幕間 恋するうさ耳少女は想いを大切にしたい
※今回はフウ視点のお話です。
私の名前はフウ=フーラ。
海底神殿オフィクレイドでの戦いが終わり、水の都に戻って来た私達は、教会の宿舎で部屋を借りて暫らく過ごしていた。
そして、私は今、あの戦いを超える大きな戦いにぶち当たっていた。
「昨日捕まえた下っ端が言ってたのはあいつか……」
「そそそ、そうですねん」
ヒロ様の体が私の左腕に密着して、もう頭が破裂しそうなくらい緊張が止まらない。
私とヒロ様はシャーン海賊団の残党を捕まえる為に、地上の町のとある廃墟に潜入中。
今いるのは、とても狭い天井裏で、人がギリギリ二人一緒に通れる場所。
天井裏と言うのもあって建てる様な高さが無く、腹這いになって部屋を覗き見ている。
それで、右肩から腕を無くしているヒロ様をサポートする為に、ヒロ様から向かって右側にいるわけだけど……。
「ひ、ヒロ様、そんなにくっついて、その……か、肩は痛くないんですか?」
「え? ああ。なんだ、気にしてくれてたのか。どうりでさっきから様子が変だと思ったよ。ありがとな。でも、大分痛みは無くなったし、気にしなくて良いぜ。それより俺のサポートをする為に、こんな狭いとこまでつきあわせてごめんな」
そうじゃないんですごめんなさいー!
でも、私に気遣ってくれるヒロ様好き。
ヒロ様が申し訳なさそうに顔を向けて、顔が近くて幸せで死んじゃいそうな気持ちになる。
生きてて良かったー。
そんなわけで大きな戦いとは、ヒロ様と密接したこの状況で、如何に冷静を装えるかと言う修羅場なのである。
ドキドキが止まらなくて、心臓の音が聞こえてたらどうしようと焦って、更に鼓動が増してる気がする。
でも、ヒロ様とぴったりくっついてる今の状況が幸せすぎて拒みたくないし、私はどうすればあ……。
「お、全員集まったみたいだな」
ヒロ様が呟いた言葉で、私はハッとなって視線を部屋の中に向けた。
すると、ヒロ様の言う通り、部屋の中に海賊たちが集まっていた。
そしてもう一人、海賊には絶対に見えない十歳くらいの女の子が連れて来られていた。
「えーっと、なんだっけ? 証拠を掴めれば捕まえていいって話だったから、もう行っちゃって良いんだよな?」
「はい。ぶち殺して構わないかと」
「うし。じゃあ、ちょっくら暴れますか」
ヒロ様はそう言うと、天井を殴って壊して、そのまま部屋の中に突入した。
そして、私にサポートなんて全く何もさせる暇なく、あっという間に海賊達を全員気絶させてしまった。
「怪我はないか?」
「……うん、ありが……とう…………」
きゃー!
ヒロ様かっこいいいいい!
って、何を喜んでいるの私は!
しっかり騎士としての役目を果たさないと!
私は浮かれた気持ちに鞭打って、部屋の中に入って、気絶した海賊たちを縄で縛りあげました。
◇
「お兄さん、ありがとー!」
「じゃあな!」
海賊に捕まっていた女の子を無事にお家まで送り届けて、私はヒロ様と一緒に女の子と別れて帰路についた。
ヒロ様は流石みゆ様のお兄さんと言うだけあって、あの年頃の女の子の扱いが上手だった。
女の子も最初は怯えていたけど、ヒロ様のご活躍で、最後には笑顔でお別れしてくれました。
「ところでさ、あの時の返事なんだけど」
「――――っ!?」
んんんんんんんんっっっ!?
