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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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40話 海底神殿オフィクレイド西搭の決戦

※今回も三人称視点でベル側のお話です。



 タンカーとガシールを捕食したイザベラは舌を出してペロリと唇を舐め、それから右手を肩の上に上げた。

 すると、右手がタンカーの指の様に長く伸び、指の一本一本が刀の様な形……指刀しとうとなる。


「うふふ。驚いた? あたくしの能力スキル捕食の真似っ子女王イミテーションクイーン】は、背中の触手で食べた相手が持っていた力のどれか一つを貰い受けるの。でも、残念ね。この能力スキルで手に入れられる力は、何が手に入るかが分からないのよ。パパの能力スキルが手に入れば良かったけど、手に入ったのは指を刃に変えられるものだったみたい」


 自分の父親を食べて、得た力が欲しかったもので無かったからと、残念そうに眉根を下げるイザベラ。

 その姿は、ここにいる者たち全員の目に“異常”に映った。


 皆が皆言葉を失い、耐性の全く無いリビィは怯えて、そして吐き気をもよおしてその場で吐く。

 すると、ベルは屈んでリビィの背中をさすってあげた。

 それを見て、イザベラがケラケラと楽しそうに笑みを浮かべて、右手を元に戻して頬杖をついた。


「きったな~い。リビィお姉様ったら、こんな所で吐くなんて、王族として恥ずかしくないの? ほんっと顔だけの無能よね」


「イザベラ……貴女は、貴女は何をしたか分かってるの!? 自分の父親を食べたんだよ!?」


 ベルがイザベラを睨んで声を上げると、イザベラはつまらなそうな視線をベルに向けた。


「あら? なあに? クラライトの巫女姫様。あんたには無関係でしょう? そんな事どうでも良いじゃない。それに、無能は力のある者の為に死ぬ。当然の事じゃない」


「そんな事ない! そんなの間違ってるよ!」


「つまらない女ね、封印の巫女。相変わらずの理想主義者。一人ではな~んにも出来ないくせに、偉そうな事ばかり言う。昔から変わってないわね。あたくしね、昔からあんたの事が大っ嫌いだったの。だから、最初に殺してあげるわ」


