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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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3話 心優しい方言鳥娘

 王都フロアタムを出て、一先ずはクラライト王国のクラライト城を目指す事になった俺達は、獣人達が暮らす山のふもとにある集落へとやって来た。

 ここにはメレカさんとフウラン姉妹の知り合いがいるらしく、クラライトを目指すなら丁度通り道にある場所なのだとか。

 とは言え、俺達はのんびり出来ない旅の途中だ。

 最初は寄っていく予定は無かった。

 だが、メレカさんとフウラン姉妹の知り合いに会ってみたいとみゆが言いだして、それにベルが同意して立ち寄る事になった。


 集落に辿り着くと、各自自由行動となった。

 皆で行こうと言う話も出たには出たが、今、俺を合わせて九人もいて大人数。

 こんな大人数で押し寄せたら、流石に困るだろうと言う話になり、俺は遠慮してその辺で時間を潰す事にした。


「三人は向こうに行かなくて良かったのか?」


「今日はヒイロとずっと一緒にいたい気分にゃ」


「こっちの方がのんびり出来そうなので、気にしなくて良いでしゅ」


「私は見て回りたいと思っていたので、お構いなく~」


「そっか。じゃあ、のんびり見て回ろうかね」


 と、言うわけで、集落の中をナオとアミーとピュネちゃんの三人を連れて一緒に見物して回る事になった。

 集落はとても長閑のどかな雰囲気の場所で、畑が沢山あり、道の彼方此方あちこちには灯篭とうろうなんかも沢山あった。

 民家は一軒一軒がそれなりに離れた場所に並んでいて、言葉が悪いかもしれないが田舎に来たって感じがする。

 集落の外れの方まで行けば牧場があって、牛や豚や馬や鶏などの家畜がのんびりと牧場の中を歩いていた。


「のんびりしてて良い所だな。っつうか、灯篭なんて写真以外で見たの初めてだよ」


「ここ等辺では珍しいでしゅね。灯篭は確か東の国の文化でしゅ」


「へえ、そうなのか」


「にゃー? 写真ってなんにゃ?」


「俺の世界にある道具で、風景や人を撮って……って、ナオにもスマホの写真を見せた事あっただろ?」


「にゃー。そう言えば見たにゃ」


「スマホかあ……。この世界で充電出来れば良かったのになあ」


「この前みゆみゆが同じ様な事を言ってたにゃ」


「そうなの――っかあ!」


 不意に誰かが背後から俺にぶつかる。

 突然の事に驚いて、右腕も無いからバランスを崩して少しよろめいたが、とりあえず転ぶ事は無かった。

 だが、俺にぶつかった相手は豪快に転んで、尻餅をついて「いったあ」と尻をさすりながら立ち上がる。


「急にぶつかってしもてすまんなあ。お兄さん、ケガしいひんかった?」


 そう言って自分より俺の心配をしたのは、鳥の獣人の少女だった。

 歳はみゆと同い年くらいだろうか?

 紺色のおかっぱ頭で前髪が切り揃えられていて、まるで日本人形みたいな髪型。

 眉毛は少し太くて、パッと見は愛嬌のある顔立ち。

 服装はこの集落の民族衣装を着ていて、背中から翼を生やしていた。

 そして、その少女は俺の右腕を見て、顔を真っ青にさせる。


「う、ウチがぶつかって腕が外れてしもた!?」


「ないない。これは元からだから安心してくれ。それより、俺は大丈夫だけど、そっちの方が心配だ。転んだ時に怪我しなかったか?」


 逆に心配して質問すると、少女は少し驚いた顔をしてから笑みを見せた。


「元からなら良かったわあ。ウチはお尻をちょっと打ってしもただけやし平気や。お兄さんええ人やなあ。ウチからぶつかったのに心配してくれてありが――――」


「待ちやがれクソガキ!」


 不意に聞こえた大人の男の怒鳴り声。 

 その声に少女は体をビクリと震えさせて驚いて、声のした方へと視線を向けた。


 怒鳴り声を上げたのは中年くらいの男。

 そしてその男の他にも三人の中年男がいて、全員が剣を持っていた。


「――うわあ。もう来よったわあ。お兄さん、ほんまごめんなあ。ウチ急いどるから堪忍な」


 少女は両手を合わせて頭を下げ、直ぐに駆け出した。

 そして、駆け出した少女の後ろ姿を見て、少女の翼の羽に斬られた後が見えた。

 翼は痛々しく血に染まり、斬られて間もないのが見て分かる。


「ナオ」


「もう準備ばっちりにゃ!」


 次の瞬間、俺とナオが少女を追って来た連中に向かって駆けだし、一掃した。

 俺は左手で拳を作って殴り、ナオは己の爪に炎の爪を纏わせて斬り裂いたのだ。


 俺とナオの攻撃を受け止める事も避ける事も出来ない男どもが白目を剥いてその場に倒れていくと、逃げていた少女がそれに気付いて立ち止まり、大きく口を開けて目を瞬かせた。

