表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
131/256

4話 五千年をかける少女

「う、う、う……うせやろ!? あんた等どんだけ強いねん!?」


 集落から数キロ離れた場所にあった廃墟にて、鳥人の少女ニクスが驚きの声を上げた。

 ニクスが視線を送っているのは、さっきまで魔従まじゅうだったドロドロの液体と、そこら中に転がっている有象無象な山賊や盗賊達。

 そして、物足りないとでも言いたそうなナオと、相変わらずなのほほん顔のピュネちゃん。


 俺とアミーは何もせずにニクスの隣に立っている。

 今回はピュネちゃんが戦闘に参加する証拠をと戦って、ナオは……まあ、ノリノリで戦っていた。


「滅茶苦茶弱っちいにゃ。本当に魔族にゃ?」


「あらあら。魔従オリアスはそれなりに実力を持ってるのだけど、ナオちゃんには物足りなかったみたいね~」


「なんちゅう子や。龍人のピュネちゃんはともかく、ナオまでこないに強いやなんて。魔族と戦える友達がウチにもおるけど、ホンマびっくりやわ」


 魔族と戦える友達と言うのが気になったが、何はともあれ、あっという間に事件は解決した。

 これでニクスも狙われる事はない……本当にないのだろうか?


 廃墟を出て、ニクスを家に送りながら、俺は疑問に思った。

 話によればニクスはフェニックスの弟子で、それが原因で魔族から狙われている。

 そうなると、さっきの連中を倒したところで、きっと次が来る。


「なあ、ニクスの師匠のフェニックスとか言うのに、身を護ってもら――」


「アマンダさんやん!」


「――っ?」


 それは、ニクスがフェニックスの弟子だと言うなら、フェニックスに護ってもらう事が出来ないかと思い尋ねようとした時だった。

 ニクスの口から思いがけない名前が飛び出した。

 アマンダと言えば、メレカさんの本名のアマンダ=M=シーのアマンダだ。

 とは言え、同名の場合もある。

 まさかな。と思いながらもニクスの視線の先を目で追うと、そこには間違いなくメレカさんの姿が。


 メレカさんもニクスの声が聞こえてこっちに振り向き、俺達を見て一瞬だけ驚いた顔をした。


「さっき言うとった友達のアマンダさんや」


 ニクスはそう言うと、メレカさんに手を振って駆け出した。


「メレカさんが言っていた知り合いって、ニクスの事だったのか……」


 まさかの真実に、俺は驚いて口を開けて立ち止まった。







 ニクスに会いに行ったメレカさん達は、ニクスが買い物に行って帰って来ていない事を両親から聞いた。

 直ぐに帰って来るだろうと家に上がって待たせてもらっていたが、帰りがやけに遅いもんだから、メレカさんが集落全体の魔力を探った。

 その結果、集落にニクスの魔力が無く、メレカさんはベルに念の為捜しに行って来ると言って家を出た。

 そうしてニクスを捜していた結果、集落から離れた場所にニクスや俺達の魔力を感じ取って、迎えに来たと言う事らしい。


 そんなわけで、メレカさんと合流した俺達は、結局はニクスの家におじゃまする事になった。

 と言うか、居間に通されたのは良いんだが、俺を含めて九人もいるものだから滅茶苦茶狭い。


「それにしても驚いたわ~。アマンダさんとフウさんとランさんのお仲間やったなんて、どうりで強いわけやわ~」


「ニクス様、先程申した通り、姫様とヒロ様の前ではメレカとお呼び下さい」


「あ、ごめんごめん。アマン……やなかった。メレカさんもおもろい人やなあ。別人みたいやん」


「……私は姫様のメイドですので、これが本来の私です」


 ニクスが楽しそうに笑み、メレカさんが少し困った様な表情を浮かべる。

 どうやら、メレカさんは俺達のいない所でアマンダと本名を名乗っていたらしい。

 聞けば、無関係の人達を巻き込まない様に、魔族達に封印の巫女と英雄の仲間だと気付かれない様にする為なのだとか。

 確かにその通りだよなと俺は感心し、真似しようと思った。

 やはり、自分が英雄だと言ってしまって関わらせて、巻き込むのはよくない事だ。

