CR04 『一戦目』
「さぁ!誰かこの僕の最強『ルルー』デッキと戦おうって奴はいないのかい!」
並木道で自分のデッキを掲げて騒いでるバカが居た。
「バカだ……」
「いやそう言ってやるなよ、宇佐見」
いつの間にか俺が宇佐見を呼ぶ時の『さん』付けは消えていた。
もともと宇佐見は口数が少ないせいか、まだ一度も俺の名前を呼んでいなかった。
俺たち二人はあまりにも丁度良すぎるカモの登場に正直驚いていた。
バカはさっきからずっと並木道の真ん中で通行する受験生たちに叫んでいる。
「話がうますぎて若干不安になるが、あいつなら100%倒せる気がするな」
「私でもいける……」
「宇佐見はそもそもルール知らないだろ」
宇佐見は少し不機嫌そうな顔をする。いやなんでだよ。
おっと。こんなことを言ってて他の受験生にカモを横取りされても困る。
俺たちはバカに近づいて行った。
「もしよければ俺が相手になるよ。」
バカは振り返って俺の姿を確認すると慣れなれしく肩を叩いてきた。
「そうかそうか! 君が一人目の挑戦者というわけだな!ハッハッハ!」
「え、あぁ。ハハ……。よろしく……。」
(こいつちょっとウザいな)
「それでは賭けるのはお互いのプライド、そして所持カードの半分でどうかな?」
「ハハ……。えっ?」
俺はすぐに宇佐見の方に視線を送る。
宇佐見はどうやら俺の考えていることを理解したらしく、黙って小さく頷く。
「どうかしたか?」
「あぁ。いや、そのルールで頼むよ」
「そうか! では早速そこの競技机で対戦しよう!」
バカは道の脇に設置されている競技机に走っていく。
この男がカードを何枚所持しているかは分からないが当初の予定より多くカードが手に入れられそうだ。もしこの男が仮に90枚持ってるとすれば、ここで一勝してその半分を受け取れば俺たちはデッキ二つ分の80枚になる。
競技机。
公式戦やプロリーグでも【Greifen】をする時に使われる机だ。
机と言ってもプレイヤーは椅子に座るわけではなく、5メートルほどの距離をあけた二つの台にそれぞれデッキを置いて戦う。
【Greifen】のカードには特殊な薄いチップが埋め込まれているのでこの台の上にカードを置くと、お互いの台ではさんだ一辺が約5メートルの地面にカードの情報が映写される。
なので対戦中はわざわざ相手のカードを借りて効果を確認するようなことはない。ちなみにゲーム中の宣言もこの台の側面のキーを操作して行うことが出来る。
俺はもう片方の台につくと。デッキを机上に置き、自分の名前を入力する。
お互いの間の地面に【Greifen】の対戦用のプレイフィールドが浮かび上がっていく。
【Greifen】のフィールドはいくつかのエリアに分かれている。
フィールドの端にバカの名前が『カズヤ』と表示されていた。
「それじゃ始めるぞ!」
バカのかけ声と共に競技机のシステムが自動で先攻を決める。
台の正面のターンプレイヤーを示すランプが点灯したのはカズヤの方だった。俺とカズヤは山札の上から5枚を手札としてめくると、同時に開始の合図を叫んだ。
「俺のカラー指定は赤だ」
「僕は黒を選択する」
「「Greifen!!」」
【Greifen】は山札を削り合うカードゲームだが、それ以外にも特徴がある。
まず一つ目の特徴としてこのゲームにはドローが存在しない。
厳密に言えばドローは好きな枚数出来るが、0枚でも構わないのだ。
それぞれのプレイヤーはターンの開始時に【4チャージ】する。
チャージとは山札からその枚数のカードを【リソース】に移動させることだ。
