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鐘がために英雄はなる  作者: こんぐま
第3章 想いの欠片
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27話 暗殺計画の真相

※今回もメレカ視点のお話です。



 ハンガーから聞き出したのは、私には信じられない程に……いいえ、信じたくなくても、母ならばと思えてしまう計画だった。

 全て、最初から仕組まれていたのだ。


 カルクは元々この国に来てはいなかった。

 では、何故こんな事をお母様が考えたのか?

 それは、全ては封印の巫女を殺す為だった。


 古より伝わる言い伝えでは、五百年に一度“封印の巫女”が誕生する。

 そしてそれが、まさに今年だった。

 そんな重要な年に産まれたのが、私の種違いの妹であるリビィだった。


 お母様は我が子を封印の巫女にしようと、既に教育の方針を固めていた。

 そして、その封印の巫女の力をもって他種族を支配し、必要であれば滅ぼすつもりでいた。

 だけど、そんな中でクラライト王国の王妃が身籠ったと言う情報を耳にした。


 クラライトの王族から封印の巫女が誕生する。


 それは言い伝え通りの事ではあったけど、お母様はそれを決して認めたくなかった。

 そして、魚人である民達が、我が子の誕生よりも封印の巫女の誕生に期待をしていた事が許せなかった。

 それ程に都の民達は封印の巫女の誕生を心待ちにしていたのだ。

 お母様はきっとそれに嫉妬したのだろう。


 だけど、私は思う。

 お母様は私を産んでから、随分と苦労されていた。

 私を産むきっかけがトラウマになり、後継者を産めなくて悩んでいた。

 宰相さいしょうのタンカーがお母様をなぐさめ、その結果に婚姻を結んだのは都でも噂になった。

 でも、子は産まれなかった。

 そんな中、新しく婚姻を結んだ二人目の夫を持つ事で、ようやく出来た子がリビィだった。

 きっと、お母様はそうして苦労して出来た子のリビィより、この世で最も憎い種族のヒューマンの誕生が期待されている事に嫉妬して許せなかったのだ。


 だから、お母様はクラライトで誕生した子供が封印の巫女として産まれた場合、カルクと繋がりがあると言う証拠を偽装して殺そうと考えた。

 そしてその偽装を任されたのが、私の為にと来てくれたハンガーだった。


 だけど、偽装なんてする余裕がハンガーには無かった。

 それもその筈だ。

 何故なら、この大事な時期に王妃様が一人になる様な事はある筈も無いし、何よりもずっと私が側にいたのだから。


 そうして何も出来ずに時だけが流れていって、先日、お母様から家族全員を処刑すると脅しの手紙が届いたそうだ。

 ハンガーが焦っていたのは、この手紙が原因だった。

 だから、私が確認の為に宿舎に向かうと予想して、わざと王妃様の寝室に形跡を残したのだ。

 そして、ハンガーは姫様を直接自分の手であやめようとした。




 全てを聞き終えると、私は酷くショックを受けた。

 だけど、姫様の温もりが腕から伝わるおかげか、思った以上に冷静でいられた。


「苦労をかけましたね、ハンガー」


 私が話すと、ハンガーは再び涙を流して「ごめんなさい」と謝った。


「ですが、ハンガー。貴方のした事を、見過ごす事は出来ません。それに例え私が黙っていたとしても、そこに倒れている騎士を見れば、直ぐにここで何かがあったと分かります」


