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沈黙の時間  作者: 孤独堂
9/23

 第9話 鈴鳴 早苗

名前が思い付かなくて、相変わらず自作キャラの使い回しになってしまいました。(笑)

 午後二時五十分。

 いつもの様にバイト仲間の大学生・松野隆がやって来た。

 「よお」

 言いながら、カウンターの加奈子の方に手を振る。

 「こんにちは」

 待ってましたとばかりに加奈子はいつもより、少し愛想良く笑顔で答えた。

 (やっと休憩だ!)

 先程の事で加奈子には、考える時間が必要だった。

 「なに? ニヤついて。なんか良い事でもあった?」

 加奈子の笑顔を勘違いした松野が、ニコ二コしながらカウンター内に入り、加奈子の方に近づきながら言った。

 「え、何にもないですよ。いつもと同じ……っていうより、いつもより運悪いかも」

 「なにそれ?」

 加奈子の言葉に笑いながら松野はそう言い、カウンター後ろのドアを開けて、

 「機嫌良い様に見えたけどな~」

 と、呟いて、中に入って行った。

 (全く、誰も何も分っちゃいない)

 「ハー」

 また加奈子は溜息が出た。


 午後三時。

 松野隆と交代で、加奈子は三十分の休憩に入った。

 今日は土曜日という事で、ニコ○コ本社の裏手の方の通りにあるこのコンビ二は、昼間は客が疎らだった。

 静寂漂う店内。店内放送のCMだけがバックヤードの休憩室にいる加奈子にまで聞こえて来ていた。

 椅子に座り、思わず店内放送の音に合わせて体を揺すりながら、スマホをタップする。

 とりあえずはツイッターで仕事のストレスを発散。

 

 -土曜日なのに働いてる土曜日なのに働いてる土曜日なのに働いてる

  大切な事なので三回言いました( ̄^ ̄)ゞー


 続けてもう一つ打つ。


 -誰か助けて! 会いたくない奴らが来る~ Σ(゜д゜lll)-


 書く事で少し落ち着く心。

 誰かの返信なんて鼻から期待していない。ましてや助け舟や助言等。

 だから加奈子は打ったら直ぐにホームの画面で、色々な人のツイートをいつもの様に読み漁り始めた。

 「ふふ」

 くだらない、馬鹿馬鹿しいツイートを見つけて思わず笑い声を漏らす。

 加奈子は、真剣な真面目なツイートよりも、くだらない方が好きだった。

 一瞬何かを忘れられた。

 指で画面をなぞり、下に下げ、バイト中の過去の色々なツイートも眺める。面白いのにはファボを入れる。そんな事をしていると、画面下部の通知が②になっているのに気付いた。

 とりあえず通知をタップして確認する。

 一つはさっきファボした人からのフォローだった。

 そしてもう一つは、最初に書いたツイートへの返信だった。


 -頑張って下さい!(^-^)/ー


 それは加奈子がバイトの愚痴を書くと偶に返信してくれる、ステキスイッチさんからのツイートだった。

 この人とは何度か話していて、多分三十代位の女性だろうという事が分っていたので、加奈子も気軽に返した。


 -これからバイト先に会いたくない友達が来るかも知れないんですよ。最悪!…>_<…ー


 -マジかっ!Σ(゜д゜lll) 逃げろ~!ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘ー


 加奈子のツイートに対して、即座に返って来た。

 「逃げろか……」

 声に出して、加奈子は暫く考えた。

 「松野さんに頼んでみるか…」



 「プッ、逃げます!だって」

 

 -了解しました。逃げます!( ̄^ ̄)ゞー


 加奈子からのツイートを見て思わずふき出すステキスイッチこと、鈴鳴早苗。三十四歳。

 愛知県名古屋市中区の自宅アパートで彼女はそれを見ていた。

 「自分の事なんだけどな……」

 微笑みながらみつめていたスマホの画面から目を逸らし、早苗は六畳二間ある部屋の、自分のいない方の襖の開け放たれた奥の部屋を見た。

 内壁の方に仕付けられた中三の娘の机。

 娘は出かけていて今はいない。

 一部屋に一つある大きな窓は開けられていて、柔らかい風が入り、薄いピンクのカーテンを揺らしていた。名古屋は穏やかな小春日和の様な天気だった。

 テレビを点けず。音楽も掛けず。静かな午後。

 早苗はローテーブルに肘を付けてスマホを持つ手に視線を戻す。

 タップして今度はLINEを眺める。


 〈 明日、日曜日。昼間時間出来た。十一時にいつもの所で (^-^)/ 〉


 嬉しそうに顔文字まで付けて来たのは、娘の父親だった。

 二十歳の頃に産んだ娘の父親。

 娘はこの父親の存在を知らない。未婚の妊娠、当時付き合っていた彼氏(娘の父親)は交通事故で死んだという事になっていた。

 実際は妻子持ちだと知っていながら、成り行きで関係を持った男。しかも今も続いている。

 彼は当時勤めていた会社の十歳離れた先輩だった。(部署が違うので、上司と言うのも少し違う)

 今にして思ってみても彼は、いつも優しくて、そして上手かった。

 上手いといってもSEXの話ではない。

 彼はさりげなく早苗を褒め、細かい気遣いを見せ続けた。

 だから十四年間、愛され続けていると感じていたし、実際愛されているのだろう。

 早苗にとって彼、佐々木誠司は二人目の男だった。

 学生時代の一人目は同い年で、相手も童貞だったので、ちぐはぐなSEXを数度重ねて、結局直ぐ別れてしまった。その後短大を卒業して入った会社で知り合った誠司との関係までには、二年近くブランクがあった。だから、ふわふわした新社会人の気持ちも相まって、当時の早苗の心は、実際生娘の様だった。

 手馴れた大人のSEXに感じるという事を知り、気持ち良さを覚えた。

 妻子持ちとの不倫も、短期間の遊びと、若さが倫理観を押し退けていた。

 だから、妊娠するまで事の重要さを感じなかった。


 妊娠が親に分ると不倫も分り、産むとなってからは、娘が小学校を卒業する手前、十二年間は絶縁状態になった。

 『いつまでも、そう言う訳にはいかないでしょ』

 母親のその言葉で、現在は行き来する程度回復している。

 多分、孫の顔が見たいというのが、親の本心だという事も早苗は分っていた。


 誠司の方は、無論離婚する気などは毛頭ないようだった。

 ただ毎月五万円、養育費として必ず手渡しでよこして来た。

 それが妊娠出産後、このままじゃいけないと拒み続けていた誠司との関係を、元に戻す事に繋がった。

 二年も養育費を貰い続ける内に、早苗は誠司の誠意を感じる様になって行った。

 会う度にかけられる甘く優しい言葉にも、心を解きほぐして行った。

 (毎月必ず養育費を払ってくれてるんだし、少しくらいはいいか…)

 そう思い一度ラブホテルに入ると、それは最低でも月一の慣例になって行った。

 ラブホテルでの誠司の褒め言葉、愛の言葉がとにかく上手いのだ。

 早苗は毎回その気にさせられた。

 (離婚はしないけど、本当に愛されているのは私。彼は私の体から離れられない。私を愛してる)

 そう思っていた。数ヶ月前まで。

 今はまた、このままじゃいけないと、そう思い始めていた。


 (明日どうしよう……)

 誠司からのLINEを見ながら、困った様な顔で、早苗は考えていた。




        つづく

 


  


読んで頂いて、有難うございます。

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