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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第4章 呪われし種族
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2話 大きな問題

 王都フロアタムに戻って来た俺はピュネちゃんと再会し、その後直ぐに再会したウルベ達に、三日前に魔人ヴィーヴルが現れた事を聞かされた。


 ヴィーヴルの名前を久々に聞いた俺は当然ながらに驚いたのだが、よくよく考えても見れば当然の事だった。

 すっかり忘れていたが、ヴィーヴルは戻って来ると言っていた気がする。

 まさか俺の留守中に来るとは思っていなかったし、存在すらも忘れていたわけだが、何はともあれフロアタムが無事だった事に安堵した。

 助けてくれたピュネちゃんには本当に感謝しかない。


「助けたと言っても、私は殆ど何もしてないですよ~。倒したわけじゃないですしね~」


「で、でも、ピュネさんがいなかったら、今頃みんな死んでました」


「ああ。ヴィーヴルはヒロがいない事にかなり腹を立てていたからね。暴れられる前に貴女が来てくれて本当に助かった」


「ピュネちゃん、俺からも礼を言うよ。ありがとな」


「いえいえ~」


 ピュネちゃんがフワフワした微笑みを見せ、俺はその微笑みと忘れていたと言うキーワードで、とある事を思い出す。


「そう言えば、バセットホルンの宝鐘ほうしょうの守り人が殺されていたから聞けなかったけど、宝鐘の守り人からは話が聞けるんだよな? この場合って、もう何も聞けなくなるって事か?」


 今更ながらに思いだしたのは、宝鐘の守り人から聞き出せる様々な情報。

 ウッドブロック大森林の迷いの森で宝鐘を護っていたピュネちゃんからは、害灰がいはいなどの事を聞いた。

 だから、本来は二つ目の宝鐘を手に入れた俺達は、何かの情報を聞けていた筈だった。

 宝鐘の守り人が殺されてしまった事で、それが不可能となってしまったわけだが、もしピュネちゃんから聞けると言うなら聞いておきたかった。


「あらあら。流石はヒロさん。そこに気がついちゃいましたか~。もちろん私が代わりにお伝えしますよ~」


「おお、助かる」


「でも、残念なお知らせがあります」


「残念……?」


「はい。実は~、オフィクレイドにいた守り人が伝える内容は、既にご存知の能力スキルについてなんですよ~」


「…………マジか」


「ただ~」


「ん? ただ?」


「それと同時に伝える事があったんです。能力スキルの事をご存知なので既に知っていたかもしれませんが、魔族は全てが転生者なんです」


「それって、ピュネちゃんが言ってた能力スキルを使えるものは転生者って話の延長みたいな事だよな」


「そうですね。でも、最近はそれも関係無くなってきているみたいですね~」


「関係無い?」


「はい。魔人ルシファー……彼が魔族化する薬を飲ませて回っているからです。困りましたね~」


 チーワは魔族に捕まっていた時に、ルシファーに薬を飲まされそうになったから、きっとその時の事を思いだしたのだろう。

 ピュネちゃんがルシファーの名前を出すと、チーワがピクリと震え、顔色を悪くした。

 すると、ミーナさんがチーワを気遣い、後ろから抱きよせる。

 本来であれば、王女相手に失礼になりそうな行為だが、今のチーワには家族がウルベしかいない。

 だから、身近にいるミーナさんが母親もしくは姉代わりとなって、こうして支えているのだろう。

 なんせチーワはまだ七歳の少女だ。

 こう言う愛情は必要な年頃なのだから。


「魔族が転生者……。もしその話が本当なら、父が生前に言っていた事もそう言う事なのか……?」


 不意にウルベがあごに手を当てて呟き、俺に真剣な面持ちを向けた。


「ヒロ。実はぼくの父、長老ダムルが魔族が復活する前に、一度妙な事を言っていたんだ」


「妙な事?」


「ああ。最近は魔族の様な民が少しずつ増えていると」


「魔族の様な民……って、そうか。能力スキルが使える奴がいるって事か」


「恐らく、父はその事を言っていたんだと思う。父はその後に、何かの前触れかもしれないと言っていたしね」


「前触れか……。確かにそれが魔族の封印が解かれる前だってんなら、その通りだったってわけか」


「そうだな。それでデルピュネーの言った魔族は転生者と言う言葉を聞いて思った事だけど、彼等は魔族になる薬を飲ませて、能力スキルを使える者を捜しているんじゃないか?」