 すると、いつの間にかアミーが少女に近づいていて、少女の背後に回って翼の傷をマジマジと見つめた。


「これは痛そうでしゅね~。バッサリいってましゅよ」


「――っ! な、なんやのこの子? いつの間にウチの背後におったん?」


「あらあら~。驚かせたら駄目ですよ、アミーちゃん」


「りゅ、龍人!? な、なんで滅んだはずの呪われた種族が来ないな所に!?」


「あら~? 龍人が呪われた種族だなんて、五千年ぶりに聞いたわ~。お嬢ちゃん、ただの鳥人ってわけでは無さそうね~」


 俺とナオが三人に小走りで近づいている間に、何やらよく分からない話が進んでいる。

 龍人が呪われた種族だなんて初めて聞いた。

 どう言う事だとピュネちゃんに視線を向けたが、ピュネちゃんはのほほん顔で微笑むだけだ。


「ま、まさかあんた等もウチから情報を聞き出しに来た連中なん? ええ人等と思うたらこれやなんて、今日は散々な一日やな」


「情報……?」


「とぼけても無駄や! ウチがフェニックスの弟子やから、どうせあんた等も不老不死の情報を聞き出しに来たんやろ!」


「フェニックスの弟子? 不老不死? なんの話だ?」


 意味が分からず聞き返す。

 すると、少女が俺の顔をじっと見つめて、更にナオとアミーとピュネちゃんの顔もじっと見つめた。

 そして、少女は首を傾げて少し何かを考える素振りを見せて、苦笑しながら頭をかく。


「なんやあんた等、ほんまになんも知らんみたいやなあ。うたごうて悪かったわあ。ごめんなあ」


「にゃー? 結局そのフェニックスとか不老不死ってなんの事にゃ?」


「それについてはウチからは何も言うたないし、ごめんやけど忘れてや。代わりに、助けてもろたお礼に、ご馳走するで許したってやあ」


「ご馳走にゃ!? 楽しみにゃ!」


「あ、名乗り忘れとったなあ。ウチはニクスや」


「ニャーはナオだにゃ」


「あ、あたちはアミーでしゅ」


「ピュネちゃんですよ~」


「俺の事はヒロって呼んでくれ」


 ニクスが名乗ったので、俺達も順番に名乗ったのだが、その時のアミーの様子が変だった。

 なんと言うか、こう……ニクスを警戒している様な、そんな感じがする。

 ただまあ、平静を装うとしている様なので、とりあえずは気が付かなかった事にしておく。


 自己紹介を終えると、俺達はニクスの家に向かって歩き出した。

 お礼のご馳走なんて俺個人はいらなかったが、ナオがその気なので仕方が無い。


 とは言え、これは良い機会かもしれない。

 そう思った俺は、ニクスを追いかけていた連中の事を聞いてみた。

 すると、ニクスは少し考える素振りを見せてから、眉根を下げながら微笑して「ええよ」と頷き、言葉を続ける。


「あいつ等は魔族に雇われた山賊と盗賊や。ウチの師匠の力を狙っとる。ウチが狙われとるんは、ウチの師匠の居場所を聞き出す為や。さっきは不意打ちを食ろうてしもて、背後から斬られたんや」


「あらあら。それは災難ね~」


「せやな。ホンマ、勘弁してほしいわ。今のとこはおとんとおかんが狙われん様にいとるけど、いつ嗅ぎつかれるかも分からへんやろ? なんとかせなあかんなとは思っとるけど、そう簡単にはいかんなあ」


