嗜好品のない生活
どうやらカフェインアレルギーになったらしい。
好きなコーヒーは勿論、緑茶や紅茶を飲んでも腹痛を起こすようになってしまった。
麦茶を沸かすのも面倒で、最近は水しか飲んでいない。
それまではカフェに行ったり、休憩時間に楽しんでいたのだが、生活に彩りがなくなってしまった。
息抜きができない、食事が物足りない、心が満たされない。
ノンカフェインのコーヒーがある事は知っているが、取り扱っている店が近辺でなかった。
今日も残業終わってとぼとぼと家に向かう。
家の近くまで歩いていると車が真横に止まって窓が開く。
「久しぶり」
行きつけのコーヒー屋のマスターが顔を出す。
アレルギーが出てから全く顔を出してなかった。
「近ごろ来ないけど仕事キツい?」
「いや、カフェインアレルギーになったみたいで、お腹痛くなるんです」
「それだったら、ノンカフェインコーヒーあるよ」
「えっ、メニューに無いですよね?」
「うん、裏メニューだから」
何だか拍子抜けしてしまった。
コーヒーを含むカフェイン入りのものしかないはずたから、カフェに行きにくかったのだが。
「今日は遅いから明日おいでよ」
そう言ってマスターは走り去ってしまった。
嵐の様なひと時だったが、自然と頰が緩む。
憩いの場所にまた行ける。
コーヒーがまた飲める。
そう考えたら足取りが軽くなった。
明日のコーヒーの味を想像しながら家路を急いだ。
カフェインレスの缶コーヒーがあったら買いたい。