「仰る通りってなもんです。俺はどんな罰をも受ける所存です」


「そうですか……。では、今から貴方を騎士に引き渡――――」


「その必要は無い」


「「――――っ!?」」


 不意に扉の方から声がして、私とハンガーは驚いて視線を向けた。

 するとそこには、国王様と王妃様と第一王子、それから侍女数人と近衛騎士が何人も立っていた。


「もう。酷いわ、メレカちゃん。夫が話しかけるまで、全然私達に気がついてくれないんだもの」


「まあまあ。それだけ、二人は真剣だったって事ですよ、母上」


「しかし、まさかメレカとハンガーが賊だったとは。私の人を見る目も衰えたものだ」


「あら? そうかしら? メレカちゃんもハンガーくんも、とってもいい子達じゃない。あ、でも、ベルを夜這いするのは駄目よ」


「夜這いって……母上、今そう言う冗談はいらないから」


「あら? いいじゃない。だって、メレカちゃんがベルを護ってくれたから、無事なんだもん。ここは笑顔をとりにいかなきゃ」


「はあ。父上、母上に喋らすと話が進まないから、早く二人に今後の事を話して下さい」


「そうだな」


「そうだなって、アナタまで酷いわ」


「あーあ、拗ねちゃいましたよ」


 国王様も王妃様も第一王子も、まるで私達二人とは別の事で話している様な会話、温度差の違い。

 その事に私とハンガーが驚いて何も言えないでいると、国王様が私達の目の前まで来てかがみ、私達の目線にわざわざ合わせてから微笑みなさった。


「メレカ、よくぞ私の娘、ベルを護ってくれた。感謝する。そして、ハンガー、今までお前の悩みに気づいてやれなくてすまなかった」


「国王さ……ま…………っ。お、俺は……俺はなんて事を……っ」


 ハンガーは、まさか娘を殺そうとした自分が謝罪されるとは思わず、再び涙を流した。

 すると、国王様がハンガーを抱きしめて、その幼く小さな体を包んで頭を撫でられた。

 そして、真剣な面持ちで私と目を合わせた。


「メレカ……いや、アマンダ殿下。一つ、私に考えがあるのだが、良いだろうか?」







 クラライト王国の国王様の提案によって、全ての……とはいかないものの、問題が解決した。


 解決方法は実に大胆な方法で、国王自ら筆を取り、私の母に一筆入れると言うもの。

 それの何が大胆かと言うと、その内容だ。


 今回の暗殺の計画の内容を全て書き、更には私の素性やハンガーの事を書いた上で、それ等を交換条件として使ったのだ。

 それ等を公開しない代わりに、私とハンガー……そして、ハンガーの家族を不問にせよと。

 万が一私やハンガーやハンガーの家族に不幸があり、その件で少しでもこちらが疑えば全て公開すると。


 その結果、お母様は私にも、ハンガーとハンガーの家族にも手出しは出来なくなった。

 それもその筈だ。

 例え事故に見せかけて処罰しても、国王様が疑えば公開するのだから、どれだけ事故だと言っても無駄なのだ。

 処分すれば知られた時点で公開される。

 これは取引では無く脅し。

 お母様はクラライトの国王様に脅されたのだ。


 今回ばかりは、お母様もその脅しに屈するしかなかっただろう。

 そもそも“封印の巫女”の誕生は、姫様がご誕生になられたその日の内に、世界中に知れ渡っていた。

 封印の巫女と言うのは、それ程に世界全ての民から注目されているもの。

 その封印の巫女の暗殺を企てたとなれば、クラライト王国どころか、世界の全てを敵に回す事になる。

 最悪同種である魚人すら敵に回す恐れすらあった。

 だからこそ、お母様は周囲に知られない様に、暗殺を企てた。

 結果、暗殺は失敗に終わり、国王にそれを利用された。

 幾らお母様が嘘偽りで「暗殺など企んでいない。これはクラライトの国王の陰謀だ」と言ったとしても、きっとそれを真実だと捉える人は少ないだろう。

 クラライト王国の国王様は、それだけ民に愛されているし人望も厚く、他国からも信頼されている。


 こうして解決したけど、私はお母様への罪悪感で胸が締め付けられる思いだった。