「ニクスしゃんはご自身が魔族に狙われている事を、ご両親にはお話してないのでしゅか?」


「おとんにもおかんにも迷惑をかけたないんよ。せやからウチの両親はなんも知らん」


「相談した方がいいにゃ」


「気にせんといて。それより、そろそろウチの家に着く頃や」


 ナオが心配そうにニクスを見つめたが、ニクスはそれ以上は聞いてほしくなさそうに答えた。

 フェニックスの弟子だの不老不死だのと謎の多いニクスだが、もしかしたら俺達の事も両親同様に巻き込みたくないのかもしれない。

 ニクスの表情からは、そう言った感情が見えていた。

 そして、だからこそ見過ごしたくない。


「ニクスを狙ってる連中の居場所って分からないのか? 知ってたら教えてほしい」


「何言ってるでしゅか、ヒロしゃん。そんなの知ってるわけないでしゅ」


「知っとるよ」


「知ってるんでしゅか!?」


「捕まった時に逃げる経路を決めておいた方がええやろ? せやから、一度あいつ等が帰ってく時に、後をつけて行った時があるんよ」


「確かにそうかもだけど、度胸ありましゅね。普通は怖くて、自分を追いかけ回す連中の後なんて、ついて行かないでしゅよ」


「せやな。まあ、ウチも色々慣れとるんよ。でも、そないなもん聞いてどないする気なん?」


「殴り込みだな」


「なぐ……りこみて、何言うとんの?」


 ニクスの質問に即答すると、ニクスは目を瞬かせて驚いた。

 まあ、そりゃ驚くだろって話ではあるが、俺は本気だ。

 山賊や盗賊に狙われていて、しかもその背後には魔族がいるなんて聞けば、放っておけるわけが無い。


「にゃー。楽しそうにゃ」


「あらあら」


「発想が不良でしゅ」


「待たんかい。お兄さん達が強いのは、さっきの見たらウチでも分かる。せやけどな、相手は魔族や。あいつ等はホンマ最低最悪の極悪種族や。そないな極悪人どもがおる所になんて、絶対に行かせられへん。命を捨てに行かせるようなもんや」


「心配してくてありがとな。まあ、でも大丈夫だから教えてくれよ」


「何が大丈――っあ。分かった! 龍人のお姉さんがおるからやろ? 確かに龍人なら魔族と互角に渡り合えるやろなあ」


「にゃー? ピュネちゃんがいなくてもニャーだけで十分にゃ」


「下手に強いと自信過剰になって、そないな勘違いするもんが結構おるんもウチは知っとる。けどまあ、危ななったら龍人のお姉さんがおるし、大丈夫そうやな」


「にゃー……」


 いい子なのだろうが、その良さがかえって裏目に出ている鳥人の少女ニクス。

 ナオは信じてもらえない事に腹を立てると思ったが、尻尾をしおしおと垂れさせて眉根を下げて元気を無くす。

 しかしそれよりも、俺はアミーが魔族だと知られない方が良さそうだなと、内心少しハラハラしていた。


 話している感じで思うのは、魔族を完全に敵視していると言う事。

 まあ、当然っちゃ当然だし当たり前だが、だからこそアミーの存在は危険だ。


「よっしゃ。ウチも女や。山賊と盗賊を操っとる魔族のおる所まで一緒に行って、お兄さん達を案内したる」


「いや、流石に危険だからそれはいい。場所だけ教えてくれ」


「何言うてんの? ウチを助ける為に魔族を退治してくれるんやろ? せやったら、そんな血も涙もあらへん人でなし行為なんて出来るわけないやろ? ウチに任せとき」


 なんと言うか、両親に何も言わずにいるだけあって、中々に肝っ玉の据わった子だ。

 普通は自分を狙っている連中の許になんて行こうと思わないもんだが、後をつけて行った事があるだけあって、今回もニクスにはそれが当てはまらない。

 怯えている様子も全然見当たらず、足だって震えていないし、むしろ握り拳を作ってやる気に満ち溢れている。

 ここまでやる気になっているのだから、止めるのは野暮だろうと俺は判断し、案内を頼む事にした。

 それによくよく考えれば、側にいてもらった方が護れるし丁度良いだろう。

 ただ、それを思ったのは俺だけではなかった様だ。


「お兄さん、ヒロ言うたっけ? ヒロは右腕が無いみたいやし、危なかったらウチが護ったるで安心してええで」


 何故か護る対象のニクスにそう言われた俺は、本当にいい子だなと思いながら、苦笑して「ありがとう」とお礼を言った。

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