「どう言う事だ?」


「魔人ルシファーと言う男が飲ませて回っていると言うその薬を飲んで、魔族になった者は元々その素質があった者……つまり、能力スキルが使える者だと思うんだ。そうやって仲間を増やして、何かを企んでいるかもしれない」


「だけど、それだと変だな。俺は魔族になった奴と戦ったけど、元々は能力スキルなんて持って無かったみたいだぞ」


「な、君は魔族になった者と戦ったのか!?」


「あれ? フウとランから聞いてないのか?」


「聞いてない。君が負傷したと最初に聞いて大急ぎでここに来たからね」


「はは。なんか悪いな」


「何を言ってる。当然だろう。……しかし、そうか。なら、ぼくの考えは間違っていると言う事になるね」


 ウルベはそう言うと、少し残念そうに尻尾を下げた。


 結局、ピュネちゃんから聞き出せた情報に大したものは無く、この日は旅の疲れを癒す為にゆっくりと休んだ。

 と言っても、右腕が無い俺はゆっくり休むにも一苦労で、ベルとメレカさんとフウに色々とフォローしてもらったわけだが。

 本当にかっこつかないなあと、ピュネちゃんの言っていた右腕を治す方法に、少しだけ心が揺らいだ。


「渡り鳥一族……か」







 王都フロアタムに戻った次の日。

 俺達が離れていたこの一ヶ月で起きているこの世界の情勢などの変化を、ウルベやミーナさんから教えて貰った。


 まずはこの王都について。

 丁度俺達がバセットホルンに向かった後、アミーの故郷でもあるドワーフの国から使者が来て、ドワーフ達と交流を始めたらしい。

 この世界で言う馬のギャロンを使った馬車が増えたのは、それが理由な様だ。

 と言うのも、この世界では魔石を使って動かす魔車ましゃが主流なわけだが、ドワーフの国では馬車が主流だったらしいのだ。

 魔車と違い馬車は維持費が非常に低く便利と言う事で、王都の復興で金の消費が非常に激しい現状で助かっているのだとか。


 次に、クラライト王国とバセットホルンの戦争の件。

 これは勿論白紙に戻った。

 まあ、この件はつい最近の事で俺も知っている事ではあるが。


 次に、セイからの連絡だ。

 クラライト王国に戻ったベルの近衛騎士であるセイは、今は第一王子……つまりベルの兄の許で国を護っているらしい。

 どうやら、クラライトの領内でも各地で魔族が暴れているらしく、それをベルの兄が騎士団体を連れて解決に向かって奮闘している様だ。

 ただ、やはり魔族相手に苦戦を強いられている現状で、魔族と戦う度に犠牲は出ていた。

 セイも現状では俺達と合流するだけの余裕が無いとして、ベルの兄の下で魔族と戦っている。

 この件に関しては、ベルよりもセイと婚約しているチーワの方が心配そうにしていた。


 そして、問題は東の国リュートだった。

 リュートでは今、大きな問題を抱えていたのだ。

 その問題とは……。


「東の国では、現在、謎の石化が人々の間で起きている」


「謎の石化……? 人が石になってるって事か?」


「その通りですわ」


「うわあ。コカトリスとかメデューサとかが出てきそう」


 流石はみゆ。

 完全にゲーム脳だ。

 ボソリと小さな声で呟いたから、他の皆には聞こえなかったようだが、俺の隣にいるから俺にはその声がしっかりと聞き取れた。

 ただまあ、「うわあ」と言いたくなる気持ちは分かる。


 人が石になるなんて、想像しただけで最悪な事件だ。

 みゆが好きなゲームなんかだと稀に見るイベントだが、実際に現実でそれを聞くと、不気味さが半端ない。


「気味が悪いな。被害の規模はどのくらいなんだ?」


「リュートに送った使者の話ですと、リュートの各地で人が次々に石化していますの。その原因は不明で、石化する時間や場所、それに石化する種族には何の一貫性もありませんわ」


