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01.You are my owner.

 






   【01.You are my owner.】







 僕は今、自分の主にお茶を用意している。僕の主は女性、見た目は少女みたいな可愛らしい、けれど凛と芯の通った人だ。冷たいようで本当は寂しがり屋で他人を見捨て切れないお人好し。

 そんな彼女は常に遠く、ここじゃないどこかを見据えている。

「私、子供を産むわ」

 ……耳を疑った。ポットを持つ手が微かに震えたのは、淹れていたお茶の様子で顕著にわかった。

「……え、」

 僕の反応は、機能異常かと疑う程遅かった。────圭は、何て言った? 僕は信じ難くて、僕の情報処理機能に問題が起きたのかと思った。

 僕は『ドール』と言う生体機械。人型で一般家庭用と言ったところ。製作者は主でも有る圭だ。

 圭は『プログラムコンディショナー』、腕はそうとうなモノで、素晴らしい、と内外で評判だった。その完璧なまでの操作能力と処理能力は天賦の才と謳われた。

 今は、もう一つの資格も有しているのだけど、それさえ殆ど行使せず引退した。今現在の彼女はご隠居、と、言ったところ。

 随分年寄りな呼称だけど、未だ二十代とは呼び難い若い容姿をしている彼女はすでに半世紀を生きている。

 そう。本当なら生を受けてから今に至っていれば孫がいてもおかしくないのだ。

 そうでないのは彼女が、圭が、別に[特別]と言う訳では無い。いや、僕には“特別”だが。


 とかく人口を気にされた《世界》。対策として打ち出された『既婚者優遇制度』と未婚者には強制的な『不老延命措置』。圭は未婚だ。だから『不老延命措置』を義務的に受けている。それで現在も若いまま。アジア、東洋系人種のせいか二十代より若く見られる姿で時を止めている。

 無理矢理に。

 細胞を活性化させての措置は体を蝕む。外には出なくても、内側から。昨今、それが問題として取り上げられている。が、今更中止も出来ず義務だけが先行したまま。

 圭の体はぼろぼろのはずなんだ。

 それなのに。


「……本気なの」

「ええ」

 また、飄々と。どこ吹く風で、こちらから見えない顔はどんな表情だろう。考えながら覗き込めないのは、恐怖から? 怖いのか。……うん、怖い。

「本気なんだね」

「そうよ────そのためにあなたを造ったようなものだから」

 座っている椅子や囲んでるテーブルの位置からは見えなかった、顔が、見えた。

「……っ……」

 背を向けていたのを、振り返ったから。……ああ、非道いね。

 そんな瞳を向けられて。

「───」

 僕に何が言えるって言うの?


「……。───あなたの、思うがまま、生きれば良いと思うよ」

 どちらにせよ、見ていられなかったから。大勢の関係者から取り残され、僕にはどうしようも無い寂しさに傷付くあなたを、見てなんていられなかったから。

「あなたの好きに、

 ─────『ご主人様(マイ・マスター)』」


 でも、あなたは独りで子を成そうと言うのでしょう?

 僕にそれは認められない。

 だから。


 僕は僕の好きなように、僕なりに考えるあなたのしあわせを捧げるために。

 好きにさせてもらうから。


 愛しい『我が主(マイ・マスター)







   【Fin.】







 あなたを丸ごと愛するって決まってたから。

 生まれ落ちたときから決まってたから。

 それが[存在事由]だから。


 ア イ シ テ ル 。


 だから、……。




2008.09.09執筆公開

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