俺は、思いついた
その異音に俺は覚えがあった。
同時にその気配も。
はっとしてその音と気配の方を振り返る。
ユキナも同じようだった。
この中では、異世界人の方があの“魔族”には敏感なのかもしれない。
黒い馴染のあるマネキンのようなあれが現れようとしている。
ユキナが呟いた。
「そんな、まだこの辺りは50%程度だったよ!」
「もしかしたなら出現には別の要因があるのかもしれない。というか、こんな街中でしかも、周りには幾つか小さいのも姿を現そうとしていないか?」
人口密集地に現れた、“魔族”。
しかも周りにもたくさん存在している。
この状況では、大量の死者が……。
状況が分からない。
だから少しでも現状を把握するために俺は、
「特殊能力“合わせ鏡”」
呟いて、即座にその光の枠の中に飛び込む。
出口はすぐそばの建物の屋根の上だ。
障害物の少ない場所で状況を確認したかった。
だが、飛び上がった俺の視線の先には複数の“魔族”の姿が見て取れる。
後ろも含めてぐるりと見回すと、
「1、2、3、4、5、6、7、8体。一体でもあの惨状なのにここに8もいる。そしてそのうちの一つは……“危険”、特に邪悪な存在か」
俺の視界の範囲内で、その中で特に黒い色をしている不気味な存在に気付く。
他とは違う、言うなれば、“魔王”のようなそんな気配。
以前“魔族探知レーダー”で妙に大きい“魔族”がいた。
それがこの、“魔王”と称するべきものかもしれない。
そして現在は生み出されたばかりのようだ。
「まだ動いていない。動く前、魔王がやってきて姿を現すのが、勇者である俺が一番初めにやって来た城の城下町。城に近いという意味では、王道か?」
冗談めかした皮肉をつぶやくが、少なくとも俺の知っている物語ではいきなり魔王が現れて城周辺を破壊つくしたりはしていなかった気がする。
リアリティ云々に関して考えるとこの展開は現実味があるが、
「あまりあっては欲しくない展開だな」
異世界の人間とはいえ、この世界の人間が目の前で虐殺されているのを見させられるのは……寝覚めが悪い。
物語のグロ展開はそこそこ許容できるが、現実のグロは許せない。
その程度の、一般的な正義感は俺は持ち合わせている。
だから、考える。
この危機的状況に対して、俺は何ができるのか。
俺のこの能力で何ができるのか。
「ぶった切るように転送は出来ない。けれど、攻撃を受け流すことは可能」
ここ一体全てを覆うように転送の魔法を敷くか?
そして攻撃を受け流していくか。
人のいないような特に影響の無さそうな場所に。
けれど俺が見まわした城下町はとても広い。
この全てに俺の能力を使って結界のようなものを張るのか?
「魔力が多いとは言えそこまで俺の力はもつのか? 考えろ、考えろ。逆転の発想が今必要なんだ」
そう呟きながらも事前にある程度この“魔族”との戦いを想定しておくべきだったと俺は思う。
何かが起こる前に。
常に。
準備を。
いや、今そんなない物ねだりをしていても遅い。
では、どうすればいい?
どうすれば。
「……そうか、攻撃がこちらに来なければいいんだ」
思いついたある案に俺は笑う。
そして俺は、それを実行すべく力を使ったのだった。




