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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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41話 VS全ての元凶カルク=シャーン 前編

「よお。待ってたぜ」


 東塔の最上階までやって来ると、祭壇の上で胡坐あぐらをかくカルクに迎えられた。

 カルクは俺達を見ると立ち上がり、ニヤリと笑みを零す。

 俺は一先ずはカルクを無視して、周囲を確認する。


 カルク以外にいる人物は女王だけだった。

 女王はカルクの背後で張り付けにさせられ、気を失っている。

 その姿は本当にメレカさんとリビィにそっくりで、この人が女王なのだと直ぐに分かった。

 ただ、綺麗だったはずのドレスは斬り裂かれ、最早見る影もない程にボロボロ。

 女王自身も痛めつけられたのか、所々に外傷が見えた。


「丁度暇してたところだったんだぜ? このババアもギャーギャーと昔の事をいつまでも気にして騒ぐしよお。面倒だから今さっき黙らせたところだ」


「「いつまでも気にして? よおよお、おっさん。お前がそれを言うのはおかしいんじゃねえか?」」


「あ? なんだよ知ってんのか? このババアがプライドを護る為に他種族には知られない様にしてた筈だったよな? まあ、ここまで来るくらいだ。知ってて当然か。それより、そう言う事なら話が早い。ウサギちゃんはババアと違って食べごろだし、そこのクソガキを殺したら、昔のこのババアの様に後で可愛がってやるよ」


 カルクが下卑た笑みをフウとランに向けて、二人はカルクを睨み見る。

 そんな中、俺は周囲の確認を続けていた。

 この男は本当に胸糞悪い奴だが、先に確認をしておかないと、後々面倒な事になるかもしれないからだ。


 だが、変わった所はない様だった。

 祭壇だけがある空間。

 窓にはガラスでは無く、空気の膜が張られている。

 天井の中心には半分に切り取られた様な姿の宝鐘ほうしょうがあって浮かんでいて、ゆっくりと回転している。

 何処かにカルクの仲間が隠れている様な感じでもないし、罠か何かがある様子もない。

 祭壇があると言う事以外は、他の階と大して変わらない。


 変わった事があるとすれば、それは胡坐をかいていたカルクの姿。

 元々灰色だった髪の毛は、紺色と紫色の髪が混ざったグラデーションカラー。

 体は一回りデカくなっていて、三メートル越えの身長。

 額から口にかけて残っていた傷痕は残っていたが、その傷痕からは目が大量に出ていて、かなりグロい見た目をしている。


 カルクは右手に酒樽、左手でタバコを持ち、ニヤついた笑みを俺に見せた。


「しかし、三人相手に戦はちと面倒だな。こんな事なら、あのいけすかねえ小娘の見張りなんかさせずに、ガシールの野郎もこっちに来させるべきだったな。まさか揃いも揃って侵入者を一人も殺せねえとは、俺の子分どもはどいつもこいつも使えねえ連中ばかりだ」


