CR01 『一次試験』
目が覚めたのは試験が終わる五分前だった。
(はぁ!?)
思わず口から間抜けな声が出そうになるのをかろうじて心の声で済ませつつ、試験場の黒板にかけられた時計をもう一度確認する。
まさかな。まさかこんな三秒で考えた出オチみたいな展開あるはずが……。
針は間違いなく試験終了の五分前を指していた。
「……」
思わず気絶しそうになる。
しかし、想定外の状況での対応の速さと諦めの悪さだけが取り柄の俺はどうにか意識を試験に向ける。この試験だけは落ちるわけにはいかないのだ。
それでも少し泣きそうになりながら、急いで答案用紙に自分の名前と受験番号を記入する。
(名前は設楽 翼、受験番号は782っと)
しかし、その記入欄のすぐ下には設問ではなく恐ろしい文章が書かれていた。
[注意]
・以下の設問は一次試験(筆記試験)である。
・試験自体の合否は二次試験(実技試験)によって決まる。
※ただし、一次試験で獲得した点数以下の枚数のカードしか二次試験に持ち込むことは出来ない。
(まずい!!)
現在、俺が受けている試験はカードゲーム【Greifen】のプレイヤー、つまり求道者の養成学校『第一机上高校』の入学試験だ。
試験は筆記の一次試験と実技の二次試験に分かれていて、実技試験では当然ながら【Greifen】での対戦を行うことになる。
だが、ここで今の俺にとって【Greifen】のルールに関わる二つの大きな問題がある。
一つ目は【Greifen】の勝利条件だ。【Greifen】ではプレイヤーのデッキの枚数がライフの代わりになる。
つまり、持ち込むデッキの枚数が足りなければ圧倒的に不利ということで、お互いの山札を減らし合うこのゲームでは勝利側のデッキも最後には5枚以下ということがほとんどだ。
二つ目は【Greifen】のデッキ構築条件の問題でデッキは20~40枚でなければいけない。
つまり、筆記試験で20点未満をとったら実技試験の対戦をすることすら出来ない。
最悪のシナリオを脳内に浮かばせつつも俺は死にもの狂いで答案用紙を埋めていく。幸い、問題はすべて四択問題のマークシートなので最低限の点数は取れるはずだ。そう信じたい。
[問1] 【Greifen】での構築条件として同名カードは●枚までである
(『C:4枚まで』だ!)
[問2] 【Greifen】でもっとも強力な効果を持ち一つのデッキに最大で3枚までしか入れることが出来ないカードを●●●と言う。
(『B:トリガーカード』か。『A:カウンターカード』はひっかけだな。)
どうやら筆記試験は最低限の知識を問う範囲のものらしく難易度は高くなかった。俺は次々と問題を解いていく。
[問X] 【Greifen】の開発したチームの最高責任者の名前は●●である。
不意に、ここで俺のペンが止まった。
この問題自体は非常に有名な話であり、答えはDである。
だが俺の視線はその横の選択肢で止まっていた。
『C:設楽 大地』
その名前は俺にとって懐かしいもので、同時に机上高校を俺が受験している理由でもあった。
(……親父)
俺はその名前を眺めて今どこに居るのかも分からない男のことを考えた。
「そこまでっ!!」
広い試験会場に響いた試験官の声で俺は我に返る。
二秒遅れで現実を理解した俺は今度こそ絶望のあまり気絶した。
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午後の実技試験を控えた俺の一次試験の点数は15点だった。
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