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Greifen 【グライフェン】   作者: Purcell
《カード・ロワイアル編》
2/16

CR02 『二次試験』

15枚。


 これが俺の実技試験に持ち込めるカードの枚数だ。

 ある程度の予想はしていたが、いざ目にするとこれは詰みにかなり近い状況だと改めて感じる。

 そもそもカードゲーム【Greifen(グライフェン)】のルールでは20枚以上のカードでなければデッキとして扱うことは出来ない。

 俺が持ち込めるのはデッキではなくテーブルに置いた瞬間に枚数規定で反則負けになるカードの束だ。


 だから他の受験生と違って俺にはほとんど選択肢がない。二次の実技試験のルールに賭けるしかなかった。

 具体的に言えば、もしトーナメント戦やブロック毎の決められた対戦のような単純に実力を図るタイプの実技試験ならば、これはもう間違いなく詰みだろう。


 だが、このようなルールの実技試験になる可能性は低いと俺は考えていた。理由は一次試験での持ち込める枚数の上限を定めるシステムにある。

 もしも対戦を繰り返すだけならば41枚目以降の対戦で使わないカードを持ち込ませる必要がないからだ。


「おそらく二次試験のルールは……」


 持ち込む15枚のカードは意外にもあっさり決まった。本来使う予定だった40枚のデッキからコストが高いカードを優先的に15枚選んだのだ。


 1枚のカードが目に止まり、そのカードに刻まれた天使の翼のようなマークを指でなぞる。

 このマークが付いているカードは市販されているものではなく、そもそも何枚あるのかも俺は知らない。

 このカードはつい最近、俺の父親の旧友とだけ書かれた封筒で送られてきたカードだった。同封された手紙にはこう書いてあった。


『…それは大地が消息不明になる前に残したカードだ。彼はそれを【Flugel(フリューゲル)】と呼んでいた…』


 これが消えた親父を見つける唯一の手掛かりだ。だから俺は……。


「だから俺は机上高に入って【Flugel(フリューゲル)】を集める」


 声に出すことで自分を奮い立たせようとしたが、手元には相変わらず15枚のカードがあるだけだった。



 二次試験の集合場所として指定された場所は紫雲(しうん)競技公園の中心にある噴水池だった。

 紫雲競技公園は【Greifen(グライフェン)】の大会で頻繁に使われている国立競技場、一次試験でも使われた会議場や美術館などの様々な国営の施設を併設した公園で、この公園自体が【Greifen(グライフェン)】を楽しむ一般人に開放されている競技場となっている。ただ、一般開放されているのは休日のみで今日は園内には受験生しか居ないはずだ。


 総面積は約七十万平方メートルで公園自体を一周するだけで三十分以上かかってしまうこの公園だが、どうやら二次試験の会場は紫雲競技公園の中にもいくつかあるらしく、噴水池の周りに居た受験生は二百人ほどだった。


 集合時刻の十四時ちょうど、園内に等間隔で設置されている大型スピーカーからカチッと言う音に続いてノイズが流れ始める。


(何か放送が始まるのか……?)


 少し間をおいてスピーカーから聞こえてきたのは男の声だった。


「えー。受験生の皆さん、まずは一次試験お疲れ様でした。第一机上高校実技講師統括の森嶋 優斗です」


 近くの受験生たちにざわめきが広がる。どうやらこの森嶋と言う男は有名人らしい。


「二次の実技試験ですが、一次試験用紙にも記載した通り、皆さんそれぞれが一次試験で獲得した点数以下の枚数のカードしか持ち込むことが出来ません。もし規定を超える枚数の使用が確認された場合はその時点で受験番号が無効になるので気をつけて下さい」


 この放送を聞きながら辺りを見回して初めて気づいたが、この競技公園には街灯やスピーカーに混じって多くの数の監視カメラが設置されているようだ。


「それでは二次試験でのルールを説明します。まず今この園内には肩に腕章を付けた机上高校の在校生・講師から選ばれた試験官が約五百人ほど待機しています。皆さんが試験官に対戦を申し込んで勝利した場合、200枚から500枚のカードが渡されます。ちなみに実力のある試験官ほど勝利した時に渡されるカードが多くなります」


 男は説明を続ける。


「試験官の中には現役のプロも混ざっています。相手の実力を見極めることも求道者(グライファー)の資質の一つですのでそのつもりで。午後十七時――つまり三時間後の時点で500枚以上のカードの所持を合格条件(ノルマ)とします。僕も北東エリアの競技場で皆さんをお待ちしています。では、試験開始です」


 試験開始の合図と共に噴水池の近くにいたほとんどの受験生達が四方八方に走り出す。

 ここには試験官が居ないから他の受験生より早く見つけ出して対戦を申し込もうとしてるのだろう。


 そんな中、俺は噴水池の前で喜びのあまり(・・・・・・)立ち尽くしていた。


「いける…!このルールならデッキがなくても勝ちさえすれば合格できる…!」


 今回のルールの本質は試験官に勝つことじゃなくカードを集めることだ。

 森嶋とか言う男は相手の実力を見極めろと言った。それは試験官の実力と言う意味だけじゃない。

 そもそも今の時点で机上高の在校生より強い人間しか合格できないならば、机上高の生徒数が足りなくなる。

 どこかに試験官を倒せなくても合格出来るシステムが存在しているはずだ。


「他の受験生から奪えってことか」


 もちろんカードを力づくで奪ったら受験資格を剥奪されるだろう。だがこのルールならデッキがなくても他の受験生との交渉次第でどうにかなる可能性がある。

 《詰むまで諦めない》と言うのが、俺の座右の銘だった。


 とりあえず交渉にのってくれそうな他の受験生を探さなければ、と周りを見回す。

 振り返ると噴水の横のベンチで寝ているやつが居た。


「…………は?」


 振り返ると(・・・・・)噴水の横のベンチで(・・・・・・・・・)寝ているやつが居た。(・・・・・・・・・・)


