ダブルベッドしかないぞ
この日は早々に休むことにした。
そして早めの夕食を、ミチル達ととったが、
「ミチル、この肉は何の肉だ?」
「ぶよぶよした生命体だが上手かった」
「……」
「郷に入れ郷に従え、だ。それに、ビズさんの料理は上手いぞ」
「ビズ?」
「あそこで姫の様子をちらちら見ながら隠れるように料理をしているのが、ビズさん。うちのコックだ。料理の腕に惚れこんで俺がスカウトしたんだ」
自信ありげなミチル。
その様子を見ながら、順応しているなと思う。
なんだかんだでうちのクラスメイトは逞しいというかなんというか。
それでも全員集まらないと元の世界に戻れないので、そのうち探そうと思う。
後は俺の特殊能力次第だ。
転送能力があれば、移動も楽だからあとは情報を集めれば何とかなる。
そしてギルドの依頼について考えていた俺は、
「ついでにクラスメイト一人ここに連れてこれないか? 確かフードファイターをやっているのがいるんだろう?」
「そうなんだよな。何でも、“ニホンリョウリ”というこの世界では見慣れない料理を使って無双をし、悪の美食会との戦いを繰り広げているそうだ」
「……そうなのか」
「ただ気になる点があってな……」
ミチルが言葉を濁してから次に、
「料理をすると宙返りをしたり、他にも小麦粉のようなものが七色の輝きを帯びて……といった、明らかに俺の知らない“ニホンリョウリ”の話が出ててな。そんな“ニホンリョウリ”、シンイチローはしっているか?」
「いや、そもそもそれは本当に料理なのか?」
「だよな……ここが異世界だというのも考えると、似た名前の料理がある可能性もあるのか……」
そう言いながら俺は謎肉につい口をつける。
衝撃を受けた。
こうして俺は食事を楽しんだのだった。
さて、今日は一部屋しか空いていないらしい。
そこでサヨが、
「シャロちゃんは私の部屋に寝る? 女同士だし、不安が全くないけれど、シンイチローも男だし」
サヨのその言葉に俺は地味に傷ついたけれどシャロは、
「いや、これから一緒に魔王退治に行く仲だ。別の部屋よりも一緒の部屋の方がいいと思う」
「そうなんだ……シャロちゃんがそういうならそれでいいよ」
「ありがとう、サヨ」
といった話を聞きながら、出会いはアレだったとはいえシャロと同じ部屋かと俺は思った。
思ったのはそれだけだった。
ちなみに勇者の剣の精霊であるイクスはすでに剣に戻り眠っている。
そして俺達は宿の鍵を貰って部屋に向かったが、
「おい、ダブルベッドしかないぞ」
「そ、そうだな。仕方がないな。一緒に寝ましょう」
とシャロは言うが、一応は未婚の男女が同じベッドなのはよろしくない。
お姫様であるシャロの将来の事を考えると、俺はあそこのソファで寝るべきだろう。
これから魔法を教えてもらうわけだしベッドは譲るべきだな!
そう俺は完璧な打算をしてシャロに、
「俺、そこのソファで寝るから」
「え?」
「俺、ソファで寝るのも好きなんだ。シャロがベッドを使うといい」
「いや、でも私ばかりが……」
「いいからいいから」
俺はシャロにそう押し通して、毛布を使い寝ることに。
転送の特殊能力の練習を、そばにあったコップでしながら、ステータスに書かれた特殊能力のさらなる性質を見つつ試したりする。
その間もシャロは負い目があるのか俺に一緒に寝ようと誘ってくるが、そういうわけにはいかないので俺はお断りした。
次の日。
「もっと早く言えば、ベッドをもう一つ用意したのに。……それに二人の部屋も作った方が良さそうだから臨時休業にして、階数を増やすか」
ミチルに話すとそう言われてしまったのだった。
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