 イザベラがベルを鋭く睨み、ベルに向かって触手を伸ばす。

 そして更には、この部屋の天井付近に魔法陣を展開する。


「ポイズンレイン」


 イザベラが呪文を唱えると、直後に紫色の雲が出現し、毒の雨が降り始めた。


「スティールシールドでしゅ!」


 ベルに迫る触手をアミーが鋼鉄の盾で防ぎ、更には頭上にも出して毒の雨も防いだ。

 しかし、イザベラの攻撃は終わらない。

 イザベラはニヤリと笑みを浮かべて、左手からバチバチと電気を放電しながら走り出した。


「こいつはあたりね! ガシールの能力スキル【発電】だなんて、さいっこーじゃない! あたくしに相応しい力だわ!」


「行かせないにゃ!」


 瞬間――ナオの蒼炎の爪とイザベラの電撃が激しくぶつかり合い、それを中心として火花が舞い散る。


「邪魔よ、猫女!」


「お前の相手はニャーだにゃ、性悪女!」


 イザベラの触手が伸びてナオを狙い、ナオが蒼炎の爪でそれを防ぐ。

 ナオがイザベラと再び攻防を繰り広げ始めると、少し離れた場所で顔を青くさせ、床にへたり込んでいたみゆが立ち上がった。


「でりばーおじさん、ありがとう。もう大丈夫だよ」


 イザベラが毒の雨を降らせてから、デリバーがみゆを毒の雨から護っていたのだ。

 デリバーは立ち上がったみゆに視線を向け、みゆの顔色を確かめる。


「何言ってやがる。真っ青な顔してるガキを放ってはおけねえな。それによお、悪いがおめえをこの雨から護るのが精一杯だ。あまり動かないでもらいてえな」


「晴らすよ!」


「何……? 晴らすって、おめえ何言って――」


「楽器召喚! オフィクレイド!」


「――っ!」


 みゆが自分の背丈くらいはある楽器オフィクレイドを召喚し、それを抱きかかえる様に掴んで、器用に音を鳴らして演奏を始める。

 それは、頭に響く様な低く綺麗な音。

 周囲一帯に響き渡り、音を出す頭部から波紋が何度も繰り返し広がっていく。

 そして次の瞬間、天井を覆う毒の雲が一斉に消え失せた。


 毒の雲が無くなると、みゆは楽器を消して小さく息を吐き出した。

 額にほんのりと汗を浮かべ、顔には疲れた表情が現れていた。

 ここまで才能を存分に見せ続けていたみゆではあったが、流石に体力や魔力に限界がある。

 だが、それでも、小さな体でよくここまで頑張ったと言えるだろう。


「あの規模の魔法を簡単に……なんつうガキだ」


 デリバーは驚いてみゆを見て、その表情からみゆの疲れを察して、みゆの頭に手を置いて撫でた。

 そしてそんな中、毒の雨を降らせていたイザベラは驚いて、頭を撫でられているみゆに視線を向けて動きを鈍らせていた。


「あたくしの魔法を打ち消した!? なんなのあのガキ!」


「ピラーファイア!」


「――うっざい!」


 イザベラが隙を見せた瞬間にナオが魔法を放ち、イザベラがそれを寸でで避けてナオを睨んで距離をとる。

 そして、苛立った様子でナオを睨んだ。


「たかが獣人の分際で鬱陶しいのよ! そんなに死にたいならさっさと殺してやる!」


「その言葉、そっくりそのままお返しするにゃ」


 イザベラが全身に電気を覆い、右手の指を伸ばして指刀に変える。

 そして、放電して周囲に電気を撒き散らした。


「きゃああああ!」


 放電された電気はナオだけでなく、この場にいる全員に牙を剥いた。

 ナオはもちろん、みゆはデリバーに護られて無事だったが、ベルとアミーとリビィはそうでなかった。

 イザベラの放電はベル達からすれば突然の事で、咄嗟に防ぎきる事が出来なかった。

 アミーは自分の身を護るのに精一杯で、ベルはリビィを護ろうとしたが、床に流れる海水がそれを邪魔したのだ。

 ベルは光の魔法を使って、リビィを一瞬だけ浮かせて海水から離す事で護る事は出来た。

 だが、ベル自身は身を護れずに電気を浴び、悲鳴を上げて倒れて気を失ってしまった。


「ベルしゃん!」


「ベル殿下……っ。私を庇って……ごめんなさい」


「あはは。当ったり~。ちょっとはスッキリしたわ」


 アミーとリビィが慌ててベルに駆け寄り、イザベラが愉快そうに笑みを浮かべた。

 そして、触手をベルに向かって勢いよく伸ばす。


「お前も捕食してあげる」


「させないにゃ!」


「それをさせてあげないわ!」


 ナオが触手を斬り裂こうと蒼炎の爪を振るい、それをイザベラが指刀で受け止める。


 触手は勢いそのままにベルに接近し、アミーがベルの前に立って鋼鉄の盾を魔法で出し護る。

 しかし、触手は盾をかわしてベルに巻きつこうとして触れた。


「ストーンスタンプでしゅ!」


 アミーの魔法が触手をベルから押し剥がす。

 しかし、触手は一つだけでは無い。

 次から次へと伸びてきて、そして、剥がした触手もそれ等と一緒にベルを狙う。


「ナオしゃん! 早くその性悪王女をどうにかしてでしゅ!」


「にゃー! 分かってるにゃ!」


 流石に魔族であるアミーも魔力的に限界が近かったのもあり、かなり余裕が無くなっていた。

 何よりイザベラは魔族化して間もないと言うのに、そうとは思えない程の力を持っていた。

 恐らくアミーが万全の状態であっても、一対一のタイマン勝負であれば、確実にアミーが負ける程の実力者。

 その為、触手からベルを護るのもギリギリだった。


「どうにか出来るとでも思ってるの? 出来るわけないのにさあ!」


 触手のスピードが上がり、アミーが触手の鞭の様な動きに翻弄されて、床に叩きつけられて血反吐を吐いた。

 そして、ついにベルが触手に捕まり、体をグルグルと巻き付かれる。

 リビィが触手を剥がそうと必死にしがみつくも、全くの無力で歯が立たない。


