「爆弾発言」
頑張ってギャグを混ぜてみましたが……不発に終わりました。
「お願い……ですか?」
カイルの言葉に真っ先に反応したのは、メリアの治療を終えてその場に佇んでいたリーサだった。
カイルの女言葉を、特に気にしたそぶりはない。
「なるべく叶えてやりたい気持ちはあるが、モノによるな。
先に用件を言え」
こちらも女言葉を華麗にスルーしつつ、メリアが言う。
「確かに。俺としてはお前の願いってんなら無条件で手を貸してやりたい気持ちはあるが、軍に所属してる身としてはそうもいかねぇ。
――すまない」
心底申し訳なさそうに、頭をガリガリと掻きつつヒューイは謝る。
女言葉については触れようとしない。
「私も、内容次第ですね。
ですがそれが納得できるものであれば、協力は惜しまないと約束しましょう。
お願いとは一体なんですか?」
ひたすら穏やかに微笑みながら、リヒャルトは問うた。
しかし女言葉については言及してこない。
四人のそれぞれのコメント(約一名はただの呟き)が終わった。
しかしとうとう、女言葉に対する突っ込みは起こらなかった。
と言うか、皆それを当然のように受け入れていた。
それもそのはず。
共に魔王討伐の旅をした一年間。
彼は常にこのしゃべり方だった。
とは言うものの、彼は別にオカマと言うわけではない。
以前、どうしてもこの言葉使いが気になった一人の兵士が彼に聞いてみたことがある。
「なぜそんな言葉使いなのか」
と。
それに対する彼の答えはこうだ。
「どこかおかしいかしら?
この国の言葉は、以前別の国で働いていたときに仕事仲間だった、この国出身の女性に教えてもらったものなの。
やっぱり言葉って言うのはその国で生きた人に教わった方が、真の意味での理解に繋がると思うのよ。
彼女からは完璧だって太鼓判を押されてたから少しは自信あったんだけど、やっぱり土着民が聞くと発音変なのかしら?
それとも文法間違ってる?
――え?
完璧だって言ったときの彼女の様子?
スッゴクいい笑顔だったわよ。
よほど嬉しかったのか、眦に涙まで浮かべてたわね。……そう言えばお腹押さえながら全身プルプルふるえてたわ。翌日腹筋が筋肉痛だーって騒いでたっけ……」
懐かしそうにかつての仕事仲間について語る彼に対し、質問をした兵も、その周りにいてこの話にこっそり聞き耳をたてていたたくさんの人々も、示し会わせたようにそっと無言で目をそらせた。
その場にいたすべての人が確信していた。
彼に言葉を教えたその「彼女」は、絶対わざと教えたに違いない、と。
そのときの人々の胸中はこうだ。
『ああ、それは……師匠が悪かったネ』
閑話休題。
そんなこんなでなまじ一度覚えてしまったために矯正が出来なかった彼は、その後も女言葉で話し続け、周りの者もその言葉使いにすっかり慣れて、今に繋がる。
そして今、そんなかわいそうな彼は、約一年間を共に過ごした仲間達一人一人と順番に顔を合わせ、穏やかに、だが疲れたように笑った。
「ヒュー、リヒト、メリア、リーサ。あなた達には本当に感謝してるわ。一緒に戦ってくれて、ありがとう」
それからここにはいないけど、ずっと一緒に戦ってくれた、兵士の皆もね。と、彼は続けた。
「これから言うことは、全部アタシの我が儘よ。あなた達にも、兵士の皆にも、勝利を信じて国で待ってくれてる多くの人々にも、本当に申し訳なく思ってる……。
でも」
カイルは何かに耐えるように目を閉じ、一度大きく深呼吸した。
そして静かに目を開けると、決意を秘めた強い眼差しで言葉を紡いだ。
「英雄を、やめようと思う。
アタシは魔王との戦いで、相討ちとなって死んだことにして欲しいの」
読了ありがとうございました。
あと2、3話後にはギャグに持っていくつもりです。
それまではシリアスにお付き合いください。