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沈黙の時間  作者: 孤独堂
20/23

 第20話 告白の行方

1ヶ月半ぶりの更新で、文章・内容ともボロボロですが、完結目指してとりあえず気にせず進めて行きます。

 「ラブホに行っても、しないという選択肢もあったんだけどね。急に泣き出すし。ここも一応個室だから、周りを気にしなくていいでしょ」

 「すいません…」

 ソファーに向かい合って座りながら、英和はこの時初めて早苗が周りを気にしない場所の一つとしてラブホテルを挙げたのかと思いながら、頭を垂れてそう言った。

 

 結局泣き出した英和の腕を掴みながら早苗は「もう!」と言い。引きずる様に近くにあったカラオケボックスに二人は入ったのだった。

 部屋に入り、一度は座ったソファーから早苗は立ち上がると、壁に備え付けてある電話の方へと向かった。

 「ホントはリモコンでも注文出来るの知ってるけど、電話のが早いから」

 「はい」

 早苗の言葉に英和はそちらを見ないで頷いた。

 「坂井さんは。ビールは? 酎ハイとかカクテルのがいい?」

 受話器に手を掛け、しかしまだ外さない状態で早苗は英和の方を向いて尋ねた。

 「あ、いいです。アルコール駄目なんです」

 慌てて早苗の方を見ながら英和は答えた。

 「飲まないの?」

 「いや、飲まないんじゃなくて、飲めなくて。美味しいと思った事がないんです」

 「あらまぁ。じゃあ大学の飲み会とか大変でしょう」

 「参加しないから。それに、お酒飲まない人結構多いですよ。最近の学生は」

 「そうなの?私の頃とは違うのね。じゃあ?」

 「あ、ウーロン茶でいいです」

 「あら、年寄り臭い。あ、ごめんなさい」

 言ってから例えの悪さに気付き早苗は謝った。

 「いいんです。ホント、年寄りみたいな所あるの自分でも分るから。爺臭い僕と、若く見える早苗さん。ふふ、変な組み合わせですね」

 「若くなんてないわ。もう仕事で疲れてる所為もあるけど肌に艶もないし、長時間のデスクワークで姿勢も悪くなるし。全くただのおばちゃん。それじゃあ、食べる物は適当に頼むから」

 英和の言葉に笑いながらそう受け答えしながら、早苗は受話器を取り、注文を始めた。

 その立ち姿の早苗の、カーディガンを羽織った背中を英和は眺めながら、

 (僕は、こういう話がしたかったんだ)

 と、静かに思った。


 「それで、何で泣いたの?」

 注文を終え、早苗は普段から使っているフェイクレザーのトートバックが置かれたソファーまで戻ると、立ったまま、テーブル越しに座り俯いている英和を上から見下す様にして訊いた。

 「それは、分らないんです」

 頭を早苗の方に動かしながらも、顔を決して上げないまま英和は言った。

 その様子を見ながら早苗は英和と向かい合う様に自分の元いたソファーへと腰を下ろした。

 「私が意地の悪い事を言った?」

 「……」

 答えずやや下を向き、相変わらず目線を合わせない英和に、早苗はその表情を覗き込む様に顔を前に出して、更に続けた。

 「坂井さんは、わざわざ私に会いに福井から名古屋まで来た。ネット。ツイッターだけの繋がり。誰も私達の関係を知る人はいない。何をしても二人が黙っていれば誰にも分らない。私がまだ高校生か何かで。未成年なら後で言うかも知れない。警察沙汰になるかも知れない。でも、実際は三十四歳だから。二人共もう大人だから。私の事を綺麗だと言ってくれていたから。私も駅で見て、大人しそうな若い人だと思って、まーいいかって、そんな気になったんだけれど。そういう事じゃなかったの?」

 「確かに僕は童貞です。SEXにも興味がある」

 静かに話す早苗の言葉に、英和はそう答えながらゆっくりと顔を上げた。

 「初めて早苗さんの写真を見た時、綺麗な人だと思いました。それから、高校の時少し片想いだった女性に似ていると思いました。相手は僕の気持ちなんて全く知らなかったと思うけど、僕にとっては同じクラスだった時のその子との日常は、綺麗な思い出でした。だからかな。片想いだった彼女に突然ラブホテルに誘われた様な錯覚に陥って、愛人とか子供がいるだとか。今日Hをして来たとか……なんか、あの頃の綺麗な思い出と重なって、まるで憧れていたあの子がそんな事を言ってきている様で……」

 「汚された? だから泣いたの?」

 そう尋ねる早苗の目を、今は英和もちゃんと見ていた。

 「分りません。それだけじゃないと思うけど。早苗さん自身への憧れも、ずっと持っていましたから。それも悲しかったんだと思います」

 「そう……それは確かに私は、意地悪をしたかったけれど」

 「えっ?」

 早苗の突然の言葉に英和は思わず驚いた。

 「坂井さんが若い大学生だったから。ホントに馬面だったから。意地悪したくなったの」

 「それは…」

 「そうでもなければ、あんな事言ったりしない」

 「僕の所為なんですか?」

 その話にどうにも腑に落ちないと言った顔で、英和は聞き返した。

 「私も、二度と会わないかも知れない人だし、いいわ。実は昔、襲われた事あるの」

 「!?」

 目を見て、微笑みながらそう話す早苗の優しい瞳に、英和は思わずドキリとした。


    コンコン!

 そしてノックをする音と共に開かれるドア。

 「ご注文の品お持ちしました~♪」





            つづく

 

 

 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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