「出発準備」
正直なところこの話し別に要らないですね。
姿変えたよ~と言うことがわかってもらえればそれでいいです。
相も変わらず森の中。
少女は悩んでいた。
とは言っても、その顔は明るい。
どのプレゼントを先に開けようか迷っているような、そんな楽しい悩みのようだ。
「どうしよっかな~♪
性別はここ2年で強くなったから大抵のことは力業で振り払えるし、女でいいとして、髪とか目の色とか、容姿はどうしようかな?」
ウキウキと言う幻聴が聞こえてきそうだ。
「目は……変えなくていいか。その方が色々と便利だし。
髪……はカイルとの差別化を図るならあっちは派手な金だったし、よくある焦げ茶とか、どうだろう。
身長は低い方が油断誘えていっか。
年はそのまま。
顔立ちはちょっと変えよう」
大体のイメージが固まったところで、少女はまたも何やら呟くと、己の血を媒介に魔法をかけた。
光が治まった後に現れた少女の姿は、先程までと劇的な変化はない。
ただその背を流れる漆黒の髪がブラウンへと代わり、肌も黄色みを多少抜かれ、顔立ちは一つ一つのパーツは変わっていないものの、その配置を少しずらしこの世界で違和感のないものに仕上げられていた。。
変わったところと言えばそれだけである。
しかしそれにも関わらず、カイルの時ほどかけ離れてはいないが、その姿はもはや先程の少女とは別人であった。
「“水”《ウォーター》。“氷鏡”《アイスミラー》」
彼女の「力ある言葉」に答えるように目の前に空気中の水が集まり、一瞬で凍りつき氷でできた鏡となった。
魔法で作り出したその鏡に写る全身を見て、彼女は満足そうに頷いた。
「うん、いいかんじ。
これなら誰も私とかの英雄が同一人物なんて気付かないよね。
その姿なら市井にも潜り込みやすそうだし。
スタイル抜群の美女とかでも良かったけどそうすると虫除けが大変そうだもんね」
出来上がりに一人悦に浸っている彼女に一言言わせてもらおう。
普通の人は男が女になってるなんて思わない。
「この国の基準でいくと13、4歳ってとこかな?
変な男は寄ってこないだろうし、純粋な市民騙して情報集めよっと。
……あれ、ちょっと待てよ。この格好の私に寄ってくる男がいたらそれってロリって事なんじゃ……
美女に言い寄るたくさんの煩悩まみれの男共と、ピンポイントな変態。
比べるとどっちがましなんだ?」
発言が完全に魔族寄りになっていることに気がついたのかと思えば、どうやらそうではなかったらしい。
しばらくウンウン唸っていたが、結局は人数が少ない方が捌くのが楽。そしてまた姿変える魔法使うのめんどいと言う結論に至ったようだ。
どちらにしろ力業で振り払えるから問題無いのだろう。
「さて行きますか」
腕のひとふりで氷鏡を消し去ってから、彼女は自分の服装を見て顔をしかめた。
彼女が今来ているものは、カイルの時に来ていたものと同じである。
つまりは男物で、かなり大きいのだ。
ちなみに魔王討伐の時に身に付けていた鎧や剣は、王国から貸与されていたものなので、ヒューイに頼んで持ってかえってもらっている。
「まずは服の調達からかなぁ」
足や手の裾を折り、ずり落ちてくるズボンを紐でとめる。
ついでに顔にかかる長髪も後ろの高い位置で纏めた。
幸い旅に必要な道具はカイルの時に揃えたものがあるし、懐も同様にカイルの姿で稼いだ時のものが残っているので暖かい。
服の10枚20枚じゃびくともしない。もちろんそんなに買うつもりはないが。
「さーて、どこの国に行こうかな♪」
意気揚々と歩いていく、彼女の足取りはこの上もなく軽かった。
読了ありがとうございました。
これから話しは面白くなる……といいな。