 でも、それでも後悔していない。

 クラライトの国王様はこの交換条件以外をお母様に求める事はしなかったし、誰かが死んだわけでも無い。

 それどころか、下手な手段で解決をしようとすれば、死んでいたかもしれないハンガーの家族を護る事も出来た。

 だから、これで良かったのだと思った。

 それでも、お母様を裏切ったのだと、私は自分を責めた。


 そして、お母様から“最早お前は妾の子では無い。二度と帰って来るな”と、一通の手紙が届いた。


 お母様からの手紙が届いたその日から、アマンダ=M=シーの存在はバセットホルンから完全に抹消され、私がその名を口にする事は無くなった。

 私は国を捨て、メレカ=スーとして、クラライト王国の第一王女ベル=クラライト……姫様の為に一生を捧げようと誓った。


 ただ、やはり……お母様の為に、この命尽きるまでお役に立ちたかったと、大きな心残りだけは残っていた。







「そろそろ着くわね」


 不意にイザベラの声が聞こえて、私は意識を現実へと引き戻す。

 あれからどれだけ時間が経っていたのか、牢のガラス張りの小さな窓からは、海底神殿オフィクレイドの海域の景色がうかがえた。


 もう直ぐで私は生贄の祭壇で、生贄になるその時を待つ事になる。

 最後に一目だけ、姫様のお顔を拝見したいと願っても、もう叶わぬ願いだ。


 私はこれから、“聖獣せいじゅうリヴァイアサン”の生贄として捧げられる。

 バセットホルンの守り神とも言われる聖獣様だ。

 聖獣様はバセットホルン開国の手助けをして下さった龍で、昔は聖獣ではなく人を食べる暴獣ぼうじゅうとして知られていた。

 聖獣と呼ばれる様になったのは、バセットホルン初代女王を導き、魔族を倒して魚人を多く救って下さってからだ。

 それ以来は国の守り神として称え祀られて、大きな戦の前には生贄を捧げる様になった。

 しかし、聖獣と呼ばれるリヴァイアサンに、生贄と言う言葉は合わない。

 その為、民には罪人の処刑として、聖獣様に罰を与えてもらうと公表されるようになった。


「やっと辛気臭い汚れた血の女とお別れ出来るわ。ほんっと反吐が出るくらいに気持ち悪かった」 


 イザベラはクスクスと笑みを浮かべて、私に視線を向けた。

 けど、私はとくに何かを言うつもりは無いし、話そうとも思わなかった。


 イザベラは昔からこういう子だった。

 今だからこそ思うのだけれど、母に一番性格が似ているのは三女のイザベラだ。

 私とリビィは見た目こそ母に似ているけど、性格は全然違う。

 イザベラは見た目が母に似ていないせいか、見た目に劣等感を持っている。

 だから、この子は母に気にいられているリビィには昔から何も出来ず、姫様の付き添いでバセットホルンに訪れた私に嫌がらせをする。



 そう言えば、昔姫様の付き添いで来た時に、ハンガーが大工になっていてびっくりしたわね。

 あの時は姫様に紹介したかったけど、船酔いでお部屋に閉じこもられていたのだっけ?

 それで、買い出しにと出かけた先で再会したのよね。



 ハンガーはあの事件から直ぐに、クラライトを去っていた。

 姫様を殺そうとした事に後ろめたさを感じて、家族の元に戻ったのだ。

 だから、再会出来た時は無事で良かったと思い、本当に嬉しかった。

 だけど、頭にねじった布を巻いていて、騎士と言うよりはおじさんって感じになっていて笑ってしまった。

 ハンガーは騎士より大工の方が天職だったと言いだすし、それがまた面白かった。

 それに、去年貰った手紙には、息子の大工捌きが凄いだのと書かれていて、極めつけは“息子には大工の血が流れている”だ。

 元々騎士の家系なのに、大工の血だなんて書くものだから、それが可笑しくて仕方が無かった。

 それを思いだしたら、なんだか可笑しくて「ふふ」と笑みが漏れた。


「――っ? 急にどうしたのよ? 気色悪いわね」


「ごめんなさい。なんでもないわ」


 私は答えて、窓の外を眺めた。

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