この【リソース】と言うのが他のカードゲームで言うところの『マナ』『エナ』『土地』のようなもので、カードを手札から召喚するのに必要になる。そしてプレイヤーは山札ではなく、この【リソース】から好きな枚数をドローすることになる。だから、ドローした分だけ召喚しにくくなるのだ。
ちなみにドローの後に一度だけ、手札を好きな枚数【リソース】に置きなおせる【リチャージ】というシステムが存在する。つまり、リソースを全て一度ドローした後に、手札からいらないカードを戻すということも可能だ。しかし、この方法には欠点がある。
【リチャージ】したカードは表向きで【リソース】に置かれる。
【Greifen】では手札からカードを召喚するコストとして【リソース】を支払う。支払った【リソース】のうち裏のカードは山札に戻り、表のカードはドロップ(他のカードゲームで言う『墓地』)に置かれる。ドローした分だけ間接的に山札が減るということになる。
ドローは求道者を死に近づける諸刃の剣だ。
「僕のターンだ!僕はチャージ、0ドロー、0リチャージだ!」
【Greifen】では序盤はドロー枚数を絞ることで体力を温存するのが定石だ。カズヤもこのターンはドローをしなかった。
「僕は2コスト支払って、手札からレベル2『魔獣ラスト』を召喚!」
カズヤは裏のリソースから2枚を山札の上に戻す。
【Greifen】では基本的にカードのレベル=召喚に必要なコストとなっている。
召喚されたカードに描かれたモンスターが、競技机によって空中に投影される。まるでそこに居るかのように空中に出現する。
「すげぇな……。紫雲競技公園ともなるとカードの空中投影まで出来るのか」
実物を見たのは初めてだった。普通の競技机は地面にカードを投影するだけだからだ。
「それじゃ、早速行かせてもらうよ!『魔獣ラスト』でプレイヤーにアタック!」
黒い牙を持った気味の悪いぬいぐるみのような獣が飛びかかってくる。
あくまで空中に投影されているだけなので衝撃はないが、初めて見た俺は少しビビった。
『魔獣ラスト』の打点は2なので俺の山札の上から2枚がダメージになる。
【ツバサ LP 30→28】
(そう言えば5枚のハンデがあるんだった。早めにやり返さないとまずいな。)
俺は山札の上から2枚をカズヤに見えないように確認する。
1枚は白カード。つまり、使えないカードだ。
もう1枚はさっき宇佐見がパックで当てた『山兎 ルルー』だった。
(よし。これなら行ける。)
「俺は1枚をセット。残りの1枚をカウントに置く。」
【Greifen】のルールでは相手のダメージを受けた後に反撃のチャンスがある。
「『山兎 ルルー』を逆召喚!!」
それがこの【逆召喚】だ。
簡単に言えば相手に受けたダメージをコスト代わりにカードをプレイ出来る。
俺の場に灰色の毛並の兎が一匹現れる。『ルルー』デッキ相手の対戦だが意外なことに先に『ルルー』を召喚したのは俺の方だった。
「やるねぇ!もしかして君も『ルルー』デッキかなぁ!僕はターンエンドだ!」
バカ、もといカズヤの言葉を俺は手を広げて受け流す。
わざわざ自分のデッキをありあわせデッキだと教えてやる必要はない。
△ カズヤ LP 35 △
『魔獣ラスト』
▽ ツバサ LP 28 ▽
『山兎 ルルー』
「それじゃ俺のターンだ。ドローもリチャージも無しでいい」
俺はもともと握っていた5枚の手札に視線を落とす。
『半直の鬼フォルン』
『角兎 ルルー』
『超過爆殺サラム』
『這う影』
そして最後の1枚には【Flugel】のマークが刻まれていた。
■所持カード[ツバサ]■
枚数:35枚(うち20枚は茜のカード)
○??? 【Flugel】
○『終世の重機』
○『半直の鬼フォルン』
○『ルルー・キング』
○『ルルー・クイーン』
○『山兎 ルルー』
○『角兎 ルルー』
○『超過爆殺サラム』
○『這う影』