 何も知らなければ、巻き込む事も無いだろう。


「それよりもニクス様、魔族に狙われていると言うのは本当ですか?」


「せやな。ウチから師匠の居場所を聞き出したいみたいやな」


「なあ、ニクス。その師匠ってのに護ってもらえないか頼めないのか?」


「無理ちゃうかなあ。今はリュートに出かけとるみたいやし」


「リュート……? フェニックスってのは、リュートにいるのか?」


「せやな。師匠が先日ウチのとこに来てなあ。なんや知らんけど、リュートに行く言うて東に行ったで」


「ねえねえ、にくすちゃん。その師匠……フェニックスって、もしかして魔族?」


「は? おい、みゆ。急に何言ってんだよ。そんなわけないだろ」


「せ、せやせや。まままま、ま、魔族は五千年前に英雄たちに邪神と一緒に封印されたんや。魔族なわけないやろ。い、いややわあ」


 ニクスが分かり易いくらいに動揺し、みゆから視線を逸らす。

 汗も滅茶苦茶流していて、最早フェニックスが魔族だと言っているようなものだった。

 ニクスに質問したみゆもそれで察して、「やっぱりそうなんだ~」と笑う。

 次第に場の空気は静まっていき、気が付けば皆が黙る。

 ニクスに視線が集まり、観念したとでも言いたげな表情を浮かべた。


「みゆの言う通りや。師匠は魔人フェニックス。今はタイムって名前で人として暮らしとる。五千年前の戦いで、ウチのスキルで本質を人間に変える事で、封印から逃れたんや」


「「…………えええええええええっっ!?」」


 まさかのカミングアウトに、俺が、ベルが、一拍置いて大声を上げて驚いた。

 つまりニクスは五千年前の戦いを、直接見た事があってもおかしくない人物だったと言う事。

 と言うか、このまさか過ぎる事実はニクスの友人だったメレカさんとフウラン姉妹も知らなかったようで、思いきり驚いて言葉を失っている。

 アミーとピュネちゃんの二人はそれ程驚いた様子は無い。

 そして、みゆとナオは何やらおかしな方向で驚いている。


「にくすちゃんって、にくすさんだったんだ~」


「ピュネちゃんとあんまり歳が変わらなかったって事にゃ? 全然そうは見えないにゃ」


「そうなん? でも、ウチはわけあって五千年間ずっと眠り続け取ったんよ。おかげで最近目覚めたばかりで、ハッキリ言うて、この五千年で何があったかは知らんのや。五千年前の英雄と魔族の戦いの途中で眠ってしもたからなあ。目覚めてから師匠に色々聞いたけど、聞いただけやと実感わかんわ」


「って事は、ニクスの両親もって事だよな?」


「ちゃうちゃう。今のおかんとおとんは五千年前のウチの兄弟の子孫や。せやから、ウチは今のおかんとおとんの養子なんよ」


「それで迷惑かけたくなかったって事か?」


「その通りや。血は繋がっとるけど、それでも実際の子ちゃうやろ? せやのに、二人とも本当の娘みたいに大事にしてくれるんよ。ウチも今のおかんとおとんが大切なんや。頼むで、ウチが追われとる言う事は、二人には言わんといてな?」


「それは構わないけど……」


 だが、黙っておくにしても、やはり今のままだと不味い気がする。


「ニクスしゃん、質問してもいいでしゅか?」


「ええけど……そないな怖い顔して、どないしたん?」


 冷や汗を流して聞くニクスにつられて、アミーに視線を向ける。

 アミーは怖い顔……と言うよりは真剣な面持ちをしていて、そして何処か緊張をしている様子だった。


「ニクスしゃんは渡り鳥一族でしゅか?」


「せやな。ウチは渡り鳥一族のツバメの鳥人や」


「――っ」


 渡り鳥一族……それはフロアタムでピュネちゃんと再会した時に聞いた名前で、俺の右腕を治す方法を知っていると、ピュネちゃんは言っていた。

 まさかアミーの口からその名前を聞き、しかもニクスがそうだとは思いもせず、俺は驚いた。


「やっぱりそうでしゅか。五千年前、英雄たちとの戦いの最中に、魔族を裏切った魔人フェニックス。あの男には当時幼い鳥人の娘がいたと言われていたでしゅ。その娘が渡り鳥一族と聞いていたんでしゅ。まさか娘じゃなくて弟子だとは思わなかったでしゅが、ようやく合点がいったでしゅ」


