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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第1章 異世界召喚
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8話 事件の影

食事が終わり、それぞれ食後の休憩をしていると、ベルが話を切り出した。


「ヒロくんも目を覚ましてくれたし、ご飯も食べたし、これからの事をお話するね。まずはタンバリンで起きてる事件。ナオちゃん、もう一度説明してくれる?」


「了解だにゃー」


 ナオはベルに指名されると立ち上がり、尻尾をユラユラとさせてリラックスしながら話し始めた。


「最初の事件は五日前に起きたにゃ」


 五日前と言えば、三日間眠っていた事を考えると、俺がこの世界に召喚されて旅だった頃だ。


「食料調達の為に暴獣狩りをしている大人が、いつも通り早朝に暴獣の巣に入って行ったにゃ。それで、いつもはお昼の時間には帰って来てたのに、その日は夕方になっても帰って来なかったにゃ。おかしいと思った村の皆が話し合って、暴獣の巣に原因を探りに行く人達と、フロアタムに報告に行く人達で別れたのにゃ」


「ああ、それで騎士のミーナさんが来たわけか」


 合点がいった。

 食事の後で話を聞けるって事で黙っていたけど、ミーナさんはフロアタムの第五十三王子直属の騎士と言っていたし、何故ここにいるのか疑問だった。

 まあ、王子直属の騎士ではなく、普通はそれ以外の騎士が来そうなもんだが。


「英雄殿、それは違いますわ」


「え? 違うんですか?」


「わたくしがタンバリンに来たのは、巫女姫様を迎える為ですわ」


「ベルを迎えに……ですか?」


 フロアタムを目指してはいたが、ベルからもメレカさんからも道中それらしい事は聞いていなかった。

 ただ、言わなかっただけかもしれないけども。


「はい。実は邪神が復活した直後に、王都フロアタムは魔族の襲撃を受けましたの。魔族の襲撃を受けた事によって、我が国の王であらせられる長老ダムル様が、邪神が封印から放たれた事を悟りましたわ。そして、ダムル様は英雄召喚の地より一番近いタンバリンを巫女姫様と英雄殿が通ると予測し、その時に一番動けたわたくしが、長老ダムル様の命で数人の部下を連れて来たのですわ。ですので、タンバリンの事件とは全く関係がありませんの」


 思っていた以上に、この世界は結構ヤバい事になっているのかもしれない。

 俺の前にネビロス以外の魔族が現れていないだけで、五日前には既に魔族が各地を襲っていたって事だ。


「て事は、ミーナさんがここに来る途中で、この村の人と鉢合わせてますよね? じゃあ、その人達とミーナさんの部下は今はどうしてるんですか?」


「フロアタムに報告に向かった皆は、ミナミナと会う前に消息不明になったんだにゃ」


「――はあ!? 消息不明!? たまたますれ違いになっただけなんじゃないのか!?」


「それはありえませんわ。タンバリンにフロアタムから来る途中で、戦闘の痕跡が残った場所がありましたわ。それも最近のものでしたの」


「戦闘の痕跡……」


「タンバリンに到着したわたくしと部下は、ナオ様から状況を確認しましたの。それでその痕跡で、この村の住人が魔族に襲われたのだと推測出来ましたわ。そして、わたくしがここに到着した時には既に暴獣の巣へ向かった村長たちも帰って来なくなっていましたわ。それでわたくしも事態の重大性に気付きましたわ。それから村に残っていた数人の大人と、わたくしと一緒に来た部隊をまとめて、村の警備にあたる者と暴獣の巣に捜索に向かう者とで、部隊を二つにわけましたわ。しかし、それが良くありませんでしたの」


「ミナミナが暴獣の巣に行ってる間の夜に、村の警備をしていたミナミナの部下の人達と、一緒に村に残っていた大人が、痕跡を残さず皆いなくなっちゃったんだにゃ」


「――っマジかよ」


 少なくとも村人と違って、一国の騎士が何の痕跡も残さず消えるなんて、果たしてありえるのだろうか?

 もし俺が同じ立場であるならば、何かあれば他者へのメッセージの為に何かを残す。

 いや。

 そもそも何かに襲われたとして、痕跡もないという事は何も出来なかったという事だ。


「ニャーはそれで暴獣の巣に向かったんだにゃ」


「そうか。それで暴獣に襲われて森の中で倒れてたのか」


「違うにゃ」


「え?」


 違う?

