表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の時間  作者: 孤独堂
22/23

 第22話 告白の行方 その③

 フライドポテトを摘み、皿の脇に盛ってあるケチャップを付けて、早苗はおちょぼ口でそれを食べ始めた。

 「取り合えず、食べながら話そう。折角頼んだんだから」

 美味しそうに、微笑みながら食べる早苗の姿に、英和は少し違和感を感じた。

 たった今『元彼に襲われた』と言った女性が、美味しそうにフライドポテトを食べているのだ。

 (昔の事だからか? だとしてもそう言う心理って……)

 正直英和には理解出来なかった。

 今日実際に会った早苗の殆どが、理解出来なかった。

 (ある意味天真爛漫にも見えるけど)

 そんな事を思いながら、口先だけで取り合えず答える。

 「あ、はい」

 「あ、また『あ』って言った!」

 その瞬間食べかけのフライドポテトを持った手で、ポテトを差し出す様に早苗は英和の方を指しながら、してやったりとばかりに大きな声で言った。

 「あ、」

 「ほらまた言った」

 その言葉に思わず続けて言った「あ」に、更に嬉しくて堪らない様な表情で早苗は直ぐに反応した。

 「いや、そうじゃなくて。早苗さん」

 慌てて英和は自分の顔の前で手をブンブン横に振り、否定する様な仕草をした。

 「何?」

 突然の行動に一瞬早苗の表情が真顔になる。

 「早苗さんも『あ』って言いましたよ。だから僕は思わず『あ』って言っちゃったんです」

 「え、私言った? んー、イヤ、言ってないよ。言ってない」

 少し考える素振りをして、直ぐに早苗はそう答えた。

 「え~!」

 不満そうな声を挙げる英和。

 「フフフフ」

 それを見てまた笑い出す早苗。

 「今のちょっと面白かった。フフ、だから、頼んだ物勿体無いから、食べながら聞いて。えっと、何処まで話したかしら」

 「元彼に襲われたって」

 英和は唐揚げを摘みながら、笑われてちょと拗ねた様な表情で、早苗の方を下から覗き見る様に言った。

 「そうそう。あのね、私が短大を卒業する頃、彼は四年生大学だったから二年生の終わりの頃ね。短大を出て社会人になる私は、環境も生活もお互いに変わる訳だから、別れようって彼にメールで伝えたの。ホラ、就職先で好きな人とか出来るかも知れないでしょ。そっちは将来結婚する相手かも知れないし、学生の今の彼とは、多分結婚とかはないと思っていたから。それで彼は、最初は渋っていたんだけど、最後はあっさり了承してくれたの。二時間程かかったけど、メールで済んだから結構簡単だった。その時は彼の事、淡白なんだと思った。ところが二日程したら彼が急に昼間、私のアパートに車でやって来て、もう一度話をしようって言ったのよ」

 「はい」

 思わず英和は相槌を打った。

 「未練があるのかな? ちょっと可哀想だな? って思って、私は彼の車に乗った。喫茶店とかファミレスにでも行くのかと思ってずっと外を眺めていたの。彼もずっと黙っているし。そしたら車は街から外れてドンドン郊外に行って、気付いたらラブホテルの前で。彼は何の躊躇もなく車を中に入れて、部屋毎に付いている駐車場に停めて。それから言ったの、『静かな所で話がしたい』って」

 「それは」

 「そうよね。後になって見れば私にも分った。でもその時は、彼の言葉をそのまま信じた。だって彼氏だったから」

 「……」

 早苗に言葉を遮られながら、英和はその後が出て来なかった。

 「案の定部屋に入ったら。彼は直ぐに抱き付いて来て、そのままベッドまで無理矢理連れて来られ、押し倒されて。服の上からだけど、胸を揉まれ」

 そう言いながら思い出したのか早苗は、自分の右手で左胸を静かに掴んだ。

 指先が僅かばかりその胸に食い込み、そこに弾力が感じられて、妙な生々しさに英和は一瞬どきりとした。

 「もう別れたと自分では思っていたから。その気もなかったから。嫌がって抵抗したんだけど、彼はスカートの中に手を入れて来て、私は叫んで。そしたら突然頬を思いっきり一発平手打ちされて、『別れるんなら一発くらいやらせろ!』って言われたの」

 「酷い…」

 「それで私は放心状態になって。彼は黙々と私の服や下着を剥いで。初めてじゃないの。彼とは付き合っている間に何回もHはしてるんだけど。行為自体は同じ事なんだけど。涙が出て来て、何か凄く悔しくて。彼は何かを確かめる様に私の体のあちこちを摘んだり撫でたりしながら、私の股で腰を動かしていた。それから……同い年や年下には興味がなくなっちゃった。大学生にも」

 「……」

 早苗の話に英和は言葉も無く下を向いていた。

 「だから似てないんだけど。大学生でちょっと馬面の坂井さんを見た時、その事を思い出して意地悪したくなったの。SEXしたいんでしょ? て聞いたり、さっきまで別の男とラブホにいたとか言ったり、厭らしい事色々言って。本当は見た時からオドオドした感じで、そんなタイプじゃないだろうとは思ってたんだけど」

 「グスッ。それでもし僕が…ンッ、ホテルに行きましょうって、グスッ、言ったら、どうしたんですか?」

 英和は下を向いたまま、少し鼻声で、途切れ途切れに早苗にそう尋ねた。

 「そしたら行ったし、SEXもした。どう出るか貴方を試した訳だから、そのリスクはしょうがないわ。そしてやっぱり大学生なんてそんなモンなんだって、割り切って。ネットやツイッターからの繋がりなんて、結局はそれ目的なんだって自分の中で納得して、ん? …あれ? もしかしてまた泣いてる?」

 「すいません。さっき言った昔ちょっと好きだった娘が、知らない誰かにそんな風にさせるのを思わず想像しちゃって……でもそれは、元彼と言ってもやっぱり犯罪ですよ。暴力だ」

 言いながら上げた英和の顔には、両方の頬に涙の跡があった。




            つづく

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