起承転結
チェダーを誰かが持っていった。
ああ チーズは何処に在りや
現状は統計的に見れば満ち足りている。
維持を良しとし、他人の射幸心を煽る愚兵諸君。
ああ 心は如何にして心足りうるのか。
現状は統計的に見れば満ち足りている。
維持に甘えず、進歩という甘味を胸に更なる危惧を吹聴して回る不行き届き諸君。
ええ、心は此処に在るとしてそれ足りうる。
今昔すべてすべてが
須らく滴らずもとは白かったキャンパスに
色を重ねてきた。
これより今後これからも
舌っ足らずのウォーモンガーは
色を描き足していくであろう。
なぜならば――
――朝だ。
蹴っ飛ばされた身を起こし、私にとって今から始まるであろう一日に一瞥をくれる。
もう昼下がりまで十分前だ。
ぐうすうと隣に眠る厄介事を揺さぶる。
「う…ん、あと十分…」
お手本のようなタイミングで『明日から始める遅刻実践法』の第一節に載っていそうな寝言を披露されるとは思わなかった。
ここは手刀で叩き起こす事にしよう、ついでにお湯を沸かそう。
「ひゃいっ!?な、なんです!誰!?」
「私よ、余程寝心地が良かったと見える」
「あ、あー…いつの間にか寝てしまってたんですね、おはようございます」
「まったく、いつもこうなの? 寝付きがいいのは見倣える。
だけど、人のベッドであと十分なんてのは感心しないわね」
「はは、そうですね。人のベッドでもよく寝られるなんて自分は改めて凄いと…人の…」
突如黙り込む。見ると彼女の肩がふるふると震えている。
「ん どうした、具合でも悪いの?」あ、沸騰した。
「あ、い、いえ 今まで…他人と寝たの初めてでして…
その、私のはじめてのお相手は中尉殿であるからして…つまり」
「つまり?」
「せ、責任をとってくださ…」
私は淹れたての珈琲を亜光速の速さで投げつけた。
朝露も乾く昼辺り、絹を裂くような悲鳴が鳴り響いたのであった。
うん、今日も元気だホットが美味い。
「さて、アレン君。身支度をしなさい、軍へ迅速に伝えるためにね」
「うー、朝からひどい目に遭いましたよ」
誰のせいだと言いたくなるが、ここは堪えよう。
「それで、本当に戻る気はないんですよね」
「当たり前よ、今まで食ったパンの数を答えられるようなら考えてやってもいいけど」
「フランスパンになる前の生地は含まれますか?」
「胃の中でふっくら焼きあがったらね。さあ出発」
「え、中尉も行くんですか?」
「ミサゴでいいわ。そうね、転職先が見つかったから報告も兼ねて」
「兼ねて?それはどういう」
「本人からの申告書、よ
では行きましょうか。アレン君」
私は珈琲を飲み干した。
タクシーを捕まえ 再び街を出る。
軍の施設はここ ハーキンス州にはおおまかに分けて三つある。
一つは街のすぐ近く。ここが主に主要部隊を統率する、エリート達の拠点である。
次に町外れにある新兵訓練所プラス新兵器造兵廠。
ここで私は統率者として勇往邁進していたのだが、
いや、私の話はあとにしよう。
最後に海岸近くの艦停泊所及び電磁防波堤構築場。
規模はそれなりに大きく、津波が来たときもここで対処する。
走り続けて一時間と少々。
まだ珈琲の余韻が舌の根に残る午後この頃。
傘の要らない程度の日差しを受け、心地良い秋の羽根が頬を撫でて通る。
とても気分がいい。こんな日は歌でも歌いながらハイキングにでも出かけたい気分であるのだが、それはまた今度にしよう。
「そろそろ着きますよ」
「そうね」
三日振りだわ
ゲートが開く。
事前に報告していたので入場はスムーズだ。
「全員、少尉に敬礼!」
きびきびと同じように動く兵士たち、見慣れた光景である。
「中尉?、中尉殿でありますか!」
「ああ。だらけてはいないだろうな、貴様ら」
「ハッ、中尉殿もお元気そうでなによりです。
中尉、小官一同は貴女がお戻りになることを心よりお待ちしております」
「残念ながら。私はもう軍へは」
「そうですか、でしたら新生活がうまく行くよう、祈っております」
「ありがとう」
≪訓練、再開 訓練、再開≫
それに応え 演習を振り戻す新兵達を見送り、私も上官の部屋へと向かう。
「ハドソン少将、いらっしゃいますでしょうか」
「入れ」
重苦しい木製のドアを開けると、そこには神妙な面持ちのハドソン・ニューマン少将が一服に興じていた。
「この度は残念だった。私も隊長達同様 貴殿が欠けたのは一軍人として誠に遺憾である」
「小官、いえ 私なぞに心残の意を表して頂けるのは
元 一兵士として感激の至りと存じます」
「ミサゴ・シトロネーチャー。貴殿が優秀というのは度々耳にしている。
そして新生活を街にて始めたというのも。
やはり、軍に戻る気は無いか」
「はい、ありません」
「ハドソン少将を筆頭に上官方には大いにお世話になりました。
貧民街出自の身を親身にここまで育てて頂いたのは感謝しております。
ですが、私が軍に再び戻るには能力を捨てねばなりません」
「それは、能力を有したままでは他国へ恐怖を与える事になると考えるからかね」
「は、その通りであります」
「恐怖心を煽れば他国、隣国との潤滑な政治交渉は望めません。
開戦を勃発する火種となってしまっては、折角構築した平和条約が破綻してしまう。私が此処に戻ったとしても復権は実現不可能な上、合衆国軍の崩壊が進む事は想像に難くないでしょう。
そして能力を捨てた場合もそれに依存した戦闘が不能になり、抑止力には程遠い人核に成り下がるだけです」
「ふむ、確かに軍には必要だが、能力と条約の関係上
戻り難い事は理解した。
では―――