 そんなはずはない。

 見つけた時についていたあの傷は、どう見ても暴獣に襲われた傷にしか……いや、違う。

 あの時確か、俺はメレカさんから聞いたはずだ。

 暴獣から受けた傷には見えないと。

 魔族の襲撃にあったのかもしれないと。


「ニャーを襲ったのは、魔人ネビロスだにゃ」


「なっ!? う、嘘だろ? よく無事だったな……」


 魔族かもしれないとは思ったが、まさかあの魔人ネビロスだとは思わず、その事実に俺は心底驚いた。

 三日前に俺達も襲われたが、あの時助かったのは運が良かっただけにすぎない。

 暴獣を一掃していたメレカさんですら、手も足も出なかった相手だ。

 そんな相手に、妹と同じくらいの年頃の女の子が襲われて、無事でいられるなんて考えられなかった。


「ナオ様はこの村の村長のお孫様で、村長の奥様が王家の家系のお方ですの。その為ナオ様はよくフロアタムに遊びに来られていて、物心がお付きになる頃には、わたくしの主ウルベ様と既に強さを競い合っていましたので、わたくしよりもお強いんですのよ」


「ええええっっ!?」


 俺はナオをマジマジと見つめた。

 ナオは強いと褒められて「にゃっふーん」などと言って、無い胸を張って尻尾をピーンと立てて、ご満悦になっている。

 正直な話こんな事を言っちゃ悪いが、全然強そうに見えない。

 と言うか、寧ろただの子供にしか見えない。

 人は見た目によらないとは、この事か。

 しかし、これで納得した。

 ミーナさんがナオに様付けしていたり、ナオがミーナさんにあだ名をつけて呼んでいた理由に。


「私もメレカも最初聞いた時は驚いちゃった。タンバリンに王家の血筋の者がいるのは知っていたけど、会った事が無かったんだもん」


「そうだったのか」


 どうりでベルとメレカさんが初めてナオを見た時に、とくにそれらしい事を言わなかったはずだ。 

 まあ、驚くべき真実でもあるが、今は別の事を話す時だ。


 俺は改めてミーナさんに体を向けて尋ねる。


「話を戻すけど、タンバリンで大人達や騎士が消えている間に、暴獣の巣では何も起きなかったんですか?」


「いえ。夜の内に……と言うわけではありませんが、わたくし達もネビロスと会い、戦闘をしましたの。お恥ずかしい事に、わたくしだけ巫女姫様と英雄殿のおかげで助かったのですわ」


「俺達のおかげ?」


「はい。わたくしがネビロスと遭遇したのは、恐らくナオ様が襲われた直後ですわ。ネビロスと遭遇して直ぐに戦闘になり、わたくしだけが最後に残りましたの。しかし、ネビロスは異常なまでに強く、わたくしは追い詰められていましたわ。そして、死を覚悟した時に、暴獣の遠吠えが聞こえてきましたの。それを聞いたネビロスは急に笑い出して、わたくしに止めをささずに、その場を去って行きましたわ」


「丁度俺達が暴獣の群れに襲われた時か」


「そうですわ」


「でも、それじゃあもう、この村の大人達は……」


 もう戻ってこないだろう。と、俺が悲観すると、ベルが「それがね」と話して言葉を続ける。


「不思議なんだけど、ネビロスに襲われて倒れた人達が消えちゃったらしいんだよ」


「消えた? 消えたって事は、消息不明になった人達と同じって事か」


「うん。それで今回のこの事件は、ネビロスが言っていた暇じゃないだとか忙しいだとかの話と、結びつく事なんじゃないかって思うの」


「確かにありえるな。なら、まだ生きてる可能性もあるって事か」


「どうでしょう? 私もヒロ様と同じで、その可能性を考えましたが、相手は魔族です。いつ人を殺してもおかしくありません」


「にゃー? 姉様、もう皆に“大人は全員無事で生きてるにゃー”って言っちゃったよ?」


「……は? おいおい、おかしいと思ったんだよ。どうりでこんな状況下で、ここの村の子供全員深刻な顔になるどころか、元気に外で走り回ってる筈だよ」


 村にいる子供たちは、元気に走り回っていたり、ワイワイ仲良くおしゃべりしている。

 まるで事件なんて起きていないような、そんな感じでだ。

 しかしその答えが、まさかナオが無事なんて言ってしまったのが原因だったとはって感じだ。


「パニックを起こすよりは良いでしょう。ただ、事態はかなり深刻です。未だに消えた人々が何処にいるか分からない以上、慎重に行動するべきです」


「私もメレカに賛成。でも、一刻を争う事態でもあると思うの。だから、これから暴獣の巣の攻略作戦を練ろう」


 ベルの言葉に、それぞれが頷く。


 しかしどうする?

 消息不明になった村の大人達とミーナさんの部下は、今どこにいるか分からない。

 それに、あまり考えたくはないが、既に死んでいる可能性だってある。

 そして相手はあの魔人ネビロスだ。

 何をしているのか知らないが、暴獣だっているのにあんな恐ろしい奴の――ん?