 カルクはそう言うとタバコを口にくわえて一気に吸って、吸い殻になったタバコを床に捨てる。

 そして腰に提げた銃を掴み取って、俺達にでは無く壁に向かって発砲し、それを捨てる。

 銃弾は壁を破壊して、海水が流れ込んできた。


「さて、てめえ等の目的はどれだ? そこに張り付けにした女王を助ける事か、それとも天井の宝鐘の回収か……それとも、俺を殺しに来たのか?」


 カルクがニヤリと笑みを浮かべて、それと同時に俺は駆け出した。


「お前を倒して一石三鳥だよ!」


「ははははははっ! 面白い冗談だな! また海に沈めてやるよ!」


 カルクが酒を一気に飲み干して、酒樽を俺に向かって投げ捨てる。

 俺はそれを殴って破壊して、カルクとの距離を縮めた。

 だが、その直後にカルクの目の前に噴水が発生……いや、噴水じゃない。

 ワームウォーターが二体飛び出した。


「ワームウォーター!?」


「そうだぜ、英雄えいゆう! 予め塔の最上階周辺に控えさせてたのさ!」


 ワームウォーターが俺に向かって飛びかかる。

 だが、俺だって一人で戦っているわけじゃない。

 フウラン姉妹が宙を舞い、俺を横から左右対称に追い越して、ワームウォーターに魔法を発動する。


「「ウィンドサークル!」」


 二つの風の刃が円を描き、それ等はワームウォーターを斬り裂く。


「馬鹿が! ワームウォーターがそんな魔法で死ぬかよ!」


 カルクが言った通り、止めには至らなかった。

 真っ二つになったワームウォーターは直ぐにくっついて、そのまま接近したフウラン姉妹をそれぞれ呑み込む。


「「――っがば」」


「フウ! ラン!」


 二人の名を呼びながら、ワームウォーターに接近して手を伸ばす。

 だが、俺の目の前にカルクが現れて、サーベルで俺に斬りかかった。

 俺は咄嗟に後ろへと跳躍して斬撃をかわす。

 と言っても、それだけでは終わらない。


 俺は密かに海パンに潜ませていた小石を二つ取り出し、それをワームウォーターの水面から出ている部分を狙って投げる。

 瞬間――俺の投げた小石がワームウォーターに当たって、ワームウォーターが弾け飛び、フウとランが解放された。


「ちっ。ワームウォーターの核にもう気づきやがったか」


「俺は魔力を視認出来るんでね。そいつの核が目だって見えるんだよ」


「もう少し待たせるべきだったな」


「待たせる……? 何言って――」


 その時、厄介な事に気がついた。


水嵩みずかさが増してる!?」


「ほう。気付いたか?」


 そう。

 いつの間にか床を流れる海水の量が増していて、くるぶし程度の高さだったものが、今ではすねの三分の一程の高さまできていたのだ。

 この事実に俺は驚いたわけだが、驚いたのにはわけがある。


 ワームウォーターをここに入れる時に、カルクが壁を破壊して、その時に海水も一緒に流れて来ていた。

 だが、考えて見てほしい。

 ここは百階近くある塔の最上階で、しかも高さは一キロ近くもある。

 例え多少壁に穴が開いた所で、下の階に海水が流れていくから、こんなに早く水嵩が増すわけがないのだ。


 そしてもう一つ、実はここまで登って来る途中で気づいた事もあった。

 それは、この塔の外壁に穴を開けても、海水が流れ出して塔内に入って来るのは最初だけと言う事。

 俺とフウラン姉妹はこの塔を登って来る途中で、何度も魔従まじゅうと戦って来た。

