CR08 『VS 加速召喚』
箱根は競技机に自分のデッキを置く。俺も自分のありあわせデッキを頭の中に入っているデッキレシピ通りの構築に変えて競技机に着いた。
「おい受験生、俺は手加減はしねぇからな」
「のぞむところです」
「箱根、そう見えても彼は全国大会で準優勝するような実力者だよ。あまり舐めてかからない方がいい」
横で見ている森嶋は箱根を気遣うようなことを口にするが、その表情は単純に俺たちの対戦を面白がっているようだった。と言うか、『そう見えても』って……。
競技机に着くと俺の方のターンランプが灯る。
「赤を指定」
「俺のカラー指定は黒です」
「「Greifen!!」」
カズヤとの対戦はLP差5枚のハンデ戦だったが、今回は40枚同士の対等な対戦だ。ハンデ戦にはハンデ戦の戦い方があるように、この状況ではまた別の戦い方が求められていた。
「先攻、俺は手札からレベル3『這う影』を召喚し攻撃!」
40枚のデッキ同士の対戦ならば、まずは中型のモンスターを召喚して確実に相手にダメージを与えておくのが基本だ。
【シュウ LP 35→32】
「逆召喚、レベル2『半直の鬼フォルン』」
『フォルン』はレベル2にして3打点を持つが、破壊された時に自分も1ダメージを受けるモンスターだ。俺はターンエンドを宣言する。
△ ツバサ LP 35 △
『這う影』
▽ シュウ LP 32 ▽
『半直の鬼フォルン』
「俺は1リチャージして手札から『一速アイン』を2体召喚する」
箱根――シュウのフィールド上に赤いトカゲのモンスターが2体出現する。『アイン』はレベル1として最大の2打点を持つモンスターだ。さっきの『フォルン』と合わせて高打点のモンスターが並んでいく。
(つまり、赤単色の超速攻デッキ!)
【Greifen】は極端な話、相手より大きい打点を持つキャラで毎ターン攻撃し続ければそれだけで勝利出来るゲームだ。だが、実際はそれを続けていると相手にモンスターを破壊されて場・手札・リソースが足りなくなるのが普通だ。
特に加速カードは速攻デッキの中でも事故が起こりやすく、プレイング以前に絶妙な枚数配分、つまりデッキ構築の技術が必要とされる。
(プレイングは俺の方が上だが、デッキとしては大きく差をつけられているってわけか)
「悪いが勝負はさっさと済ませるのが俺の流儀でな。『フォルン』と『アイン』で攻撃!」
【ツバサ LP 35→30】
2体の攻撃で俺の山札の上から5枚のカードがダメージになる。俺はそのうち1枚をセットする。
「同感です。俺も好きなんですよ、殴り合い」
俺が逆召喚したのは『超過爆殺サラム』だった。相手フィールド上の赤いトカゲに向かって俺のゴブリンが大量の爆弾を投げつける。
「『サラム』の効果で先輩の『アイン』を破壊しさらに先輩に4ダメージを与えます!」
【シュウ LP 32→28】
シュウは俺の『サラム』の仕返しで受けた爆風の中でニヤリと笑う。
「お前なかなか面白ぇな。だが俺は逆召喚、レベル2『二速ツイン』!!」
シュウの場に『アイン』よりも一回り大きいトカゲが出現する。『ツイン』の打点は『アイン』を超える3打点だ。バトルフェイズは終わっていないので『ツイン』による追撃を食らう。
【ツバサ LP 30→27】
「開始2ターンでお互いに7ダメージと8ダメージを受けるとは面白い試合だね」
観戦している森嶋は展開の速い試合に喜んでいるようだった。俺はその姿を横目で確認しつつ、次の逆召喚をするカードを選んだ。
俺の場にハロウィンで飾られるような顔が掘られたオレンジ色のかぼちゃの化け物が表れる。その中には爆弾が詰め込まれていて、口からは灰色の煙が今にも爆発しそうに上がっている。
「俺はレベル2『鬼爆弾』を逆召喚します」
「なんだ?そのやる気のないモンスターは?」
『鬼爆弾』は自身の効果により攻撃することが出来ないモンスターだ。
「まぁ、爆弾は火が付いてからが華ですよ。楽しみにしていてください」
「良いだろう。俺はこれでターンエンドだ。この時、『アイン』と『ツイン』の効果を発動する」
