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ノヴァーリス  作者: カゲミヤ
2/8

新天地

街へ出るとそこは未知の世界だった。

今まで寮等しか目にしたことが無かった彼女にとっては

そこはまさに異世界と呼ぶには充分。

子供達がまるで時を知らないかの様に遊び

すぐ傍の店からはピザのいい匂いがした。

遠征任務でヒモトという同盟国へ赴く事はあったが

意外な事に彼女は自国のことはあまり知らなかった。


治安も悪くないらしい、

バスの席を互いに譲り合うのを道中目にしていたからだ。


ここでならやっていけそうだ。

そうと決まればやれ急げ、

時間は待ってはくれない。

「まずは飯より宿!」

そう意気揚々と1歩目を踏み出した所だった。

彼女の頭上から足先へと真っ赤なペンキが降り注ぐ。

―――ついでに青も。

今日は変わった天気だな、色が降ってくるとは

「やー、ごめんな 嬢ちゃん」

のんきな声もおまけ。

すぐに飛んで来たのは気の良さそうなおじいさん

「きっと落ちないべさ、新しい服買わねばな」

口調はのんびりだが内心困りに困って頭を抱えるペンキ屋をよそに

彼女は持っていた飲料水を自分へと浴びせ掛ける。

すると忽ちインクは『消えた』

物を消す能力というのは


現象も、過去も、感情も

物体現象この世の事ならば全て善も悪も消却に帰す破壊の別称である。


忽然と姿を消した二色を目前とし、呆然とした顔が浮かぶ。

無理もないが、少し可笑しかった。


こんな私の能力も役に立つ時がある。

今までは戦闘、害虫駆除、掃除、片づけが主だったが、

汚れを落とす事もできたとは。

意外と便利かもしれない

そうだ、生ゴミだって捨てに行かなくて済む。

その分の時間を有意義な本分に活用できるのだ、

使わぬ手はない。


無事で良かったと言ったような態度を示す老人。

だがペンキがないらしい 今日はここまでとため息を漏らす。

その点もご心配なく

手をかざすとペンキは元の缶へと戻っていった。

私の能力は戻す事もできる。

許容量限界が来たとき、こうやって戻してやるのだ。

今回の用途は限界に行き至った訳ではないが。


許容量を超えるとどうなるかは私にも分からない。

だから許容範囲を超えないよう

定期的に吸収した物質を返還、または昇華(消化)することでエネルギーの暴発を防いでいる。

自分の意思でしか戻せない事に目を瞑れば

なかなか便利な能力だ。

感謝の意を表す彼は

何か手伝う、贈られるものは無いか と聞いてきた。

私はこう答える

「そうですね、じゃあ


宿を探してるんですけど」




彼の家に泊まらせて頂く事になった。

拠点確保、陣地構築。

屋根裏部屋の広いスペースが自由に使えるとは

これは有り難い。


正直、孤児院にも行けなかった私が

街で暮らせるとは思わなかった

幼い頃は盗みを働き、

私腹を肥やす毎日。

そんな日々から救ってくれたのが

参謀対策本部長

准将司令だった。

彼女は私に生きる術と希望をくださった。

食事を与え、職を与え、

私を兵士に仕立て上げてくれた。

私がもと居た所の貧しい者に糧食を配った事もあった。

ただひたすらに優しかった。


あの人のようになりたいと思っていた。


私を除隊させるとき、悲しそうな目をしていた。

焦燥からくる不安で私が勝手にそう思っただけとも捉えられるが


人核となった私達を前に 相も変わらず教鞭を振るい、

軍卓に立つ。きっと今頃も…



いかん、…ホームシック気味になってしまった。生きねば。

過ぎ去りたる事柄でなく【今から】を考えねば。

彼女に顔向け出来るよう日々精進をしなくてはならない。


―――明日、ペンキ塗りを手伝うことにした。

私はもう軍人ではないのだ。

翌日の暮らしを考えていくのが妥当であろう。

今日はもう寝よう、

朝に備えて、

今日は、休もう。

おやすみ


こうして一日が減っていき、また新しい朝が始まる。

そして昼に向かって朝が少なくなり、次へ次へと月がかけていく。


今世は夜風に香る風景を三度見て思う。

副次的な人間が どこまで進歩を続けるのかと。

新芽を紡ぐ植物的科学の信仰は

果たして破滅を予感できるのかと。

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