第23話 十人十色
十人十色と言えば、大江千里の世代です。
大好きだったな~♪ LPレコードも3枚くらい持ってた。
「やだ、勝手に想像して泣かないで。私の話。昔、色々悩んで、結局誰にも言えなかった私の話。坂井さんの好きだった人とは違うから」
目に涙の跡を残しながら、少し怒った様な表情の英和に、早苗は過去の事だと笑顔で話した。
しかし英和は納得のいかない風で、話し始めた。
「その元彼は、何の罰も受けず、今ものうのうと何処かで生きているんですよね。もしかしたら結婚していて子供もいて、幸せに暮らしているかも知れない。早苗さんの事も、早苗さんにした酷い事も綺麗さっぱり忘れて。早苗さんはその事で悩んで、大学生や同い年の人を好きになれずに…その事で二十代を棒に振ったかも知れない。損をしたかも知れない。僕は納得いかないです! 許せない」
突然の英和の激しい言葉に、早苗は思わず目を丸くして驚き、そして笑い出した。
「やだっ、昔話。もう何にも思っていないの。忘れて」
「でも…」
「さっきも言ったけど、今日の昼間会って来た人。優しいの」
「それは不倫相手ですよね。奥さんいる人なんですよね」
突然早苗が話を変えてきたのに虚をつかれながらも、先程の話に納得していない英和は、少し意地悪をしてそう言った。
「そう。短大を出て最初の会社で知り合った人。最初から今まで、ずっと私には優しい人。いつも甘えさせてくれて。そして甘えてくる人。あっちには、奥さんだけじゃなくて、子供もいるわ。でもきっと、私といる時程、あっちでは優しかったり、甘えたりする姿は見せていないと思う」
「そんなの、二股かけてる男なら。上手い事やってるだけです。本当に早苗さんが好きなら今の奥さんと別れてる筈です。早苗さんもお子さんいるんでしょ? だったらその時に。僕は、早苗さんに本当の意味で笑って欲しい」
椅子から前のめりになり、テーブル向かいの早苗の方に身を乗り出しながら、英和は言った。
「あらあら、有難う」
その言葉に早苗は満面の笑みでそう答えて返し、更に続けて話した。
「でもね。慣れちゃうと、今のままでもそれなりに幸せなの。家に帰ると中学の娘がいて、ちょっと友達みたいに話が出来て寂しくないし。その、不倫の彼とも、後ろめたさはあるけれど、一緒にいると確かに落ち着くの。きっと彼もそうだと思う。ただ黙って、言葉なんかナシで、ずっと抱き合っている。それだけでも永遠にいられる様な。相性が合うって言うか…確かにね、妊娠して、不倫相手の子で、産む産まないで揉めて、その時は元彼の事も思い出して、『私はなんでいつもこうなんだろう』って自分が嫌になったり、相手を恨んだりもしたけれど。グチャグチャに縺れた糸が、もう綺麗に解けないだろうなって思った縺れた糸が、十年二十年て時が経つと、綺麗に解けて一本の糸に戻っていたりするのよ。蟠りは、時間が解決してくれる。坂井さんにはまだ若いから分らないかも知れないけど。私もその位の歳の頃はそうだったと思う。もしかしたら私がしつこく根に持つタイプじゃないだけなのかも知れないけれど。兎に角今は、誰も恨んでいなくて、惰性でこのままいく事で、上手く行っているの」
神妙な顔で、黙って話を聞いていた英和は、しょうがないと諦めたのか、ちょっとだけ笑った。
「ごめんなさい。それでもやっぱり僕は、早苗さんには普通の人と同じ様な、幸せになって貰いたいと思います。僕をいつもツイッターで励ましてくれている早苗さんは、そういう関係で幸せだって思って貰いたくないです。なんて言うんだろう? 月並みだけれど、人前に堂々と出れる様な、日の当たる場所での幸せと言うか」
「若いのよ。それは坂井さんが若いから。幸せは人それぞれ、その人が幸せだと思える瞬間があるなら、どんな場面でも、それはやっぱり幸せなのよ。それより…」
「はい?」
話しながらテーブルに置いていたスマホを手に取り、眺めて言葉を切った早苗に、英和は思わず声を漏らした。
「もう一時間経っちゃうけど、延長する? それから今七時半だけど、帰りの電車は大丈夫?」
「ああ」
早苗の口から出た意外な言葉に英和は気の抜けたような声を出した。
「電車はまだ大丈夫ですけど。そうだな、名古屋駅周辺の、ゲームセンターとか駄目ですか? それならそのまま福井行きの電車に乗れる」
「ゲームセンター?」
「そう。早苗さんは知っている人に僕と一緒の所を見られたくないだろうけれど、僕は見られたい。二人でゲームセンターで『キャーキャー』言いながら遊んでいる姿を色々な人に見られたい。僕は、大勢の人の中で、早苗さんが笑っている姿を見てみたい」
つづく
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次回で一応早苗の話は一区切りの予定です。




