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沈黙の時間  作者: 孤独堂
16/23

 第16話 年上の男・年下の男

 「そろそろ時間かな。延長する?」

 ベッドの中で、早苗の髪を撫でながら、誠司は言った。

 早苗にとって最も幸せな後戯の時間が終ろうとしていた。

 「用事があるの」

 気持ちの良さに目を閉じながら答える。

 「そお。買い物?」

 腕枕はしたまま髪を撫でていた手を止め、誠司は上半身を少し起こして、早苗を覗き込む様にしながらそう訊いた。そして違う方の手で今度は前髪を軽く撫でる。

 「うふ、くすぐったい」

 相変わらず目を閉じたまま早苗は少し恥ずかしそうにそう言った。

 「可愛いなあ、早苗は。で、何処に行くの? 何の用?」

 早苗の耳元に口を近づけ、誠司は更に尋ねた。

 「ひゃ」

 耳の産毛に誠司の息が当たり、こそばゆくて気持ち良く、早苗は思わず変な声を出した。

 「なんだよ。変な声出して」

 思わず誠司も表情を緩めて言った。

 「だって気持ち良くて…子供の買い物があるの。一緒に行く?」 

 目を開けて、顔上の誠司の顔を見て、微笑みながら早苗は言った。

 途端に誠司の顔が少し強張ったのが早苗にも分った。

 「子供の買い物か…じゃあ、仕様がない。今日はもう出よう。途中まで送るよ」

 誠司が子供に会いたがらないのは早苗は知っていた。

 だから、そう嘘を付いた。


 誠司はガクンとならない様にゆっくりと早苗の首の下から手を引き抜き、ベッドから降りると、隣のローテーブルの上のタバコを取った。そして上半身裸、下半身はトランクスパンツ一枚のまま、ソファーに座るとタバコに火を点けた。

 早苗は横を向き、その様子を眺めていた。


 (男性は女性より、ある一定の年齢から老けるのが遅いのだろうか?)


 誠司を眺めながら、早苗はフッとそんな事を思った。

 自分より十歳年上の筈の誠司が、三十代後半か、四十代になったばかり位に見えたからだ。

 お腹は少し出ているが、お尻から足に掛けては、早苗が見ても羨ましく思う程、細かった。

 肌も付き合い始めた頃からさして変わった様には見えなかった。

 ただ顔は、髪のあちらこちらに白髪が目立つ様になり、目の周りを中心に歳相応の顔になっていた。

 「なに?」

 早苗の視線に気が付き、タバコを吹かしながら横を向いて、誠司は少し微笑みながら言った。

 「なんでもない」

 嬉しそうな顔でそう言うと早苗は布団の中に顔を潜らせた。

 そして横から手だけを出して、ベッドの下に落ちている自分の下着を掴み、静かに布団の中に手を戻した。

 その様子を黙って見ていた誠司が笑いながら口を開いた。

 「今更。隠す事もないだろ」

 「今だから隠すの。綺麗なままで思われていたいの」

 布団の中から早苗は直ぐに言葉を返した。

 「大丈夫だよ。今でも綺麗だよ」

 そう言いながら誠司はタバコを灰皿に擦り付けて消して、立ち上がり、落ちている自分の服を拾うと、着始めた。

 布団の中で下着を着けた早苗も、ベッドから降りると、綺麗に畳んでソファーの隅に置いていたスカートに手を伸ばした。

 「俺からすれば、早苗は今も若いし、綺麗だ。何でそんなに気にするのか分らない」

 誠司は服を着終えるとそう言いながら忘れ物がないかチェックし、セカンドバッグを小脇に抱え、入り口の清算機へと向かった。

 「そんな事ない。今日はあなたに会うから。普段は矯正用の下着とか着けてるの。見せられない」

 服を着て、誠司の後を追う様に歩きながら早苗は言った。

 「そうなの? でも僕に会う時の早苗はいつも綺麗だ」

 追いついて横に並ぶ早苗の方を見て、誠司は言った。

 「ありがとう」

 嘘で塗り固められた歪な関係であっても、一緒にいる時間はやはり、早苗にとっては心の安らぐかけがえのない時間だった。

 そして支払いを終え、ドアを開けると、二人のラブホテルでの時間は終った。


 誠司の車は海沿いの西知多産業道路を北上して、国道247号線に入った。

 早苗は車に乗ってから誠司に渡された今月の養育費の入った封筒をバッグに入れながら、外の景色を眺めた。

 そこはもう早苗の知っている地域だった。もう少し行くと、朝電車に乗った金山駅も見えて来る。

 「名古屋駅じゃなくて栄生?」

 国道19号線に変わり、金山駅を見て、誠司が言った。

 「そう」

 この辺りは知っている人に会うかも知れないので、早苗はなるべく伏し目がちにしながらそう答えた。

 「でも、買い物なら」

 名古屋駅から駅二つ先にある栄生駅で降ろして貰いたいと言う早苗に、誠司は何処となく違和感を覚えていた。

 「子供が友達とそっちに行ってるの。だからそこで合流してから名古屋駅の方に行くの」

 早苗はスマホを取り出し時計を見ながらそう答えた。

 時間は午後四時になる所だった。

 「そうなの…」

 子供という単語が出て、その後の質問がし辛くなった誠司はポツリとそう呟いた。

 誠司の言葉が途絶えた所で早苗は、スマホの画面をタップして、ツイッターのDMダイレクトメールの画面を出した。

 

 『いいですよ。五時より遅れるかも知れないけど。どの辺にいます? 服装とかも教えて頂けると探し易いです。(^-^)/』


 大学生のド・ビンゴ宛に急いでそう打って、送信すると、早苗は直ぐにツイッターの画面を消して、顔を上げた。

 少し、興奮していた。

 十歳年上の妻子持ちの男とSEXをした後に、十歳以上年下の大学生と会う。

 自分が何をしているのか? 何をしたいのか? そんな事は分らなかった。

 ただ、ツイッター上でド・ビンゴとは何度も話していて、安全な人だという自信はあった。それに人通りの多い名古屋駅周辺の喫茶店で会って話す分なら余計に安全だと思った。万が一誠司が暫く自分の動向を眺めていても駅を二つずらしたからこれも大丈夫だ。

 そこまで思って早苗は、何故そこまでして彼に会いたいのか自問した。


 (スリルが欲しいのかも知れない…)


 そう思った時、スマホのバイブの振動が手の中で伝わり、ツイッターの通知を告げた。

 それはド・ビンゴからのDMだった。


 『やった~!*\(^o^)/* 僕はチェックのシャツにジーパン。上に春物のカーキ色のハーフコート着ています。調べたら名古屋駅は金の時計の待ち合わせ場所が有名なんですね。僕もそこにいます。(^-^)/』


 急ぎ読み終えると、早苗はチラリと一瞬誠司の方を見て、直ぐにまた下を向き、急いで返信を打った。


 『了解しました~(^-^)/』


 「何? 誰かとメール?」

 突然の誠司の声に驚いた早苗は、慌てて送信をして、ツイッターの画面を消した。

 顔を上げて誠司の方を見ると前を向いて運転している。

 「娘から。もう駅に着いたから、中に入っているって」

 また早苗は嘘を付いた。

 

 車は国道19号線から22号線に移り、名古屋駅を過ぎ、一路栄生駅へと向かっていた。





                  つづく

 


 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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