04.pseudomaternity blues
【04.pseudomaternity blues.】
圭のお腹は、やはり少し膨らんだ。当たり前だけれど。子を孕んだなら。当たり前だけれど。
胸が、痛まない訳が無かった。
あまりに華奢な圭の体躯を、圭じゃない[何か]が侵蝕して行く。僕はそれがとても怖くて。なぜだがひどく恐ろしくて。圭が言った「子供を産むのが怖かった」と言うのとは別種だろうともやはり感覚は理解に及んだ。
これは怖い。よく、自分じゃない判然としないモノを体に収めていられる。女性は皆そうなのだろうか─────女性型の『ドール』も? 彼女たちに子宮が無いし、妊娠機能も無いけれど。街で見たことは在るけど話したことは無い。
人間は『ドール』を認識出来ないが、僕たちは識別機能を持っていてあからさまに“『ドール』です”って音声が教えてくれるモノじゃないけど、直感に似た感じでわかるようになっている。
多分仲間と人間を区別するためだろう。よくわからないが、そんなに悪いものじゃないはずだ。
人間が気付かないだけで実にたくさんの『ドール』が外を闊歩している。昔いた研究施設で見た比じゃないけどもちらっと判別しただけでもかなりの数だったのではないだろうか。
『ドール』は年々増えているのかもしれない。『不老延命措置』は結局害悪と見做され、今は元から受けてしまっている者や科学者のみが例外として続けているのみだ。弊害で次世代まで短い生涯を余儀なくされてしまったし。
圭の子供は無事だろうか。まったく、生まれるまでの細胞検査を行わなければ弊害は明らかにならないのだ。
事前的に病を知ることは出来るのに。
元から遺伝子に組み込まれていないからか、元は悪い物質ではないからか。この辺りはよくわからない。でも、方法は在りそうなものだけど────単純に出生率に響くとでも言うからか。
「侑生、どうしたの?」
小首を傾げる圭が眼前を占める。御蔭で、やや膨らみ始めた腹部まで目に入る。僕はそっと目を背けた。
「何でも、無いよ」
このあからさまな嘘を、どうか圭が見抜きませんように。
【Fin.】
怖いんだ。
あなたがあなたで無くなるようで。
これは、我が儘?
そうして膨らむ、あなたのお腹と僕の畏怖。
2010.09.01(執筆公開)