「あ、そっか。アミーも五千年前の戦いの時にいたから、当時の事を知ってるんだ」


「はいでしゅ。当時あたち達魔族を苦しめたベルしゃんのご先祖とも、一応戦った事があるでしゅよ」


「な、なんやて!? どう言う事なん!?」


 今度はニクスが驚く番だった。

 アミーが魔族だとまだ知らせていなかったから、そりゃもう驚き方もかなりのもの。

 ニクスは近くにいたメレカさんに抱き付いて、アミーから隠れる様に背中に回った。


「そこまでビビらなくても良いでしゅよ。あたちは魔族だけど、今はこうして英雄と巫女の仲間でしゅ」


「そ、それならええけど…………英雄? 巫女?」


「はい。姫様が封印の巫女様で、ヒロ様が英雄様です」


「――――っっ!!??」


 最早声が出ないのだろう。

 ニクスはメレカさんの説明を受けると、大口を開けて体を硬直させた。

 それを見て、そう言えばそれも言って無かったな。と、俺は思ったが、正直それどころじゃ無い気分だった。

 なんせ、こっちはこっちで渡り鳥一族と言う事実にまだ驚いている。

 右腕を治すチャンスなわけで、どう切りだせばいいのかと悶々(もんもん)している。


「「ヒロ様、もしかしてご自分が英雄だって名乗ってなかったんですか?」」


「あ、ああ。自分から英雄だとか、そんな恥ずかしい事言えるわけないしな」


「「またまたご謙遜を~。ナオ様も何で黙ってたんですか? なんかおかしいと思いましたよ~。英雄に対して凄いフレンドリーに喋る子なんで、余程の大物だと思っちゃったんだぜい」」


「にゃー? 別に言う必要も無かったにゃ」


「そうでしゅね」


「うふふ。魔人フェニックスのお弟子さんと言うだけで、十分この子も大物だと思うわよ~。それよりニクスちゃん、一つ聞きたいのだけど、良いかしら~?」


「なんや? またウチを驚かす気なん?」


「うふふ」


 ピュネちゃんがのほほんと笑みをして、一度俺に視線を向けた。

 目がかち合うと、ピュネちゃんが何を尋ねようとしているのか直ぐに分かった。


 俺とピュネちゃんの様子に何かを感じ取ったのか、周囲が静まりかえって、ピュネちゃんに皆の視線が集まっていく。

 そしてそんな中、呑気に目の前に出されていた飲み物に口をつけるみゆとナオ。


「ヒロさんの無くなった右腕を元に戻す方法を教えてもらえますか~?」


「なんや、そないな事か。ええよ」


 ……っ!


 俺は驚き、耳を疑った。

 と言うか、滅茶苦茶あっさりと言うもんだから、一瞬了承を得たの分からなかった。


「でも、堪忍なあ。正確に言うと、実際にその腕をどうにか出来るんはウチやないんよ。ウチが知っとるのは、あくまでそれが出来る人を知っとるだけや」


「あらあら。そうだったのねえ。ごめんなさい、ヒロさん。少し勘違いをしていたみたいです~」


「いや、寧ろ代わりに聞いてくれて助かった」


「ね、ねえ。私……私達にもそのお話詳しく聞かせてくれるかな?」


「ん? ああ、そう言えば――って、うお! なんだこりゃ!」


 ベルに質問されて、俺は大惨事に気がついた。

 ニクスがあまりにもあっさりと即答して驚いたから気が付かなかったが、みゆとナオが飲み物を豪快に噴き出したようで、二人の目の前がびしょびしょになっていたのだ。

 メレカさんとアミーがそれをせっせと拭いたりしていて、なんだか申し訳ない気分になる。


「だって、いきなりお兄ちゃんの右腕が戻るとか話しだすんだもん。汚しちゃってごめんね、にくすちゃん」


「にゃー。ごめんにゃ~」


「気にせんでええよ」


「「それでヒロ様、その腕が治ると言う話、詳しく聞かせてもらおうじゃないかい」」


「――っ。お、おう……」


 元々俺の右隣に座っていたフウと、それに合わせて左隣にやって来たランからの、双子の美少女姉妹による耳元でのステレオ攻め。

 元々女性に免疫の無かった俺には中々の威力で、ビクリと体が震えてしまう。

 とは言え、ここで取り乱してはかっこ悪い事になってしまう。

 俺は平静を装い返事をすると、ピュネちゃんから“渡り鳥一族が右腕を治す方法を知っている”と聞いていた事を話した。

 すると、ピュネちゃんとアミーとニクス以外のこの場の全員から、盛大に苦言を言われてしまう。


「ヒロくん。私、頼りないかもしれないけど、そんな大事な事はちゃんと言ってほしいよ」


「全く、そんな重要な事を今まで隠していたなんて、ヒロ様は本当に駄目な方ですね」


「にゃー! それならそうとさっさと言ってほしいにゃ!」


「お兄ちゃんはそんなんだから甲斐性なしなんだよ」


「ヒロ様はもっと自分を大切にするべきです! 私の事を友人だと思って下さるなら、相談くらいして下さい!」


「どうせかっこつけて言わなかったんですよね?」


 皆の言葉……特に最後のランの言葉には言い返したい所だが、ここは何も言うまいと俺は口を紡ぐ。

 黙っていたのは本当の事だし、迷惑だってかけている。

 それに、本当に皆心配してくれていて、よく見ればランだって目が少し潤んでいた。

 どう考えても黙っていた俺が悪い。

 今度からは黙ってないで、皆にちゃんと言って相談しようと俺は反省した。


「黙っててごめんな。皆ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