ただで済むと思っているの?
こうして訳も分からず頭に宇宙からの謎の信号を受け取っているとしか思えない、女の戯言だと片付けかけた俺だったのだが。
「それで、さっきから黙っているけれど、どうしたの“暗殺者”さん?」
先ほどから“暗殺者”と連呼している彼女。
だが俺は意味が分からない。
正確には全ての状況がだが、とりあえず彼女の……その目の毒のような、出る所は出てくびれる所はくびれている裸体から視線を横にそらせながら、
「え、えっと、ここはどこなのでしょうか」
「……まずは聞くところはそれ?」
「い、いえ、えっと、裸を見てしまいすみませんでした!」
目の前の彼女の怒気に恐れをあした俺は、謝り逃走しようとした。
だが背中を見せた俺の襟首を彼女はつかむ。
背後にむにょっとした柔らかい感触があった気がしたが、それを喜ぶ余裕もなく……女性にしては強い力で俺は捕まれているなと思いながら、
「ほ、本当に知らなかったんです! なんでこんな所にいるのかも!」
「嘘も大概になさい。ここは、リンウェント城の私専用の大浴場。そんな場所を知らずに入り込めるほどうちの衛兵は、間抜けではないわ」
そこで俺の首筋に何かが触れる。
ちりっとした痛みが首に走る。
どうやら俺の首につけられているのは刃物か何かであるらしい。
え、死ぬの?
俺こんなわけの分からない状況で死ぬの?
それを受け入れろと?
「い、いやだ、死にたくない! 俺、本当に何も知らないんです! 修学旅行に行ったらデメテルとか名乗る頭のおかしい女が、異世界だの魔王倒せだの言ってきて、そうしたらここにいたんです」
「デメテル?」
「そ、そうです、あの頭のおかしい……ひぃ!」
そこでぐっと何かの刃物を持つ手が強まったのを俺は感じた。
さらに背中に触れた柔らかいものが更に密着していたが、それを喜んでいる余裕もなく、
「言葉遣いには気をつける事ね。あの方の名前呼んで頭がおかしい、何て言ったなら……その場で、僧兵に殺されても文句は言えないわ」
「え、え?」
「本当に分からないの? デメテルはこの世界を作り上げた神の名。私達に力を与えたもうたかの方の名前。それを……なるほど」
そこで彼女は笑った。
「貴方、最近異世界から召喚されたという異世界人かしら」
「え? 異世界から召喚……召喚……いや、確かに私の世界へようこそみたいな事を、デメテルが言っていたような……」
そこで俺は、そもそもこんな赤く鮮やかな髪の女性をあまり見たことが無いと気付く。なんとなく順応してしまったが、色々とおかしい。
何でバスから浴場へ、お風呂をバスというだけに! という下らない冗談が頭に浮かんだがそこで、
「そういえば女神様がそこそこ前に、異世界から能力を与えて人間を呼んだといっていたわね、30人ほど」
「え?」
「それで魔力の高い順位こちらに呼んだから一番最後の子が魔力が高くなるって。だから私達王族は、魔王を倒す勇者候補として一番強い魔力を持つその異世界人をこの城に呼び出そう、そう計画したのよね」
楽しそうに背後で語る彼女。
どうやらそれが理由で俺はここに来てしまったらしい。
だが分かってくれたのかなという淡い俺の期待は、すぐに彼女に否定された。
「だからといって、王族の姫である私の裸を見て、ただで済むと思っているの?」
彼女は笑うような声で俺にそう告げたのだった。
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