正直にいいなさいというあの時の雰囲気に似ている
初日からとりあえず二名のクラスメイトの居所はわかった。
このミチルと言うのは俺の友人でもある人物で、フルネームは中嶋満。
俺と中学校からの付き合いで、何となく気が合うオタクだ。
それもラノベの方の。
それを考えるとさぞかし、この世界は居心地が悪かろうと思えそうなのだが、服装といい客引きといい慣れたものである。
いささか順応し過ぎの気もしたが、物語で異世界に言ったボッチが活動的になる……実はあれはリアリティがあったのかもしれないと彼を見ていて俺は思った。
そこでもう一人のクラスメイト、船山小夜に目を移す。
美人というよりは可愛い少女で胸と背丈は普通。
そこそこ長い髪の右側だけを縛って白いリボンを結んでいる。
料理がそこそこ得意という話を調理自習の時に聞いたなと俺は思い出した。
そこでシャロが俺の服を引っ張って、
「この二人は?」
「ああ、こちらが中嶋満、俺の友人だ。そしてそっちが、クラスメイトの船山小夜だ」
紹介するとお互いがよろしくと挨拶をしてそこでサヨが、
「それでこちらの方は、菱倉君とどういった関係なのかな?」
「私? 私はシャロ。シンイチローに入浴シーンを見られて、決闘で負けたから嫁になったの」
「……菱倉君、ちょっといいかしら」
そこでサヨが今まで聞いたこともないような冷たい声で俺に問いかける。
空気としては、母親が怒らないから正直にいいなさいというあの時の雰囲気に似ている。
酷い誤解を俺は受けている。
だから俺は慌てて経緯を説明すると、
「浴場に落ちた?」
「そうなんだ、何でも一番魔力の強い異世界転移者を城に呼び寄せるとかで、お風呂に」
「一番魔力が強い……そういえばここに飛ばされる時に私達は女神様に、『魔力が多いやつは、“重い”から時間的に少し遅くここに現れるかも』と言っていたような」
「俺、そんな話聞いていないぞ」
「途中から説明が面倒くさくなったと言っていたような。でももし今シンイチローがここに来たばかりなら私達一ヶ月くらい前にこの世界に来ていたんだと思う」
サヨの説明を聞いて俺は、呼ぶんだったら説明責任を果たせと思うと同時に、何だその時間差はと思った。
生活しないといけないと考えると、道理でここまで順応しているはずだとそこで俺は気づく。
そこでサヨが俺の横を通り過ぎてシャロの手を握り、
「シャロちゃん、女の子は自分の体を大事にしないと駄目よ?」
そう真剣に告げるサヨにシャロは目を瞬かせてから何故か顔を赤くして、
「それはその、分かっているけれどその、私を倒すくらい強い男の人は初めてで……その……」
「……なるほど」
サヨは今のシャロの言葉で何かを察したらしい。
次に俺を見て、頷き、けれどそれ以上何も言わなかった。
何が言いたかったんだろう、そう俺が聞く前にミチルが、
「まあつもる話は俺の宿にはいってからでいいんじゃないか? 一階は食堂になっているし。飲み物くらいはおごるぞ」
そう言われて俺は、今ミチルが俺の宿といったことに衝撃を受けた。
つまりこの高層ビル? のような宿が、ミチルの持ち物らしいのだ。
「……1ヶ月でこんな立派な宿を手に入れるなんて、どうやったんだ? ミチル」
「そんなのは簡単さ。俺の特殊能力、“小さな世界”で作ってしまえばいいだけだからな」
そう、ミチルは得意気に答えたのだった。
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