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「…なにか言いたそうだね?」
そう問いかけると、真っ先にマフィが喋り出した。
「いやいやいや、今の交渉、おかしいだろ。お前最初に『ギルド規定値』って言ったよな?あれってこの大陸の通常取引の値段だろ?そこから交渉って、ありえないだろ?」
「…それよりその盾、何?まさか欲しいとか言わないよね?」
「お前、俺の質問…いや、これはさ、やっぱり騎士を目指す者としてはだな、こういうのも標準装備ってことで…」
「へーほーふーん、騎士の『騎』って字の意味知ってる?『馬に乗る』っていうんだよ?馬より先に盾買うんだ?」
「いやだって、馬高いし…」
「それ以前に、マフィまだ馬に上手く乗れないよね?」
「っ!ふ、普通になら乗れる!お前みたいに曲芸乗りが出来ないだけだ!」
「早駆け、私に勝てないよね?」
「………」
とりあえずマフィを黙らせておいて、鍋を持ったマーリンに向く。
「マーリン、買わないよ?」
「…この子が、家に来たいって言ってる」
「うん、でもさ、この前もそう言って包丁買ったよね?しかもあれ、まだ一回も使ってなくて、壁に掛かったまんまだよね?料理屋じゃないんだから、壁に5本も6本も包丁掛かってるのおかしいって、昨日話したよね?」
「…包丁は、基本」
「うん、知ってる。いつも美味しい料理作ってくれるのも、いい道具があるからだって分かってる。でもさ、買っていつまでも使われないのも道具としては可哀想でしょ?私だってその子を連れて帰りたいけど、その子のせいで、うちの子達が使われなくなっちゃうのは悲しいと思うな」
「…分かった。うちの子達と、相談してから決める」
良かった。何とか分かってくれたようだ。
「うんうん、相談してからでも遅くないよ。少しぐらい遅くなっても、ここは金物屋さんだからいい鍋がいつでもあるよ!」
「ちょっと待てぇ――――!」
ようやく一安心したところに、なんだか怒声が割り込んできた。
「どうしたの、ゲンさん?」
「お前ぇ、今何て言った?ここを何処だと思ってる!」
そんな、分かり切ったことを…
「ゲンさんのお店、でしょ?」
「そうだ!ここは俺の店だ!そして俺は、武器屋の主だ――――!」
顔を真っ赤にして力説するゲンさん。その茹で上がり方に呆気に取られていると、
「でも、鍋って武器になるかなぁ?」
さくっ、とマーリンが突っ込んできた。
「あ、でもお店の前に『ギルド受付』って書いた看板あるし、ギルドの支部、の方が合ってるかなぁ?」
ふんわり笑いながら、さくさくゲンさんに棘を放っていく。
「やだなぁ、マーリン。こんな小さな村でギルドにする依頼がそんなにあるわけないじゃん?ギルドはお店の片・手・間。それにほら、置いてある商品、こんなだよ?」
そういってお店の中をぐるっと見回す。
置いてあるのは先程の鍋や包丁、日よけ用のローブ、鍬や鋤、魔物ではない食用の動物の狩りに使うような罠や弓、鞭などの馬具…
「…雑貨屋さん?」
「ウィンディ、惜しい!雑貨屋さんの商品と被ってるのもあるけど、あっちは金物が無いんだよね。あと小物が多いかな。それに、ほら、気づかない?」
「なんだよ、もったいぶらないで言えよ」
「マフィ、あんたも気づかないの?全く…じゃあ聞くけど、あんたのその剣、誰に貰ったの?」
「これは鍛冶屋のデインさんが、昔の見本をくれて…あっ!」
「わかった?ここには、私の使ってる短剣はあるけど剣は置いてないの。ウィンディやマーリンの使える棒や杖は雑貨屋だしね」
「そっか~、ここが武器屋なら、一番武器っぽい剣の類が全然置いてないお店になるんだねぇ」
「そう!武器屋にしては、剣の類が全然無い。雑貨屋にしては、刃物が多すぎる。ギルドにしては、依頼が全くない。つまり、この店は…」
「「「「金物屋だ!!」」」」
「金物屋って言うなあ~っっっ!!!!」