魔族を倒しました
力を込めて、真っ二つに切り裂いた。
人間であれば、これで終わりである。
けれど相手は魔族という俺にとって未知の存在。
先ほど空間操作を行い、別の空間と接続してから、再接続という方法を取ってみたが特に効果はなさそうだった。
シャロの魔法攻撃の援護もあって、そちらに気を取らせながら接近できたから現在のように“生物”相手であれば致命傷を与える攻撃を叩き込めた。
だが状況がわからない今、このまま一旦距離を取ったほうが賢明か、それともさらに数撃攻撃を加えるべきか。
悩ましいが、俺は後者を選択した。
初めて遭遇した相手とはいえ、これほど俺の中で無意識の理屈に合わない危険を感じる相手はそうそういない。
そう思いながらさらに剣を振るった。
幸運な事にその間俺に攻撃は無かった。
最初の一撃ですでに攻撃できる余力が残っていなかったのかもしれない。
そこで風船がぱちんと弾けるような音がして、その黒い存在が霧散した。
代わりにぽとりと、石が地面に落ちる。
よく鉱石などを売っている時に見かける、“蛍石”に似ている。
赤みを帯びたそれは、正八角形のような形をしていて、一辺が俺の親指の爪くらいの大きさだ。
「赤い石がでてきたが、これは触って良いものなのか? あ、シャロこれは拾っても大丈夫か?」
「ええ、魔力を増幅する魔道具に使えるわ。倒す相手が発生した時間が長くなるほどその結晶というか核は大きくなって、破壊の力を使うのが効率的になるから面倒なのよね。でも本当に魔族を簡単に倒せちゃうのね、勇者の剣」
そこで剣を見るシャロだがイクスがでてきて、
「そうなのです、といいたい所なのですが、シンイチローの力が大きすぎてあまり私の出番がない感じでしたね。残念です」
「やはり異界から来た者は凄いわね」
と言って話しているのを聞きながら、そこで剣の精霊イクスが俺に、
「でもご主人様、魔法を使われた時何で私を使ってくれなかったんですか?」
「いや、防がないといけないし」
「魔法も一応は切れるのですよ、私」
「防ごうと思ったのでそのような発想には至りませんでした」
「ではこれからよろしくお願いします」
イクスがそう言って抱きついてくる。
「でも初戦でご主人様が無事でよかったです。訓練された人間でもああも上手く一番初めは魔族相手に動けないものなんですよね」
その言葉に反応したのはシャロだった。
「そういえばシンイチローは、剣の扱いに幾らか慣れていそうだったけれどどうして?」
「学校の授業で“剣道”をやっていたことがあるから」
「ケンドウ? そんな剣を扱う授業があるんだ」
シャロが頷いているが、そういえばあの体育の先生、“実践抜刀術”を教えていたと聞いたことがある。
やけに俺は気に入られてしまい、雑用部という、助っ人派遣部のような物に入っていろいろな部活に時々顔を出していた俺だが、よく剣道部に呼ばれた記憶がある。
内申点の関係で帰宅部にはなれなかった俺だが、そういえばよく、 思いっきりが良い性格だなと言われた気がする。
今考えると魔族にいきなり攻撃して倒すとか、実戦経験のない俺がよく出来たなと思う。
人間いざという時は何とかなる……違うな、何とかなったから俺達は生き残ったのだ。
と、そこでシャロが俺に近づき見上げて、
「生きていて良かったわ」
そう言われたので俺も微笑み、そうだなとシャロに答えたのだった。
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