始まりの会議
登場人物をすでに決めており、それ以上増やさないようがんばっていこうと思います。
ここは清廉な白でつつまれた会議室。
「旧月帝国」のトップたちがあつまるこの会議室で物語は始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四の月 夏
会議室は静寂に包まれていた。中では二人の女性が離ればなれの椅子に座っている。別に二人は仲が悪いというわけではない。この会議ではそれぞれ決められた席順があるためである。
一人はすらりとした体型でまるで絵から出てきたような美貌をしていた。一つ一つの動作をとっても美しいのが見て取れる。もう一人の女性は落ち着かない様子だった。特に特徴のない女性はどこかそわそわしていて息をのむ音さえ聞こえてくる。服装をみても着せられている違和感がある。
「そんなに、緊張しなくても大丈夫ですよ。」
美しい女性の透き通る声で落ち着かせても、逆効果で動作が大きくなっている。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
全然大丈夫に見えない。しばらくすると扉の向こうから足音が聞こえてくる。
「やはりこの時間になるのですね・・・」
特徴のない女性は頭の上に?を浮かべていたが質問をする前に扉が開いた。だるそうに入ってきたのは茶髪チャラチャラした雰囲気の男だった。
「ちぃーす。あれ?今日人数少なくね?」
オールバックに長い髪の毛を後ろで縛りちょんまげをのような髪型をしており、Tシャツに短パンでサンダルというラフな格好である。しかしその腰にはぶっといベルトをして刀を二本さしていた。
「みなさんそれぞれ忙しいのでしょう。平和が続くと会議より実務を優先に行うようですね。」
「ふーん。そんなもんか。」
小声で来なくてもよかったなと言ったちょんまげは二人とは離れた席へ座った。
「それでは時間になりましたので、会議を始めようと思います。」
美しい女性は席を立ちあがり、二人に話しかけた。
「暦会議規則にのっとって、点呼から始めます。一の月、睦月が司会を務めます。」
少しの沈黙後、目線をふたりから受け慌てて特徴のない女性が、立ち上がり深々と頭を下げた。
「四の月、卯月です。今回が初めての参加ですがよろしくお願いします。」
ちょんまげは立ち上がらず椅子に座ったまま足を机の上にあげて、あくびをしながら言っている。
「八の月、葉月。卯月の姉ちゃんそんなに、かしこまらなくてもいいっすよ。」
「心配ありがとうございます。大丈夫です。」
「大丈夫に見えないぞ。睦月の姉ちゃんなんか言ったの?新人いじめ?」
「私はそんな陰険ではありませんよ。多分ですけど、緊張しているんだと思います。元々こういう場に出たことがないんじゃないですの?」
「そっ、そうです。その通りです。正直、私にこんなところは似合わないです。」
「似合う似合わないとかじゃないけどな。まあ、慣れるしかないと思うな。」
「忘れていたけれど、書記は葉月、あなたがしなさい。卯月さんは初回で書記は出来ないとおもうから。」
「えぇ~。めんどくせぇ~。つっても仕方ねえか。」
机の上に置かれた書記ノートに日付と参加者を書き込んでいく。
「それでは本日の議題を発表します。今回は【収穫したものを保管する貯蔵庫の場所】についてです。すでに、それぞれの担当から設置する土地の推薦があります。それに賛成か反対か意見をお願いします。」
「賛成でーす。はい、会議終了。」
「まだ、何処か話していないのですが。まあ、私も賛成です。会議は終了ですね。」
葉月はノートを閉じ、睦月は席に座ってお茶を飲み始めた。
「えっ?これで終わりですか?」
「そうだよ。今回みたいなすでに決まっている議題なんかはさっさと終わらせるものなんだよ。」
「反対にする場合はその理由とか資料をまとめなければいけないし、議題に上がる前に担当へ直接意見を言って反対意見を組み込んで議題にあげたりしているわ。」
「はあ、そうなんですか。聞いていたとおりあっさりしているんですね。」
「俺にとって重要なのはここからなんだけど、卯月の姉ちゃんはどっからきたの?俺たちの世界に似てる系?」
「私も知りたいですね。見た目は私たちと同じ黒髪黒目ですね。」
卯月家頭首は皆召喚者であり、多種多様の人間がついていた。前任者は金髪でほりが深い他国系で暦会議の中では浮いていた。
