「新たな出会い」
楽しんで書きました。
いつもこんな感じのお話を書きたいのですが、現実はうまくいきません。
文才が欲しいです。
「キャァァァァァァ!」
絹を裂くような野太い男の悲鳴が森の中に木霊した。
「うぉっしゃぁぁ!
テンプレ来たぁぁぁ!」
それを聞いた少女はそう叫び、悲鳴の聞こえた方に向かって駆けていく。
途中
『ん?男の悲鳴?』
と疑問に思わなくもなかったが、誰かに危険が迫っているのは確かなので、気にせずそのまま駆けていく。
そのまま森をかけること数分。
幾分か開けた場所に、彼らはいた。
盗賊だろう鎧を着た粗野な雰囲気の男たち数十人が、1つの馬車を取り囲んでいる。
馬車の周りには、先程の悲鳴の主だろう腰を抜かしてへたり込んでいる男と、男と馬車をかばいつつ果敢に盗賊に向かい合っている剣を掲げた小柄な人間――フードつきのマントを被っているのでよくは見えないがおそらく女性だろう――がいた。
その他にも数人の人間が倒れている。
ピクリとも動かずに地面を血で染めているところから見ても、既に死んでいるのだろう。
服装から察するに、おそらく馬車の護衛だ。
馬車の中身と一緒に女性の方もいただこうと思っているのか、盗賊たちはにやにやと下卑た笑みを浮かべている。
今は均衡が保たれているが、それも時間の問題だろう。
それを見て、少女は自らの魔力をコーティングして肉体強化を施すと、空へと飛び出した。
一足跳びに女性と盗賊達の間に割り込み、盗賊と向かい合う。
突然空から現れた(ように見えた)謎の人物の乱入に、男たちの間にわずかに動揺が走るが、件の人物がまだ小さな少女であることを確認すると、途端に先程女性に向けていたものと同じ笑みを少女に向けてくる。
「そこまでにしときなよ、おじさん達。
いい年した大人が大勢でたった二人を囲んでるなんてみっともないよ?」
鈴のような、高くも冴え渡る凛とした声だった。
しかし内容は生意気なことこの上ない。
「おいおいお嬢ちゃん、おいたはやめてもらおうか。これは『大人』の話し合いなんでな。
それとおじさんじゃなくてお兄さんだ」
「話し合いをしているようにはとても見えなかったけど?
……まあいいや。
おじさん達運がよかったね。
私は今厄介事から解放されて非常に気分がいい。
だから財布の中身さえ素直に差し出すなら命まではとらないでおいてあげるよ」
お前はどこの盗賊(悪役)だ、と突っ込みたくなるようなことを平然とほざきながら、少女は笑う。
当然盗賊たちは本気にしない。
「こりゃぁいいや!
お嬢ちゃん俺たちに敵うつもりかよ!
勇ましいこった。
それとお兄さんな」
「親方ぁ。このガキも一緒に売っぱらっちまいやしょうよ。
よく見りゃ可愛い顔してますし、その手の好事家にいい値で売れますぜ」
「おう、そうすっか。
と言うわけだ、悪く思うなよ。
恨むんなら首を突っ込んだ自分を恨むんだな」
「そーゆー三下の台詞は死亡フラグだよ?おじさん」
目の前でお前を変態に売り払う宣言をされているが、それでも少女の態度は変わらない。
「楽しいおしゃべりはここまでだ。
……やっちまえ、野郎共」
その言葉にいきり立って武器を手に突っ込んでくる男たち。
それを見て少女は軽く肩をすくめた。
「やれやれ。
力量差を見破れない輩はこれだから。
まぁ、手加減はしてあげますか」
そして呪文の詠唱に入る。
口の中で素早く、荷車と襲われていた二人とその護衛の遺体を避けるように“力ある言葉”を組み立てる。
「“空気圧縮”!」
その言葉が発されたのと同時に、盗賊たちの意識は闇に落ちた。
圧縮された目に見えない空気の固まりに真上から押し潰され、少女の外見で油断していた彼らはあっさりと返り討ちにあったのだった。
「久々に使う魔法としてはこんなものかな」
出来映えに一人頷くと、風の魔法で気絶した男達を集め、森に生えている蔦を切り取ってロープがわりにまとめて縛り上げた。
「あの……」
そこまでの作業が終わったところで、先程盗賊達に襲われていた女性の方が声をかけて来た。
その呼び掛けに答え、少女は手を止めて女性の方へと向き直る。
そこで女性はこのままだと失礼だと思ったのか、フードつきのマントを脱ぎ、片手に抱えてから少女に深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。おかげ様で助かりました」
柔らかな赤毛が、それにあわせて揺れた。
しばらくそうしていたのだが、少女がなんの反応も示さないことに疑問を覚えたらしく、訝しげな声をあげた。
「あの……?」
「何で……」
「え?」
何をいったのか女性が聞き返そうと声をあげかけた所で、少女の悲嘆にくれたような、絶望したような声が辺りに響いた。
「何で美少女じゃないの!?
いや確かにすこぶる美人だけど!」
女性は美少女じゃないと言われたことに怒るべきか、それとも美人と言われたことに喜ぶべきか分からず、とりあえず沈黙を保った。
この場においては最善の判断である。
少女の苦悩の叫びはなおも続く。
「こう言うときは普通、色素の薄い上品そうなハイティーンの儚げな美少女って言うのがテッパンじゃないの!?
なのに何でいかにも健康的で肉惑的なボン・キュッ・パーンな、色気たっぷりのナイスバディでセクシーなフェロモンお姉さんなの!?」
お前はどこのエロ親父だ。
いくら同性とはいえ、その内容は完全にセクハラである。
暫くして少女が幾らか落ち着いた所で、女性はもう一度声をかけた。
「……もういいかしら」
「あ、はい。
どうもすみませんでした」
低頭平身謝る姿がそこにあった。
読了ありがとうございました。