 あまりにも場違いな状況を前に脳が思考を停止した。なんだこれ。


「…………」


 落ち着こう。とりあえず状況を整理しよう。

 今は実技試験の開始直後。三時間以内にどうにかしてカードを集めないといけない。よし、ここまではいい。目の前にはベンチで寝ている美少女……どういうことだ?


 それは美少女と言う表現でも間違いない容姿をしていたが、ベンチで寝ている姿とその小さな体躯や肩にかかるふわふわとした髪の毛のせいか、なんとなく小動物を見てるような気持ちになった。

 ……もうはっきり言って小動物そのものだった。

 いや、おそらく生物学上が人間に分類される何かだとは思うが確信はない。


「すいません。大丈夫ですか?」


 気づくと俺はそれに話しかけていた。気になるものを放っておけない性格というか、俺はいつも蛇が出るまで藪をつつきまわしてしまうような男だった。


「……」


 その美少女はベンチに寝転んだままで眠そうに目を開いた。


「あのー。ここで何をしてら…してるんですか?」


 噛んだ。俺はいつも初対面の人間の前では噛んでしまうような男だった。恥ずかしい。

 そもそも俺の目の前で今あくびをしているこの少女を人間と呼ぶか小動物と分類するかについては若干の議論の余地があった。


「宇佐見 茜……受験番号は507……いや508だったかも……」

「え、受験番号?」


 この少女まさか受験生なのか? と言うことは俺と同い年なのか?

 脳の理解が完全に追いついていなかったが、俺はそもそも自分が今ここに居る目的を思い出した。


「宇佐見さん。よかったら俺とカードを賭けて【Greifen(グライフェン)】しない?」


宇佐見は寝転んだままで目だけがこちらを見る。


「ただ俺はカードを15枚しか持ってないから対戦前に君からカードを5枚借りて、もし僕が勝ったらそれを貰う。でもその代わりもし君が勝ったら元々の僕が持ってたカードも含めて全部君にあげるよ。」


「……」


 宇佐見はうなずくでも断るでもなく、ただ俺のほうを見ていた。反応が無さ過ぎて聞こえていないのではないか不安になるほどだ。


「どうかな。デッキの枚数は俺が20枚で君が40枚の対戦になるし、負けても君は5枚しかカードが減らないし、勝てば15枚増えるよ」


「……はんぶん」


「うん?」


「私、カード20枚(はんぶん)しか持ってない……」


 完全に交渉相手を間違えていた。相手もカードをほとんど持っていないとなると先にカードを借りる交渉が成り立たない。


 いや、待てよ。逆に考えれば……。


「わかった。」


「?」


「手を組もう。」


 宇佐見と言う少女はいまだに眠そうだったが、さっきより少しだけ目が開いたように感じた。と言うか、そろそろベンチから起き上がってほしいんだけど。


「二人合わせれば35枚のデッキが出来る。そこから15枚のカードを賭けて他の受験生と対戦をする。負けた時は俺のカードを全て渡して君の20枚は残る」


 俺はたった今思いついた作戦を口にし続ける。


「それで勝てば50枚のデッキになる。そしたら次はカードを30枚賭けて対戦だ。ほとんどの受験生はカードを90枚以上持っているから乗ってくるだろう。そこで負けた時も残った20枚は君のものだ。ただ、もしも勝ったら」


 宇佐見は不思議そうな目で見つめていて正直話しづらかったが、それでも俺は最後まで言い切った。


「合計で80枚で二人分のデッキになる。そしたらカードを分けて解散だ。つまり二連勝するまで協力して、もし途中で負けても俺のカードが無くなるだけで君には損がない。どうかな?」


「……いいよ」


 そう答えると宇佐見は少し笑って、カードを探すように自分の着ているコートのポケットに手を入れた。


 よし、これでとりあえず35枚のデッキで対戦することが出来る。

 5枚のハンデだけでも【Greifen(グライフェン)】の世界では大きいが絶対に無理ではない。つまり、《詰みじゃない(あきらめない)》。


 【Greifen(グライフェン)】には赤・緑・青・白・黒の五色のカードがあってほとんどのプレイヤーはどれか一つの色のカードだけで【単色(たんしょく)デッキ】を作る。

 俺が持ち込んだ15枚のカードは全て黒のカード(ブラック)だ。

 これでもし宇佐見の持ち込んだ20枚が黒のカード(ブラック)なら俺たちは【単色(たんしょく)デッキ】ということになるが、もしそれ以外の色だった場合は【二色(にしょく)デッキ】となってプレイングの難易度が大きく上がる。


「はい……これ……」


 宇佐見のポケットから出てきたものを見て俺は本日三度目の気絶をしかけた。


「宇佐見さん、まさかこれって」


「さっき……買った……」




 宇佐見のポケットから出てきたのは未開封のブースターパックだった。


 カードが5枚入りのブースターパックが4袋。

 たしかに20枚のカードではあった。

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