「そうですね。こことは違う世界ですがかなり似ています。私たちの世界では暦は時間の単位でした。」
「ほーん。それでそれで?」
「あとは魔法とかは物語でしか存在しなくて、かわりに科学という機械が発達しました。それによって山より高い建物を作ることが普通でした。」
「山より高い建物が魔法なしに作れる世界ですか。想像できませんね。」
「私も原理とか理論は知らないんで、こっちの世界で作ってと言われても出来ないですね。」
「まあ、見た感じ理論とか語る顔してないから誰も頼らないと思うな。得意なものないでしょ?」
「ちょっとそれヒドいよ!私にだって得意なことあるもん!」
「例えば?」
「例えば、知識はそこそこあると思うもん。リンゴとバナナを一緒におくと日持ちしないとか。」
「霜月の婆ちゃんが言いそう事だな。」
リンゴとバナナを一緒におくことは悪いことではない。バナナを早くおいしい時期に進める方法でもある。
「まあ、おばあちゃんの知恵袋みたいなのは否定しないけど、ちょっといいですか?話を戻すようで悪い気がしますが、この会議の議題に文句を言う時はどうすればいいの?」
卯月はあまり暦会議の詳細は知らされていない。こちらの世界に来て二日目である。
「この会議については事前に文書が届くのよ。この会議の出欠も一緒に取っているから、ここに来てない人は全員賛成で会議は欠席と通知が来ているのよ。」
「それは睦月さんがとりまとめているのですか?」
「いえ、違うわ。この出欠・賛否については一番最初に会議室に来た人が受けとるとこになっているのよ。だから、今回新人のあなたが来る前に会議室に行くよう前任の卯月くんにお願いされたのよ。」
「だからその話を最初に聞いてから、俺は参加する場合はギリギリで入室する事にしているぞ。」
「そうなんですね。私もその役はやだなあ。」
「本当はこの会議は3人の役目があって、出欠等の報告者。会議の司会者。内容の書記者の三人は必要なのよ。今回は兼任もしているけどね。」
「そういえば、三人以下になった場合はどうなるんだっけ?俺は出席した中で、今日の会議が一番人数が少ないんだけど、二人とか一人の時はどうするの?」
「それはほぼありえないのよ。私たち暦会議の中に一人報告書を見なくても出欠がわかる人がいるでしょ?」
「文月の兄ちゃんか。」
「なんでわかるんですか?」
「私たちにはそれぞれ担当というものがあるのは知っているわね?」
「ええ。一応呼ばれた日に卯月家は最終決定権を担当していると聞いています。それを聞いて正直荷が重いです。」
「大丈夫よ。ここ数年最終決定までもつれ込むことはなかったから。周りの国もこちらの国に攻め入る傾向もないし、まだまだ平和が続くと思うわ。」
「外交担当の睦月姉ちゃんがいうなら、大丈夫だって。」
「そうなることをずっと願っています。葉月さんはどんな担当ですか?」
「さんづけでよばれるのはくすぐったいな。俺の所は防衛担当。毎日鍛えているよ。」
「じゃあ、その腰の刀は」
「これがカタナだってわかる世界から来たんだ!?」
「ええそうです。私の時代から約200年位前は刀で争っていた時代でしたから。」
「そうなんすか。ちょっと親近感持つな。」
にこにこ笑う葉月は少年と青年のような年相応の雰囲気を醸し出していた。
「さてそろそろ。私も仕事に戻りますか。」
睦月が机に手をかけ立ち上がった。
「今日はありがとうございました。因みに何か前任者から聞いていませんか?今日の会議の時間と場所しか来ていなくて、このあと何をするのか全然話をきいていなかったんですが。」
「それならはい、これ。」
睦月は懐からきれいな紙を取り出した。中にはこの後の行き先が香かれていた。
(日本語だ・・・しかも達筆。)
あの金髪外国人は見事にこの世界に馴染んでいた。
「相変わらず綺麗ね。」
「この世界の人から見ても綺麗なんですね。」
「あの兄ちゃん多才だったからなあ。」
「今は何をしているの?」
「私もよく知らないんだけど、私がやる仕事をかわりに全部やっているみたい。だから、私自身がやることがとくにないんです。」
「いつか体壊すタイプね。」
周りの苦笑いでその日の会議は終了した。窓を開けると涼しい風が入り、爽やかな外の匂いが心地よい。これから暑くなる日を予感させる天気から新たな1年が始まる。