Peace/Raging2
―――何よりも先ず対価を払え
生きる為の対価を
戦機を捥ぐ兵士
「納得できません!」
朝の執務室に声が鳴り響く。
准将からの召集を受け、何があるかと思えば
突然退役願にサインをなどと言い渡され
転職を勧められた所である。
その表情は冷静を取り繕ってはいるが
目は困惑で揺らいでいる。
上官の命令に楯突くなどピンのない手榴弾を眺める様なものだが
それでも彼女は異議を唱えずにはいられなかった。
「小官に何か過失でも」
「まぁ落ち着け、ミサゴ・シトロネーチャー中尉。
貴官は優秀な軍人だ。
指揮、新兵訓練時の演説、戦闘能力、交戦予知。
どれを取っても超一級品との呼び声高く、邁進の暁には彼女が私の後釜だと軍上層部達は口の足並みを揃えていた。手放すことは軍の衰退を意味する。
だが、それしか方法は無いのだ」
「核撤廃条約については貴官も耳にしているだろう」
「は、ヒモトの非核三原則を議題の根幹に
核の必要性が世界で見直され、約二年前に決議を通った条約の事でしょうか」
「その通りだ」
「永久機動無限機関が開発されてから二年。
核は最早主力としてのエネルギー源には危険すぎる。
その点、新テクノロジーの無限機関は世界を動かしていく動力源として十分だろう。
安定性と調和、
この二つが欠如している過去の遺産から新時代の基盤に取って代わる他に選択肢はない
故に核は廃絶した。
だが主力がいくら安定化した所で抑止力がないのでは国は守れない。
そこで次に【人核計画】が推し進められた。
人核計画とは人間の精神・身体能力・超能力を
薬物投与によって飛躍的に高め、
軍事組織を超越した警察を作り出す計画のことであり
軍の一部にも旧式が支給され、作業効率は倍以上をも叩き出した。
が、それに伴い費用捻出・役割減少が国を叩く。
最初は非人道的と連日批判が相次いだこの計画
これに使用される薬物は副作用が皆無な事が判明、騒動は静まっていった。
加えて、軍人では他国へ威圧感を与えると共に
防衛費も警察と我々で二重に掛かる。
他国も派遣が予想されるような大々的な抗争は起こっていない事もあり、
合衆国軍が萎縮するのは政治を生業とする者達にとって必然の宣託であった。
この結果を是として考え
さらなる躍進をと勇み足で進めようとする我らが合衆国
貴重な人的資源が削減されてしまうのは本意では無いのだが、
国の意向には従うしかあるまい」
「それで、私が、解雇と」
「そういう事だ 中尉
…もう一つ理由がある。
他国からのクレームが酷いのだ。
核よりも恐ろしいと評判でな、
これからは人核としてでは無く、
ごく平凡な一般人として生きていきたまえ」
何たることだ…
スラム街で司令官に拾われてから十数年。
今まで軍でしか過ごしたことが無いというのに
せめて恩を返そうと戦場を歩くしか脳がない私が!
街で暮らせと言われただと!
一体どうやって!?
そもそも闘争が起こらないとも限らん、
お上は何を考えているのだ!
全世界停戦協定も視野に入れているとは言え、
これではあまりにも対他国防衛が貧弱すぎる。
他国が核を秘密裏に製造しないとも限らないし、
もし隣国同士が小競り合いに発展したら巻き込まれるのは必至!
警察だけでは些か信頼に乏しいのでは?
というか私ってそんな恐れられてたの!?
地味にショックだ…
「そう気落ちするな 中尉
あてが無いならば扶助を部下に頼むが…」
「い、いえ お心遣い 感謝致します
アテなら御座います。」
「うむ。では幸運を祈っている。
…たまには顔を見せに来給え」
「は、失礼します…」
とは言ったものの、
あてはない
家もない
服なんて支給されたのと最低限くらいしか持ってない…
そもそも戦闘用技能を何に活かせというのだ。
物体を消して糧にする能力。
腹が膨れればいい能力なんだけどなぁ。
はぁ…
明日から頑張ろう…