 そうだ。

 すっかり忘れていたが、おかしなことがあった。


「なあ。ちょっと質問なんだけどさ。暴獣って魔人の言う事を聞いたりするもんなのか? ネビロスは暴獣を従えていた様な気がしたんだけど」


「そのような事は、魔族を記録している古い文献には記されていませんでしたわ」


 ミーナさんが俺の質問に答えて、腕を組んで何か考える。

 するとそこで、ナオが元気に「はいにゃー」と手を上げた。


「はい、ナオちゃん」


 ベルがナオを呼ぶと、呼ばれたナオは「にゃっふーん」などと言いながら立ち上がった。


「ニャーもフロアタムの書庫でウルウルと一緒に古い文献読んだ事あるけど、魔族は魔族でも魔人じゃなくて“サーベラス”って名前の魔従まじゅうが、犬や狼の暴獣を操る事が出来るって見たにゃ」


「魔従? えーと……確か魔人に従う暴獣みたいなやつだっけ?」


「うん。魔人と同じ魔族で、基本は暴獣の様に獣の姿をしているのが魔従だよ。それと、以前ヒロくんがこの世界に来た時に話したバハムートも魔従だよ」


「あー。邪神復活の時の話をしてくれた時のやつか。まあ、とにかくサーベラスって魔従が、今回関わってる可能性が高そうだな」


 バハムートとサーベラス。

 その生物……と言うか、名前は俺も自分の世界で聞いた事がある

 妹がアニメや漫画が好きななので、俺はある程度の有名な空想上の生物を知っている。

 その二つの名前の生物は、その空想上の生物と同じ名前なのだ。


 サーベラスは別名ケルベロス。

 地獄の番犬とも言われている生物だ。


 この世界に来てからは、色んな事に驚き続けているが、同時に不思議に思う事が多々ある。

 この村の住宅の構造が楽器のタンバリンに似ている事もその一つだし、今回のサーベラスの件もそうだ。

 言葉が通じる件といい、謎は深まるばかりだ。

 もしかしたら、この世界と俺のいた世界、地球は何か強い繋がりがあるのかもしれない。


「サーベラス……。確か文献では、鉱石洞窟マリンバで魔石の番犬となっていた魔従ですわね」


「魔石の番犬か。鉱石洞窟マリンバって何処にあるんですか?」


「タンバリンから半日ほど南に進んだ場所にありますわ」


「半日か。結構近いですね」


 普通に考えたら、半日も歩く距離は近いと言えないかもしれないが、ここに辿り着く前に散々歩き続けた為か短く感じた。


「よし。その鉱石洞窟マリンバってとこに行ってみようぜ? この村に起こった事件、それとネビロスと暴獣に関係がある気がする。もし本当に関係があって、助けられそうな事だったら助けよう!」


「うん。私も賛成。もしかしたら村の人達が消えた原因がそこにあって、助けてあげられるかもしれないもんね。それに私にも、ネビロスが暴獣を従えてたように見えたから、不思議だなって思ったんだ」


「私も姫様とご一緒します」


 俺とベルとメレカさんは、顔を見合わせて頷く。

 すると、ナオが元気に手を上げて立ち上がった。


「ニャーも行くにゃ」


「ダメだよ。ナオちゃんは危ないから待ってて」


「だから行くんだにゃ。この中で一番強いのはニャーだにゃ」


「うーん。そうかもだけど……」


 ベルが止めようとするも、ナオの言葉に弱気になる。


「巫女姫様、暴獣の巣での一件もありますし、ナオ様は止めても後ろから尾行する様なお方ですわ」


「そうね。姫様、いっそ連れて行って、我々と一緒に行動した方が良いかもしれませんよ」


「さっすがミナミナと姉様。わかってるにゃー」


「うーん……わかったよぉ」


 ミーナさんとメレカさんの冷静な判断によって、ナオを連れて行くことになった。

 俺としては、この中で一番の実力者であるナオが来てくれるのは、正直かなり心強い。

 が、やっぱり見ていて妹と重なる部分が多い為、心強い反面心配でもあった。

 そして、まだ幼いこの少女に、頼らなくてはならないくらい弱い自分がいて複雑な気分だった。


「わたくしは、ここに残って村の子供達に危険が起きない様に見張りますわ」


「ミーナ、頼んだわよ」


「貴女こそ、巫女姫様とナオ様を頼みますわ」


 ミーナさんはメレカさんと言葉を交わすと、俺の方に体を向けて口を開いた。


「英雄殿、三人の事をよろしくお願い致しますの。どうかご武運を」


 その真剣な眼差しに、俺は応えたいと思った。


「はい! 任せてください」


 俺は未だに弱くて、この世界じゃ最弱だ。

 だけど、それでも俺を慕ってくれて、期待してくれる人がいる。

 それだけで、やる気が湧いてくる。

 こうして俺とベルとメレカさんとナオの四人は、各自で鉱石洞窟マリンバへ向かう準備をし、タンバリンを後にした。

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