悪感の様なものを感じた。

 だが、それでも後悔はしていない。

 エウリュアレーは間違いなく人に害を与えていたし、この戦いでも、無関係の人をかなり巻き込んだ。


 でも、俺の力不足ってのもデカいよな。

 ホント、何やってんだよ、俺。


 エウリュアレーによって出た被害は大きく、彼方此方から悲鳴が聞こえる。

 せめて被害が少しでも抑えられる様にと、俺は気持ちを切り替えて救助に向かった。


【魔族紹介】



 エウリュアレー

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 人型

 魔法 : 闇属性上位『重力』

 サブ : 土属性

 能力 : 思い出の肖像(メモリアルストーン)


 それぞれが別々の石化の能力を持つゴルゴン三姉妹の次女で魔人。

 髪の毛を刃に変えて、鞭のように振るまう事が出来て、その原理は謎のまま倒された。

 魔法を魔法陣無しの無詠唱で使えるかなりの実力者で、ヒロが今まで戦ってきた魔人の中では格上の部類に入る。

 伸縮自在な髪の刃による剣戟と、蹴りによる肉弾戦を同時に行う戦いを得意としている。

 都市ヴィオラでは何を目的として動いていたのかは、ヒロが聞かなかったせいで不明だが、同時にヒロの妹のみゆを狙っていた模様。

 姉妹の中では一番好戦的で、人を騙して殺すのが趣味のヤバい奴。

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