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沈黙の時間  作者: 孤独堂
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 第3話 早川 悠那

 虐める側の人間に負い目はない。

 だから現実は学校でも正々堂々と生活し、部活動などに参加していたりもする。

 ストレス発散は十分しているのだから、当然と言えば当然の事なのかも知れない。

 そう言う訳で放課後は、さっさと学校を出れば啓人は田中達から逃げる事が出来た。

 ただ稀に、部活が休みになったりすると追い掛け回される事があったが。


 学校から家までの三キロ程の道、いつも最初の一キロ程はそわそわと周りを気にし、確認して歩いていた。

 何処で彼らに会うか分らない不安からだ。

 県道から国道四号線に出て、岩沼方面に歩く。

 道幅も広くなり、交通量も増え、チェーン店の飲食店やレンタル店、中古専門店等が軒を連ね始める。

 啓人は大勢の人の中に自分が混ざっている様な気がして、徐々に気持ちが落ち着いて来た。

 (もう大丈夫だ)

 そう思うと鞄からスマホを出し、啓人は歩きスマホを始めた。

 先ずはツイッターを確認する。

 通知が三件入っていた。

 一つは 

 

 -おはよう!-


 と、仲の良い人が朝入れたものだった。

 もう一つは啓人のツイートへのファボの通知。

 そしてもう一つは、啓人の憧れの人、ぽんにゃーさんからだった。


 -仙コミ用のイラストなんだけど、どお?-


 文章の下に、猫耳少女が招き猫のポーズをしたイラストが添付されていた。

 ぽんにゃーさんは、イラストを描いたり、地元のコスプレに参加したりしている同じ宮城県の女子高生だった。いつも美術部の仲間と、仙台港側の夢メッセみやぎで行われる仙台コミケ(通称仙コミ)に参加していた。啓人はツイッターにあがるイラストにファボやリツイートをしているうちに彼女に話しかけられ、好きなアニメや漫画、小説等が重なった事で仲良くなった。今ではダイレクトメールでコスプレの写真も何枚か貰っていた。

 そんな訳で啓人は、年上の女子高生、ぽんにゃーさんに淡い恋心を抱いていた。

 (付き合うとかじゃなくていい。ただ会いたい。話したい。もっと友達になりたい)

 彼女の事を考えている時だけは、他の嫌な事は全て忘れる事が出来た。


 -今、帰り道です。絵、可愛いです! 3月の仙コミで出すんですか? 初めてだけど、必ず行きます! 今からぽんにゃーさんに会えると思うと、ドキドキします。\(//∇//)\ー


 啓人はそう返信した。

 「へへ」

 少し顔がニヤけた。

 


 宮城県仙台市の女子商業高校。

 放課後の美術室にぽんにゃーさんこと、早川悠那はいた。

 大抵の学校と同じく、校舎の突き当たり隅にある美術室。

 十四畳程のスペースの窓側に大きな二十人ぐらいが使える木のテーブルがあった。

 テーブルの表面には過去の先輩達が刻んだ落書きが所構わず書き込まれている。

 美術部員十数名は、今日は課題もないので、そのテーブルで各々イラストを描いたり、デッサンの練習をしたりしていた。

 「あ、来た」

 悠那はそう言うと、テーブルの上のスマホに手を伸ばした。

 「また、中学生?」

 隣でイラストを描いていた野口知世が言う。

 「そうだよー」

 悠那は微笑みながら、嬉しそうにスマホの画面を眺めていた。

 「ドキドキだって~!」

 「中学の男子に手を出して。ショタ!」

 悠那の言葉に知世が笑いながら言った。

 「だって可愛いじゃん。ウチ三姉妹だからさー。ずっと可愛い弟欲しかったんだよね~」

 そう言いながら悠那は啓人からの返信を見せるように知世の方にスマホの画面を向ける。

 「え、この子。仙コミ行くって書いてあるよ」

 「そうだよ」

 知世の言葉に悠那は即答した。

 「そうだよって、大丈夫?最近の中学生はヤバイのもいるから。会ったりして危険じゃなーい?」

 少し不安そうな顔で知世が尋ねた。

 「大丈夫だよ。いつもツイッターで話してるけど。いい子だよ。可愛い感じ」

 「悠那は免疫ないって言うか、男馴れしてないからな~」

 「お前が言うな~!」

 知世の言葉に悠那は笑ってそう言い返しながら、知世の頭に空手チョップの真似をした。


 

 啓人が家に着く頃、ぽんにゃーさんから二度目のツイートが来た。

 嬉しそうにそれを読み、少し考えて、急いで返信する。

 宿題をやる時も、テレビを見ている時も、いつも側にスマホを置き、ぽんにゃーさんからの啓人宛のツイートを待つ。夜もぽんにゃーさんが「おやすみ」と言うまで、起きてツイートが来るかも知れないと待っている。啓人が返信してあっちから返って来るまで、二時間でも三時間でも、啓人はサイトを見て廻ったり、ツイッターのホーム画面の流れて行くツイートを見たりして待っていた。

 ただ、LINEだけは見向きもしなかった。

 LINEはクラスLINEから外されていたし、興味がなかった。

 啓人は自分の事を知らない、全く新しい人間関係で、やり直したかった。

 こうやって啓人は普段、昼間は学校で虐められ、夜はツイッターとぽんにゃーさんの虜になっていた。


 「なに睨んでんだよ」

 田中和樹が四つん這いになりながら顔を上げ、和樹を睨んでいる啓人を見て言った。

 それから四日後のいつもの虐めの光景。

 教室の後ろの方で今日は、啓人を四つん這いにさせ、犬扱いして遊んでいた。

 啓人は盾突いても仕様がない事は分っていたが、それでもつい睨んでしまった。

 「調子に乗るなよ水上! お前は犬なんだからな!」

 そう言うと和樹は四つん這いの啓人の頭に手を置き、顔を床に押し付けた。 

 「お前今我慢すれば、いつかは終るだろうと思ってるだろう。三年になっても、卒業しても、終んねーからな! お前虐められて不安で落ち着かなくて、成績もドンドン落としてるだろう。このまんま虐め続ければ、来年の今頃お前が受験出来る高校もたかが知れてるんだよ。その頃になったらお前に選ばせてやる。俺達と同じ高校に行って虐められ続けるか? 俺達より下の高校に行って、悔しくて惨めな思いをするか? まーどっちにしてもお前の人生はもう此処で狂うけどな。普通に学校生活を送っていたら歩めた筈の道はお前にはもうないんだ。お前には俺達よりもっと下の人生しかないんだよ! 吉田はな、野球部のレギュラーだからな。お前の事虐めてても、学校からスポーツ推薦貰えて、それなりの高校に行けるんだよ。分ったか? お前は既に人生の落ちこぼれなんだよ! 一生俺達の犬なんだ! ホラ! 睨んだ罰だ! ワン! って鳴け!」

 そう言って和樹は更に強く、啓人の顔を教室の床に押し付けた。

 啓人にはもう、抵抗する気力もなかった。少しでも早く、楽になりたかった。

 だから、

 「わん」

 力なく、半ベソをかきながら吠えた。



         つづく

 

 

読んで頂いて、有難うございます。

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次回のサブタイトルは決まっています。

次回は「谷川 芽衣」です。

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