「にゃー? どうせ魔族の仕業にゃ」


「恐らく君の言う通りだろうね、ナオ。だけど、それにしては広範囲で起きていて、しかもリュート領内のみで起きている事件だ。それに、石化の原因が魔法では無いようなんだ」


「魔法じゃないって事は、能力スキルか。つまり、同じ能力スキルを持ってる魔族がリュートの各地にいるって事になるのか?」


「可能性としてはゼロじゃない。だけど、あまりにも規模が大きすぎる。それに、不可解な事もある。何故かは分からないけど、町や村の全員が石化させられると言うわけでもなく、ある日突然誰か一人だけが石化するんだ」


「にゃー? 逆に面倒臭そうな事してるにゃ」


「本当にね。ぼくもそう思うよ」


 ナオがげっそりとした顔をして、ウルベが苦笑しながら同意する。

 ただまあ、放っておくわけにも行かない事件なのは間違いない。

 とにかくさっさと原因をと俺が考えていると、アミーが真剣な面持ちで口を開いた。


「ゴルゴン三姉妹でしゅ」


「ゴルゴン三姉妹? って、そうか。アミーは魔族だから、奴等の事を知ってるんだったな」


「あー。わたし知ってる。やっぱメデューサだあ」


「みゆしゃん、よく知ってたでしゅね」


「うん。たまにゲームで出て来るもん」


「ね、ねえ、アミー。私はよく知らないんだけど、そのゴルゴン三姉妹って人を石に変えちゃう力を持ってるの?」


 みゆがゲームとか言いだすから何の事か分からないであろうアミーが冷や汗を流すと、ベルが真剣な面持ちでアミーに質問して、アミーも再び真剣な面持ちになって答える。


「ゴルゴン三姉妹は三人とも別々の石化の能力スキルを持っていましゅ。広範囲の能力スキルを使えるのは長女のステンノーでしゅね。みゆしゃんが言った三女のメドゥーサと、次女のエウリュアレーでは無いと思うでしゅ」


「ちょっと待て。って事は、たった一人で国ごと能力スキルを使ったってのか?」


「そうなりましゅね。ステンノーは三姉妹の中でも一番力を持ってないけど、そのくらいは出来ましゅ」


「一番力を持ってない!?」


「にゃー? とんでもない奴が出てきたにゃ」


「何驚いてるでしゅか。ヒロしゃんにお熱だとか言うヴィーヴルしゃまと比べたら格下でしゅよ」


「――っな!? ヴィーヴルってそんなヤバい奴だったのか!?」


「当然でしゅよ。先日ここにヴィーヴルしゃまが来たみたいでしゅけど、デルピュネーしゃんがいなければ、この国は滅んでいたでしゅよ」


 この場の空気が沈黙に彩られる。

 確かにピュネちゃんがいなければとは思ったが、そこまでヤバい相手だとは思わなかった。

 正直、この王都を取り戻す時によく生き残れたなと、今更ながらに思えてしまう。


「でも、厄介でしゅね。ゴルゴン三姉妹がリュートに現れたなら、ルシファーしゃまが間違いなく絡んでましゅね。しかも本格的に何かを企んでましゅ」


「そのゴルゴン三姉妹ってのはルシファーと関係してるのか?」


「あたちはタイプではないので何とも思っていないでしゅが、あの方は女魔族から人気が高いでしゅからね~」


 アミーが馬鹿にした様な態度で喋り、それを聞いていたメレカさんが少しだけ顔を曇らせた。

 メレカさんから、妹のイザベラがルシファーに目の前で魔族にされたと聞いていたから、その時の事を思いだしたのかもしれない。


「お兄ちゃんと違ってイケメンか~」


「イケメンじゃなくて悪かったな」


 俺がイケメンでは無いなんて今更な話だ。

 とまあ、そんな事はどうでもよく、俺達の目的地が本格的に決まった。

 クラライトに一度立ち寄り、目指すは東の国リュート。


 話によれば、一万キロをも超える高い山がある高山地帯だ。

 地域によっては気温も高く火山なんかもあるらしいし、その逆で高い山はマイナスをいく気温の地域もあるようだ。

 それから、みゆが調べて分かった事だが、今まで以上に不思議な生物も沢山いるのだとか。

 そして、異世界ではある意味でお約束な文化もあるようだ。


「とにかく、リュートで起きてる石化事件を何とかしないとだな」

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