 その時に何度も塔の壁を多少なりとも破壊してしまい、海水だって流れてきた。

 だが、それは本当に最初だけで、その後は正常に戻ったのだ。


 調べた所、塔の外壁は空気の膜に覆われているわけだが、それは穴を開けても修復されて、直ぐに元に戻るのだ。

 つまりは、空気の膜にいくら穴を開けても修復されるので、海水がむやみやたらと入ってこないと言うわけだ。

 これは俺達が乗って来た船と同様なので、この仕様にはそれなりの信頼感があり、少なくともこの塔内で溺れる事は無いと俺達は結論を出した。


 だからこそ例え穴が開こうが、開いた穴が塞がらずに海水が流れ続けようが、どちらにしても水嵩が増え続けるなんて事は起きない筈だった。

 そして、それが今起きているからこそ、俺は驚いたのだ。


「今、このエリアは俺の領域になってんのさ。その内この部屋は水で埋め尽くされ、てめえは息を出来ずに溺れ死ぬだろうな」


「まさか、宝鐘の力を使ってんのか!?」


「ああ? 宝鐘の力だ? 何言ってんだ、てめえ? 宝鐘の力ってのは――」


 その時、鐘の音が頭に響く。

 そして次の瞬間、俺の右腕に何かが貼りついて、カルクが右手の手の平を俺に向かってかざす。


「――これの事か?」


「――っ!?」


 瞬間――カルクの右手から真っ白な光線が放たれる。

 それは真っ直ぐと、俺の右腕に貼りついた何かを追う様に向かって来た。

 俺は咄嗟に防御しようとして、その光線には魔力が含まれていない事に気づく。

 その瞬間に嫌な予感が頭をよぎり、咄嗟に避けようとしたが避けきれなかった。

 真っ白な光線は俺の右腕にかすって、掠れた右腕の部分を抉り取り、俺の背後にあった壁を当たった部分だけ消し飛ばした。


 俺は歯を食いしばって痛みを我慢して、カルクから距離をとった。


「ヒロ様!」


 フウが慌てた様子で俺の許まで飛んできて、抉られた腕を見て顔を青ざめさせる。


「くそっ。避けきれなかった」


「違います。私の目には、ヒロ様があの光線を避けた直後に、光線が曲がってヒロ様の腕に進んだように見えました」


「曲がった……?」


 フウに続いてやって来たランの説明に驚くと、カルクがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて拍手した。


「ウサギちゃん、正解だ。正解のご褒美に種明かしをしてやるよ」


 カルクは拍手を止めて、俺達の目の前の床に手をかざす。

 すると、そこにデフォルトされた鐘のマークが貼りついた。


「まずこれが、てめえ等が欲しがってる宝鐘の力【座標】だ。っつっても宝鐘がまだ半分しかねえから、力を引き出して使えるのは一度に一つ程度の印だって、ルシファーの野郎が言ってたな。それでも使える。そいつは狙った相手に貼り付かせる事で、魔法やスキルを必中に変えてくれる効果を持ってんのさ。それでこれが」


 カルクが右手の手の平を上に上げて真っ白な光線を放ち、それが放たれた直後に急カーブして、鐘のマークに当たって床の一部を消し飛ばした。


「「「――――っ!」」」


「これが俺の魔族化して手に入れた【制裁の宴(イレイス)】だ。当たれば何でも消し飛ばせる最高の能力スキルさ。これを手に入れた瞬間に、俺は思わず踊り出したくなっちまったよ。ルシファーの野郎も、この力を見て俺に任せてどっかに行きやがった。ビビっちまったのかもな」


