こんな展開になるならと
こうして勇者、という事になった俺は城の一室に案内されていた。
TVで見たやけに高級そうなホテルといった風に調度品も、なんとなく高そうと俺は感じた。
そもそもそんな高級品に触れるような生活なんて俺はしていないので、居心地が悪い。
「ここにある瓶って触れて傷がついたらどれくらいの賠償金が……怖すぎる」
「おやおやご主人様、そんな部分は気にする所ではありませんよ、勇者様なんですし」
「勇者って言われてもついこの前までは“普通の男子高校生”だったからな」
「そうなのですか? 異世界は本当に魔境ですね。私を呼び覚ませるだけの魔力があるのに、“普通”だなんて」
そう、この勇者の剣の精霊という少女が俺に言う。
確かに言われてみればこちらの人の感覚ではそういうものかもしれない。
でも魔力とか魔法とかそんなもの、俺達の世界であるのはゲームや小説の世界くらいだ。
だがよくよく考えると異世界召喚なんて、同じくゲームや小説でしかお目にかかったことが無い。
俺の中の常識がガラガラと崩れていく。
そう俺が悩みながらベッドの端に腰掛けると、何故か剣の精霊が俺の隣に座った。
「え、えっと、どうして俺の隣に?」
「勇者様に会えたのが久しぶりなので嬉しくて。ちょっと隣に座りたいなって」
「あ、そうなんだ」
そういえばずっと宝物庫にいたから、人のぬくもりが恋しいのかもしれない。
でもこうやって隣に座られてしまうと、何というかこう、意識してしまいそうになる。
美少女なのも含めて、あまりそういったことに免疫のない俺は、体がこわばってしまう。と、
「そういえば自己紹介がまだでした。私は、“勇者”の剣、イクスです。よろしく。ご主人様のお名前は?」
「菱倉新一郎です」
「シンイチローだね。これからもよろしく」
「よろしくお願いします」
挨拶をしてイクスをみる。
金髪碧眼色白、さらさらとした髪が綺麗で、薄い布を重ねたような服に変わったアクセサリーをつけている。
これからこの子と一緒に旅をすることになるのかと思いながら俺は、
「そういえば、あの現れた女神デメテル? が言うには、魔王を倒すのとこの世界にいるクラスメイトをコンプリートしないと元の世界に戻れないらしいんだが」
「そうなのですか? 結構広いですからね。何人くらいですか?」
「俺を含めて30人」
「多いですね……変な場所に落ちていないといいですが」
「特殊能力があるから大丈夫だと思いたい」
「そうですね……女神様も鬼ではないのでそういった、乗り越えられない変な場所にはないと思いますが。そういえばご主人様の特殊能力って何ですか?」
「それがよく分からないんだよな。なんか一部説明を聞き逃した気がする」
そう俺は答えながら小さく呻く。
特殊能力に関して何か言っていた気がするが、あまりにも頭がおかし……ではなく、常識では測れないような発言であったために、脳が一部覚えていないようだった。
こんな展開になるならと俺が悔しく思っているとそこで、部屋のドアが叩かれる音がしたのだった。
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