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沈黙の時間  作者: 孤独堂
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 第21話 告白の行方 その②

 係りの人がテーブルに生ビール中ジョッキとウーロン茶。そしてフライドポテトと鳥唐揚げの盛り合わせ、野菜スティックを置いて出て行った。

 二人はそれまでの間気まずそうにお互いの顔を避けて、違う所を眺めながら時が経つのを待っていた。

 だから、バタンッ! と、ドアが閉まった瞬間。

 二人とも顔がにやけてしまった。

 「カラオケのモニターも点けてなかったんですものね。フフ」

 「さっきの人、不審な顔して僕の顔覗いてましたよ。ハハ」

 「ホント。カラオケボックスに来て歌も歌わないで、向かい合って座って。歳の差も離れてるし。不審者よね~やっぱり。フフ、じゃあ取り合えず乾杯しましょうか?」

 英和の笑顔に思わず早苗は調子付いて話しながら、ジョッキを手に取り、英和の方に向けた。

 「あ、はい」

 それを見た英和はそう言うと笑うのを止め、真面目な顔でウーロン茶の瓶を空のコップに傾けて注ぐと、それを持ち、早苗のジョッキと向かい合う様に手を前に出した。

 「乾杯!」

 直ぐに早苗がジョッキとコップを軽く触れさせるとそう言い、そのまま直ぐに飲み始めた。

 「あ、乾杯」

 英和も慌てて遅れながらもそう言うと、直ぐに一口だけウーロン茶を飲み、そのまままだ飲んでいる早苗の方を眺めた。

 顎を軽く上げ、首が正面から露になっている。

 白く透けた細い首には静脈か、青い血管の筋が微かに浮かんで見えて、ビールが喉を流れているのが首の僅かな起伏の変動からも分った。そして白い肌に浮き出た鎖骨が、早苗を華奢で儚い人の様に感じさせた。

 だから英和は、見惚れていた。

 「どうしたの?」

 中ジョッキを口から離し、正面を向いた早苗が言った。

 「あ、いや、綺麗だなと思って」

 「またそんな事言う。坂井さんの周りには若くてスタイルの良い、綺麗な女の子が一杯いるでしょ。見えてないのよ」

 「あ、いや、ホントに。見惚れてました首筋。白くて綺麗で。年齢なんか関係ないと思います」

 「そう言って煽てる割にはSEXは嫌がる」

 「あ…」

 どう答えれば良いか分らず言葉に詰まる英和に、早苗はしてやったりと笑顔で続けた。

 「それから、さっきから話す時『あ』て頭に付いてるけど、癖?」

 「あ、」

 早苗に言われ思わずまたそう口を出て、慌てて英和は口を噤んだ。

 「また。癖なのね? それは、直した方がいいわ。あまり良いイメージは持たれない。人と話し慣れてない?」

 「そんな事はないと思います。普通に男友達とは話すから。女の人とは学校で会っても用事がないと話さないけど。理由も無くは話せないでしょ」

 英和は今度は意識して癖を直して話した。

 「そうかな~。私が学生の頃は、男も女も関係なかったけど。最近の大学生はそうなの?」

 「皆が皆そうという訳じゃないけど。昔に比べると今の大学の授業は難しくなったって言われてて、レポートだテストだって、単位取るのに結構忙しくて、そんな遊んでる人って見ないです。中には女の子と遊んだりしている人もいると思うけど、そんなのは最初からあまり学校来ないから。やっぱり見かけない」

 「フフフフ。そうかぁ、遊び人はそもそも学校来ないから見かけないし、坂井さんの知り合いになる訳がないのね。なるほど、面白いわ~。私の頃とはちょっと違うかもね」

 楽しそうに笑いながら早苗はそう言うと、テーブルに置いた中ジョッキを掴み、口へと運んだ。

 「あの、それで…」

 美味しそうにビールを飲む早苗を眺めながら、申し訳なさそうな声で、英和は言った。

 「えっ?」

 その声に早苗は中ジョッキを口から離し、聞き返した。

 「さっきの話です。店の人が来る前の」

 「ん?」

 早苗は惚けた顔をして更に聞き返した。

 「襲われたって言ってた。ちょっと、いや、本当は相当気になっています。でも早苗さんがやっぱり言いたくないのなら訊かないけど…」

 「フフ、分ってる。ワザと分らない振りしたの。そりゃあそうよね。ああいう風に言われれば誰だって気になるよね」

 笑顔で微笑みながら早苗は英和の目を見ながらそう言った。

 「あ、いや。すいません」

 「ほらまた、『あ』って言った」

 何となく謝ってしまった英和に、早苗は笑ってそう言って、続けた。

 「フフ、面白い。いいわ。どうせ二度と会うか分らない人だし、私の周りの人達とも繋がらない。人間性も大体分ったし。こういう人に、こういう時だったら、言っても良い様な気がする。誰にも言った事ないのよ」

 「はい」

 辛い話なのだろうに微笑んで話す早苗に不思議な感覚を感じながら英和は相槌を打った。

 「本当はね。さっき坂井さんに会う前に、こっそり覗いてチェックしたの」

 「えっ?」

 期待していた話ではなく、更に自分の話題だった事に英和は思わず声を出した。

 「だって怖いじゃない。知らない人と会うのよ。不審者かも知れない。だから、事前チェックしたの。そしたら本当に学生さんって感じの坂井さんが立ってた。あ~、大学生だって思った。初々しかった。それから、短大時代に付き合っていた四年生大学の彼氏の事を思い出した。と言っても雰囲気だけ。実際は顔もちゃんと思い出せないんだけどね。坂井さん、言ってはなんだけど、本当にちょっと馬面なのよね」

 「はあ」

 その言葉に英和は苦笑するしかなかった。

 「別に、悪い意味で言っている訳じゃないのよ」

 早苗はそんな英和に慌てて言葉を加えた。

 「そうじゃなくて。その、私の元彼も、馬面だったのよ。たしか」

 「はい」

 「はっきりとは覚えていないけど、確か馬面だった。だから坂井さんと重なって、試したくなった。意地悪したくなった」

 「元彼と似ていた」

 ゆっくりと確認する様に英和は言った。

 「ううん。似てはいないと思う。坂井さん見て元彼の顔思い出せなかったから。ただ、馬面の大学生と言う点だけ」

 「え、それはちょっと酷いな」

 「分ってる。坂井さんには酷い事言ってると思ってる。でも兎に角、それで元彼の事を思い出したの。最後に私を襲った元彼の事を」

 「えっ!?」



      

        つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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