 最悪な組み合わせだと感じた。


 恐らく、あれは“一つは鳴らすと対象の頭上に光の鐘を生み出し”と言い伝えにある宝鐘の効果だ。 

 まさか、それが魔法や能力スキルに追跡機能を加えるものだとは思いもしなかったが。

 ただ、一つ欠点が分かった。

 それは、掠った程度でもマークに当たれば、その効力が失われると言う事。

 現に俺の右腕に掠ったカルクの能力スキルは、掠った後は追跡せずに背後の壁に当たっている。

 だが、それでも厄介なのは変わらない。


 カルクの能力スキルの威力が高すぎるのだ。

 右腕が掠っただけで、掠れた部分を容赦なく抉り取る程の威力。

 しかも俺は、これでも常に能力スキルで全身を護っている。

 それなのにこのダメージだ。

 正直言って、全神経を防御に回しても、ただで済むとは思えなかった。


「ヒロ様、とりあえず止血は終わりました。でも、無理はしないで下さい」


 カルクの話を聞いている間に、フウが俺の右腕の止血をやってくれていた様で、右腕にはフウの身に着けていた服の一部が切り離されて巻かれていた。

 俺はそれを見てフウに「ありがとう」と礼を言って、心配そうに俺を見つめるフウに微笑んだ。

 そして、カルクに視線を戻して、神経を研ぎ澄ませる。


 一先ずの問題は二つ。

 一つ目は、カルクの能力スキルと宝鐘の力のコンボを、どう対処していくか。

 二つ目は、現時点ですねの半分まで到達した、増え続ける部屋の水だ。


 既に水のせいで動き辛いのは目に見えているし、あの力のコンボは完全に防ぐには苦労しそうだった。

 だが、カルクは妙な行動に出た。


「てめえが死ぬのが先か、この部屋に水が充満するのが先か、今から楽しみだな!」


 カルクは大声を上げて腰に提げたサーベルを抜き取り、それに魔法で水の刃を覆わせて、俺に向かって駆けだしたのだ。

 これは明らかに予想外で妙な行動だった。

 何故なら、あれ程の強力な能力スキルがあるのに、使わずに接近戦を挑んできたからだ。

 俺がもしカルクであれば、迷わず能力スキルを使うだろう。

 だが、カルクはそれをしなかった。


 どう言う事だ?

 何か理由が……いや、今は考えてる場合じゃねえ!


 カルクは既に目の前に来ていて、俺に向かって水の刃を覆ったサーベルを振るった。


「フウ! ラン! 二人は女王を頼む!」


 声を上げながら能力スキルを集中して、カルクの斬撃を拳で受け止めて弾く。

 フウとランは俺の言葉を聞くと飛翔して、女王の許に急いだ。


「女二人は見逃してやるよ。てめえを殺した後で、たっぷりと楽しませてもらうけどなあ!」


「なら、お前には一生不可能な話だな!」


 再び俺の拳とカルクの水の刃が激しくぶつかり合って弾き合う。

 すると、その直後にカルクが目の前に魔法陣を浮かび上がらせた。

 そして、俺は自分の腰に鐘のマークが貼り付けられていた事に気がついた。


「捕まえたぜ! アシッドポイズン“マルチ”!」


「――っ!」


 瞬間――魔法陣から大量の酸が放たれて、俺の腰目掛けて飛翔する。

 俺は咄嗟に距離を取り逃げながら、集中して絆の魔法を発動し、追って来た大量の酸を打ち消した。


「ちっ。聞いていた通りか。やっぱりてめえには魔法が通用しないらしいな」


「だったら何だよ? 諦めて逃げる気にでもなったのか?」


「てめえみたいな格下相手に逃げるわけねえだろ。自惚れるなよ? クソガキがよお!」


 再びカルクは駆け出して、俺に向かって来た。

 そしてその時、俺はたまたま窓から外の景色がチラリと見えて、それと同時に水嵩が増す原因を見た。

 それは、窓の外まで広がる一つの魔法陣。


 魔法陣は俺達がいるこの最上階の床下に浮かび上がっている。

 例えるなら、プリンを皿に移した時のプリンが最上階で、皿が魔法陣と言った所だろうか。

 そしてその魔法陣の魔力を見れば、それが誰のものなのかなんて直ぐに分かった。


 俺は接近して来たカルクから距離をとって逃げ、そして、海パンのポケットから小石を取り出してカルクに投げて牽制する。


「どうしたどうした! 逃げてちゃ俺は倒せねえぜ! 怖気づいたかあ!? 英雄さんよお!」


「お前の領域ってやつをぶっ壊してやるんだよ!」


「――なに?」


 狙うは床下の魔法陣。

 拳に能力スキルを籠めて、勢いよく床に向かって振るう。

 次の瞬間、俺の拳が床を破壊して、魔法陣の一部が現れた。


「ラッキー!」


 正直言って運が良かった。

 まさか一発で魔法陣の断片を当てるとは思っていなかった俺は、素直に喜び声を上げ、魔法陣に向かって手を伸ばす。

 そして、絆の魔法を発動して、魔法陣を打ち消した。


「なんだと……っ!?」


 カルクが驚きの声を上げ、それと同時に水嵩が一気に減少していった。

 俺はカルクに視線を向けて、ニヤリと笑みを向けてやる。


「残念だったな? これでお前の作戦は一つ潰れたぜ」

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