 デリバーがベルを助けに行こうとしたが、触手はみゆまでもを狙い、みゆを護るだけで手一杯になった。

 みゆも限界が近い為、身を護りながらデリバーをサポートするのがやっとで、ベルを助けるだけの余裕が無い。


 イザベラと戦っていたナオにもベルのピンチが目に映り、隙を一瞬だけ作ってしまう。

 その一瞬でイザベラの指刀がナオの頬を掠め、ナオは後ろに跳躍。

 指刀が掠れた頬からは血が流れ、ナオはそれを腕で拭い、足に魔力を込めて蒼炎の炎で包む。


「バセットホルンの王女様だから、ニャーはお前を殺さない様に倒す方法を考えていたにゃ」


「はあ? だから何だってのよ? 手加減してたって言いたいの? それとも負けそうだからって、負ける為の口実作り? あはは、ダッサ~」


 ナオの目つきが変わって鋭くなり、尻尾の毛は逆立って、魔爪を覆う蒼炎の爪も鋭さを増す。


「ダサくて良いにゃ。お前なんかより、ベルっちの命の方がニャーには大切にゃ」


「だから何? その大切な命を、今からあたくしが美味しく食べてあげるわ。封印の巫女の味はどんな味かしら? 楽しみだわ。いただきます♪」


 イザベラは触手でベルを頭から呑み込み、リビィを触手で払って壁に叩きつける。

 しかし次の瞬間、ナオが一瞬でイザベラの背後に回り込み、触手を根元から蒼炎の爪で斬り裂いた。

 切り離された触手は床へ落ち、呑み込まれたベルは消化されずに触手の中で停止する。

 だが、決して、これはナオが急激に強くなって起こった結果では無い。

 ナオは足に付けた蒼炎の炎を爆発させ、その勢いで回り込んだのだ。

 その為、ナオ自身の足も相当なダメージが入っている。


「――っあ゛あ゛あ゛!」


 イザベラの背中や切断された触手が血飛沫を上げ、イザベラは叫んでナオを睨みつけて指刀を振るった。

 ナオはそれを蒼炎の爪で受け止めながら、魔法陣を自分とイザベラの間に展開する。

 しかし、それと同時に、イザベラも同じ様に自分とナオの間に魔法陣を展開。


 炎の粉塵がナオとイザベラの周囲に出現し、同じく周囲を漂う害灰がいはいがイザベラの出した魔法陣に集束されていく。


「イクスプロウシヴフレイム!!」

「バーストヘル!」


 瞬間――二人の魔法が同時に放たれる。

 炎の粉塵はイザベラを中心に集束されて凄まじい爆発を起こし、周囲に焼けるような熱風を撒き散らす。

 同時に放たれたイザベラの魔法もナオと同じく黒炎の爆撃で、周囲に熱風と黒炎の火の粉を撒き散らした。

 そして、次の瞬間、爆破の中心で大気が揺れる。


「ファングフレイム“デスバイト”!」


「甘いのよおおおおおお!」


 二つの爆発で肌が焼かれて全身に火傷の痕をつけたナオが魔法を放ち、同じく火傷の痕をつけたイザベラが右手で指刀を作って、更に電気を放電しながら魔法を斬り裂く。

 だが、ナオの攻撃は終わらない。

 イザベラが魔法を斬り裂いた時には、姿勢を低くしてイザベラにぶつかるかぶつからないかの距離まで接近していて、拳を振り上げる様にして蒼炎の爪を振るった。


「にゃあああああああ!!」


「――――がっぁ……っ!」


 ナオが咆哮を上げ、蒼炎の爪はイザベラのヘソからあごにかけてを斬り裂き、血飛沫が大量に噴き出した。

 そして、イザベラの体は斬られた所を中心にして亀裂を走らせ、黒紫色の閃光を次々と放つ。


「なに……よ? これ……。あたくしは――――っ」


 次の瞬間、イザベラの体がが爆散し、跡形も無く消え去り絶命した。

 すると、ベルを飲み込み切り落とされた触手が溶けていき、気を失っているベルが姿を現す。

 ナオは力を使いきり、ベルが無事だったのを見ると柔らかい笑みを浮かべて、その場で力無く倒れて気を失った。


 みゆとデリバーはナオに駆け寄り、アミーも足を引きづりながらベルに近づく。

 そして、リビィは爆散したイザベラが最後に立っていた場所を見つめて、悲しそうに表情を曇らせて「イザベラ……」と呟き一粒の涙を零した。










「――っ!」


 それは突然だった。

 西搭の戦いが終わりベルとナオを介抱していた時。

 不意にみゆが何かに気が付き、東塔がある方向……最上階へと視線を向けた。

 みゆの目は大きく見開いていて、身を震わせている。

 そして、次の瞬間、慌てた様子でデリバーの腕を掴んだ。


「でりばーおじさん! お願い! 今直ぐ向こうに、東塔に行って! お兄ちゃんが死んじゃう!」


「なに……?」


【魔族紹介】


 イザベラ=I=シー

 種族 : 魔族『魔人』

 部類 : 人型『魚』

 魔法 : 闇属性上位『黒炎』

 サブ : 火属性

 能力 : 捕食の真似っ子女王イミテーションクイーン


 海底国家バセットホルンの第三王女で、元は魚人だった少女。

 物心つく頃には様々な教育を受けていたが、どれも国を追いだされたメレカの様な成績を出す事が出来ず、リビィの様に母に似てもいないせいで、不出来で何の才も持たない子と言われ続けていた。

 成績が悪いと言っても、それは対象が悪かった為に評価が低いだけで、実際に優秀では無かったと言うわけでは無い。

 元々メレカ程ではないが近衛騎士にも匹敵する実力を持っていて、それは魔族化する事で更に開花した。

 優秀でありながら母に逆らおうともしないメレカと、母の容姿にそっくりなリビィに酷く劣等感を抱いていて、母への憎しみが募ると共に二人の姉に対しても憎む様になっていった。

 性格はかなり歪んではいるが、ある意味ではイザベラもまた、カルクによって人生を変えられた女王によって暗い人生を送ってきた可哀想な被害者である。

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