「しょしょしょ、しょれはもう終わった話ですし、も、もう気にしなくても」
「いや、それは流石にフウに悪いって言うか……。やっぱり、ちゃんと返事しとかないとって思っててさ。今回みんなも気を利かせて二人だけにしてくれたし、ちゃんと言わないとな」
「で、でも……あ。もしかして、みゆ様に言われたとかですか?」
「――っぅ」
適当にみゆ様の名前をだすと、ヒロ様が立ち止まる。
そして、冷や汗をかきながら頭をかき、気まずそうな視線を私に向けた。
「なんで分かったんだ……?」
みゆ様ああああああああっ!
みゆ様のお節介に頭を悩ませ、私は屈んで頭を押さえる。
すると、ヒロ様が心配そうに私の目の前に駆けよって、屈んで目線を合わせた。
「ご、ごめんな。本当はこれは言うなって言われてたんだよ。みゆが妹に背中押されなきゃ返事も出来ないなんてかっこ悪いからって。でも、なんかそれも違うなって思ってて、フウから聞いてくれて、つい言っちまった」
「いえ。それは別に気にされなくても良いです。それより……返事が…………」
「あ、ああ。そうだな。俺の返事は――」
「あああああああ! 駄目です! 言わないで下さい! 分かってるので!」
私は答えを聞きたくなくて、勢いよく立ち上がって大声を上げた。
だって、私は分かってる。
ヒロ様が誰を好きなのかも、ヒロ様が今は色恋沙汰をしている場合じゃないと言う事も。
それに、あの時の告白は答えを聞きたくて言ったものじゃない。
あんなにも仲の良い自分の妹にではなく、死ぬ前に最後に出た心の底から自然と出た好きな相手……ヒロ様にだからこそ出た言葉で、私の気持ち。
「でも、この気持ちは忘れないでくれると嬉しいかも……なんて思ったり……」
照れくさいと思いながらも自分の気持ちを伝えた。
ヒロ様はちょっと驚いた顔をしていて、私の顔をジッと見つめていた。
そんなに見つめられると困るけど、でも、ちょっと……ううん、凄く嬉しい。
私は驚いているヒロ様に手を伸ばして微笑む。
すると、ヒロ様は少し困り顔で微笑み返してくれて、私の手を掴んだ。
「ヒロ様、行きましょう」
「そうだな」
ヒロ様の手を引っ張って、ヒロ様が立ち上がる。
決して叶わない恋だとしても、私は今とっても幸――――っんんんん!?
不意に見えたヒロ様の背後の曲がり角の、そこから顔を覗かせるランとベル様とみゆ様の顔……顔…………顔おおおおおおお!?
滅茶苦茶見てる!
すっごい見てるよあの人達!
え?
いつから見てたんすかねえええ!?
みゆ様は凄いニヤニヤしてるし、ベル様は凄いハラハラしてるし、ランなんて凄いヒロ様を睨んでるんだぜ!?
「ん? どうかしたか?」
三人に気がついて驚き動揺をしていた私にヒロ様が当然ながらに気がついて、不思議そうな顔を私に向けた。
でも、どうしたって後ろの三人が気になる。
「フウ? やっぱ返事を返した方がいいか?」
「違いまーす! やですねえ、ヒロ様。っと、あっれえええええ? あそこにいるのはランとベル様とみゆ様じゃないですかー!?」
ヒロ様と二人だけの幸せの時間の幕を自ら下ろす。
もうこうなったらヤケになるしかない。
だって、三人が気になりすぎて仕方ないのだから。
私が大声で三人の事を指をさして伝えると、ヒロ様が後ろに振り向いて、三人がそれぞれ違った反応を見せる。
ベル様は驚いて慌てて顔を引っ込めて、みゆ様はつまらなそうな視線をこちらに向けて、ランはニコニコと笑顔でこっちに向かって来た。
「姉さんも今終わった所? 私達も残党を秒殺して来た所だよ」
「秒殺……。って、本当に殺したわけじゃないよな?」
