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…ゲンさんが泣いてしまいました。


「俺だって、俺だってほんとはちゃんとした剣とか置いて立派な武器屋をやりたいんだ。でもこんな騎士どころか衛士だっていないような村で剣なんか置いたって売れないんだ。売れるものを置かなきゃ商売にはならないし、売れるものっていったらどうしたって生活必需品が多い泥臭い店になっちまうんだ…」


ゲンさんはムキムキの見かけと違って心はあんまり頑丈じゃないらしい。



ゲンさんには『理想の武器屋の店主像』があって、そうあるべく常日頃から努力しているらしい。


いわく、あらゆる武器を扱え、その知識に精通して、傭兵や冒険者、職業軍人からも一目置かれる存在。


具体的には、片手で大剣や大斧を扱えるくらい筋骨隆々の身体。王道の長剣から暗器に至るまでの武器の知識。商人としての駆け引きや、値の読み方。


すごい!すごいよ、ゲンさん!すごすぎるよ!武器屋店主世界選手権があったら、間違いなくファイナリストだよ!



「武器屋店主世界選手権って、そんなのあるのか!?」


「…あるわけない」


「ほんとうに、マフィは馬鹿だねぇ?」



でも、そこまでしたって、店を開いたのがこの村だ。


この村での武器の需要は低い。というか、武器を扱える人があまりいない。


国境沿いや辺境の村なら対隣国とか対魔物の為に軍人さんが駐留しているだろう。


首都や主要街道沿いなら、そこに集まる傭兵や冒険者も多いし、なにより雇う費用があるだろう。


そこそこ首都に近いが街道からは離れた、特産も観光資源もなく、あるのは森ばかり。


すぐそばに賑やかな都会があるのに、わざわざこの村に住もうという人は少なく。


魔物が出れば、それこそすぐに討伐隊が出される。


脅威はないが、生活の苦労は多いのだ。


故に、農具や生活必需品の需要が高い。


武器なんて飯の種にもならないのだ。




え?森で獣を狩るのに必要じゃないかって?


あのね、森でそんなにしょっちゅう武器が必要な大型獣に遭遇してたら、危なくて仕方が無いじゃない!


肉が必要なら家畜を食べればいいし、そもそも大きな行事でも無い限り肉なんて食べられない。


普通の村人が狩れるのはウサギや野鳥の小動物で、それなら短剣や弓矢で事足りる。


大型の動物は大抵テリトリーが決まっているし、それを狩るなら武器を持って追いかけ回すより罠を仕掛けた方が確実だ。


だから、鍛冶屋の需要はあっても武器屋の需要は殆どない。




じゃあ、なんでゲンさんがここにいるのか。


それはお母さんのためだ。


ゲンさん本当は首都の武器屋の番頭見習いだったらしい。


商品を売りつつ自分の手腕も売り、暖簾分けでもして貰ってからゆくゆくは自分の名を冠した店を…と頑張っていた矢先。


村からの手紙で告げられたお父さんの訃報。


森での事故だったが、突然のことにお母さんの嘆きは深く。


急遽、休暇を取り帰ってきたゲンさんが見たのは、床につき涙も枯れ果て水しか口にしないお母さんの姿だった。


そこでゲンさんが何を思ったのか、私たちは知らない。


ただ、私たちが物心ついた時にはもう村にこの店はあった。


そしてゲンさんは自分の店の裏で椅子代わりの切り株に『武器屋らしい』座り方をしながら『武器屋らしい』笑い方と口調でこう言うのだ。


「夢なんざぁ、どこでだって実現できる!」



だから、私たちは冒険者を始めたんだ。

背景説明するとなんだかシリアスになっちゃいます。おかしいなぁ。

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