シュウの場の2体のトカゲがどちらも火がつき燃え尽きて灰になる。『一速アイン』や『二速ツイン』は打点が高い代わりに召喚したターンのエンド時に破壊されてしまうモンスターなのだ。
△ シュウ LP 28 △
『半直の鬼フォルン』
▽ ツバサ LP 27 ▽
『這う影』 『超過爆殺サラム』 『鬼爆弾』
「俺は1ドロー1リチャージ、手札からレベル3『超過爆殺サラム』をもう1体召喚します。そして『サラム』の登場時効果を発動!」
サラムの効果で相手の『フォルン』を破壊し2ダメージを与える。シュウは『フォルン』自身の効果による1ダメージも含めて合計で3ダメージを受けた。
【シュウ LP 28→25】
「くっ。逆召喚、『二速ツイン』だ!」
相手の場に大きなトカゲが出現するが、俺は攻撃を始める。
「『這う影』で先輩の山札に攻撃!」
【シュウ LP 25→22】
シュウは山札の上から3枚を確認し、1枚をセットして逆召喚を宣言する。
「俺はレベル2『垂直落下のラスト』を逆召喚し――」
そしてシュウは自分のカウントに置かれた1枚のカードを指し示す。
「――トリガーカード『睡魔』の効果発動!」
俺の場の2体の『サラム』が強制的に攻撃不可にされる。
『睡魔』も『宙を漂う砂粒』と同じトリガーカードだ。効果は相手モンスター2体を一時的に行動不能にさせるというもので、単純であるがゆえに汎用性が高い。
俺の場にはもう攻撃出来るモンスターが居ないので、追撃して決めるつもりだった4点をあきらめてターンエンドを宣言した。同時にシュウの場にある『ツイン』が自身の効果によって破壊される。
△ ツバサ LP 27 △
『這う影』 『超過爆殺サラム』×2 『鬼爆弾』
▽ シュウ LP 22 ▽
『垂直落下のラスト』
「俺のターン、リチャージまで無しでメインフェイズを開始する。この時、ドロップの『一速アイン』の効果を発動する」
(ここからが加速デッキの本領か……!)
ターンを重ねるごとに攻撃力の上がっていくデッキを前に俺は身構える。『一速アイン』は自身の効果で破壊された次の自分のターンに復活するカードだ。しかも『二速ツイン』に加速して復活する。
「俺は手札を2枚捨てることでドロップから『二速ツイン』を1体召喚!そしてこの時相手モンスター1体のライフを2下げる!」
俺の『這う影』のライフが2下がるが、まだ破壊はされない。問題はこの後だ。前の2ターンで破壊された2体の『二速ツイン』にも同じように加速召喚能力が備わっていることだ。
「そして、俺はここまでに破壊された2体の『二速ツイン』の効果発動!俺の場の『垂直落下のラスト』と今召喚した『二速ツイン』を破壊し、加速召喚!『三速ドライン』!」
シュウのフィールド上の2体のモンスターが火をあげて灰になり、その火の中から『ツイン』よりもさらに巨大なモンスターが2体現れる。その爪と鱗を見ると、トカゲと言うよりは翼のない小型ドラゴンに近かった。
「そして『ドライン』の加速召喚に成功した時、相手キャラを3体まで選びライフを3下げる!」
俺の場の『這う影』と2体の『サラム』が破壊される。『ドライン』を2体召喚したことで3体のモンスターのライフを6ずつ下げたのだ。ここまでゲームを優勢に運んできた『サラム』も破壊時のデメリット効果が発動してしまう。
「俺は『サラム』の効果で自分のデッキを6枚ドロップに置きます」
【ツバサ LP 27→21】
ダメージではなく直接ドロップに置くので逆召喚は出来ない。見るとドロップに置いたカードの中には『宙を漂う砂粒』も含まれていた。
(貴重なトリガーカードを失ったか……!)
枚数差はほとんど無いが、俺の場のアタック出来ない『鬼爆弾』1体に対してシュウの場には打点4を持つ『三速ドライン』が2体。
(……)
紛れもない絶体絶命だった。
■所持カード[ツバサ]■
枚数:40枚
○『片翼の夜騎士グレイヴ‐ф』
○『角兎 ルルー』
○『超過爆殺サラム』
○『這う影』
○『藁人形シルフィド』
○『宙を漂う砂粒』
○『鬼爆弾』