「ちょっと気分が悪かったのでぶっ殺してやろうと思いましたけど、それはベル様に止められたのでしてません」
「そ、そうか……」
ヒロ様とランが会話して、その間にみゆ様がベル様の手を引っ張って連れて来る。
そして、みゆ様がヒロ様にジト目を向けて何かを訴える。
でも、ヒロ様は全く気付いていない様で、ベル様に「お疲れ」と声をかけて、みゆ様に脹脛をペチリと叩かれた。
「お兄ちゃんのアホ! 甲斐性なし!」
「は? なんだよ藪から棒に」
「知らない!」
みゆ様は随分とご立腹な様子だ。
ちょっとヒロ様に悪い事をしたかもしれない。
と、思った矢先に、みゆ様がとんでもない事を言いだす。
「お兄ちゃん知らないの? バセットホルンは一妻多夫制度で、ベードラは一夫多妻制度なんだよ!」
そう言って、みゆ様は意味あり気に私に顔を向けて親指を立てる。
すると、ヒロ様が「だから何だよ」とみゆ様に話して、また脹脛をペチリと叩かれた。
「お兄ちゃんのアホ! 甲斐性なし!」
「ええ……またかよ」
少しだけみゆ様を応援したくなったけど問題はそこではないので、私は応援をするのを我慢して、みゆ様の肩を後ろから掴んで一緒に下がる。
「ふうお姉ちゃん邪魔しないで! 真面目でアホなお兄ちゃんに、異世界での暮らし方を教えてあげるの!」
そう言って、今度はカスタネットを楽器召喚するみゆ様。
狙いはヒロ様のヒロ様を狙っている。
それを見て、我が妹ランは「みゆ様がんばれ」と応援する。
こらこら妹よい。
お姉ちゃんの大好きな人のピンチを応援しないでおくれよ。
「みゆちゃん落ち着いて? ヒロくんには好きな人がいるから、だから仕方ないんだよ」
ベル様が相変わらずいつも通りのセリフを仰ってるけど、私はもう知っている。
それはヒロ様がご自分の世界で、この世界に来る前に告白ようとして出た勘違いだと。
何故知ってるのかは簡単で、ヒロ様の友人として仲良くなった私は、ヒロ様に笑い話として聞いたからだ。
ヒロ様がベル様に話していないのは、何故なのかは分からないけれど……。
しかし、それにしても。と、私は思う。
ヒロ様を中心に集まる女の子達。
今ここにはいないけど、ナオ様とメレカさんもそうだ。
「ヒロ様って、何だかんだ言って女誑しですよね」
「……は? 急に何言って――」
「そ、そうなの!? ヒロくんが女誑し……」
「今までそんな事全然無かったのに~」
「どうせ頭の中はエロい事しか考えてないんですよ」
「考えてねえよ!」
「えー? でも、お兄ちゃんたまにべるお姉ちゃんのおっぱい見る時あるよ」
「そうなの!?」
「いや、それは……」
ヒロ様が事実を言われて口籠る。
まあ、でも無理はないかもしれないと私は思う。
だって、ベル様は露出が多くて、年頃の男の子には目に毒だと分かるから。
今もベル様はいつもの巫女装束を身に着けていて、胸の谷間が見えている。
女の私でも、ベル様ほどの魅力的な女性がそんな格好をしていれば、ついつい見てしまう事だってある。
だから、思春期男子に見るなって言う方が無理な話なのだ。
でも、ランは手厳しい。
ヒロ様が口籠ると、ギロリと眼光を光らせてヒロ様を睨んだ。
「やっぱそうじゃないですか。ヒロ様サイテー」
「お兄ちゃんかっこ悪い」
「だ、大丈夫だよ! 一緒にお風呂に入った仲だもん! 私気にしないよ!」
ランとみゆ様が冷めた視線をヒロ様に向けて、ベル様だけがフォローになってないフォローを入れる。
私はそんな四人を見ながら、こう言う関係も悪くないと微笑み、だからこそ、これからも自分の気持ちを大切にしていきたいと思った。




