表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説

自分への苛立ち

作者: たこき

私は自分が嫌いだ。

クラスで威張っている小林よりも、授業中にギャーギャーうるさい山本よりも嫌いだ。

世界中のあらゆるものの中で一番嫌いだ。

よくもなく悪くもない平凡な顔が嫌いだ。

高くもなく低くもない中途半端な身長が嫌いだ。

自分では何も決められない優柔不断な性格が嫌いだ。

人に話し掛けられても「あぁ」とか「うん」しか言えない口が嫌いだ。

寝癖で毎日髪型が変わるわがままな髪の毛が嫌いだ。

嫌なことがあるとすぐに寝る習慣が嫌いだ。

なにもしていないのに後悔してしまう条件反射が嫌いだ。

すぐに冷える末端の手足が嫌いだ。

現実をみないで妄想ばかりする頭が嫌いだ。

いつも下を向いて歩く癖が嫌いだ。

知人にあっても無視する人見知りが嫌いだ。

無理に笑おうとしたときの不細工な表情が嫌いだ。

緊張するとすぐに汗ばむ汗腺が嫌いだ。

眼鏡がないと近くのものしか見えない目が嫌いだ。

好きな人に好きと言えない心が嫌いだ。

泣くことで自分を美化しようとする考えが嫌いだ。

人と違うことをして「俺はほかのやつとは違う」「俺は特別だ」と勘違いしているのが嫌いだ。

もう一度言おう、私は自分が嫌いだ。


みなさんはこころの底から嫌いな奴がいたらどうするだろうか?

きっとなにかしらの嫌がらせをするのではないだろうか?

私も同じだ。小林はむかつくので頼みごとをされても断った。

山本はうるさいのでケータイを学校に持ってきたことを先生にチクった。

そのときの小林と山本の困った顔をみてせいせいした。

だから私は自分に嫌がらせをしようと思いついた。

自分といっても今の自分に対してではない。

未来の自分に対してだ。

未来の自分が困っている顔を想像すると笑いがこみ上げてくる。

ちなみに小林にも山本にも私は仕返しをされて痛い思いをした。

けれど未来の私は今の私に仕返しができない。

こんなにおいしい話はない。

私は含み笑いをしながらどんな嫌がらせをしてやろうかと思案をめぐらせた。


--------------------------------------------


「起立、礼」

クラス代表の高橋がくそまじめな声であいさつをする。

私は、このあいさつが大嫌いだ。

このあいさつは私にとって「今日一日がんばろ」といきこんだ過去の自分を「なんかかったりーな」と思う未来の自分へと変化させる儀式となっている。

だからといって私は高橋のことが嫌いなわけではない。

基本的に高橋には好意をもっている。

ただ一つ、このくそまじめなあいさつが気に食わないだけだ。

世の中のあらゆるものに抱く感情は「好き」と「嫌い」の二択で分けられるものではない。

好きなところもあれば嫌いなところもあるのだ。

「好き」、「嫌い」の他にもあらゆる感情が私の頭の中を往復していて私の思考は常に混沌としている。

だから人に尋ねられたり、問い掛けられたりしても「あぁ」とか「うん」といった曖昧な言葉しか出てこないのは至極当然のことなのだ。

それなのに人ははっきりとしない態度をとる私を「よくわからない」「リアクションが薄くてつまらない」「会話が成立しない」と罵るのである。

私は最初、私のことを罵る奴らに対してなぜ私の崇拝なる思考を理解できないのかと悪態をはいた。

けれど今では普通に受け答えができない自分に苛立ちを感じている。

普通に受け答えができないせいで私はみんながあたりまえのように享受している楽しみを感じることができないからだ。

こんな思考をめぐらせ、ふと気が付くと午前中の授業が終わっていた。

「また、授業に集中できなかった」

私は、さらに自分に対するフラストレーションを増加させた。

「覚えてろよ」

私は未来の自分に対し心の中でメンチをきり、午後の授業の時間を使って未来の自分にどんな嫌がらせをしてやろうか思案をめぐらせた。

午後3時を向かえた頃、私はいい案を思いつき、

「へへへへ」

と最高に気持ち悪い顔で笑った


翌朝、私は早速昨日考えたことを実行することにした。

今日一時間目に水泳の授業がある。

私は、ズボンの下に海水パンツを履いて登校する事にした。

当然、着替えのパンツは持っていかない。

未来の自分は水泳の授業のあとさぞかし困るだろう。

「うへへへ」

と不細工な顔で私は笑った。


-----------------------------------------


私は水泳の授業が嫌いだ。

なぜなら、「なぜ不自由な環境に自分からいかなければいけないのか」といつも思うからである。

同じ理由でスキーも嫌いである。

しかも一時間目にあるせいで今日一日ブルーな気持ちで学校生活を送る羽目になるのだ。

私は苦痛な時間が流れるのをポカーンと口をあけながらただただ待った。

「キーンコーンカーンコーン」

救いの鐘の音が学校中に鳴り響き多少ブルーな気持ちを引きずりながら私は更衣室へと一番乗りでかけていった。

私はかばんの前で呆然とした。

思わず心の中で「何じゃコリャ―」と叫んでしまうほど困惑した。

なんと着替えのパンツが入っていないのだ。

「神よ、私に今日一日ノーパンで過ごせと言うのか?

何とむごい仕打ち、私が何をしたというのだ!?

このまえゴキブリを殺したからか?それとも嫌いなきのこを残したからなのか?

くそ!神じゃなければ誰がこんな仕打ちを・・・」

私はあたりをきょろきょろ伺いながら回りにばれないように素肌の上からズボンを履いた。

みょうにスース―して気持ちがわるい。

私は教室に戻る間に5回以上チャックが開いていないかどうか確認した。

こんな公共の場で私の「ぶつ」を露出するわけにはいかない。

そんなことをしたらただでさえ危うい私の立場が修復の余地のないほどに壊れてしまうだろう。

最悪警察に捕まってしまうかもしれない。

だから私はことあるごとにチャックを確認した。

いつもの百倍近く遅いスピードで時計の針が進んでゆく。

いつも混沌している私の頭も今日は「不安」と「惨めさ」で埋め尽くされていた。

「キーンコーンカーンコーン」

本日6度目の救いの鐘が鳴り響くと同時に私はそそくさと帰り支度をし、チャックを確認し、誰よりも早く教室をでようと席を立ち、チャックを確認し、ドアを開けて、チャックを確認し、下駄箱に靴を入れ、チャックを確認し、外に出て、チャックを確認し、深呼吸をして、チャックを確認し、早歩きで帰路についた。

帰りの道中、私は何故こんな事態になってしまったのかチャックを確認しながらあらためて考えた。

そう、犯人は過去の私である。

私は過去の自分に怒りを感じた。

けれども私にはどうすることもできない。

そこで私のこの怒りは未来への自分と向けられ「未来の自分に嫌がらせをしよう」という思考に再び至るのである。

「未来の自分め、覚えてろよ」そういいながら私はチャックを確認した。


--------------------------------------------


「よう、ひさしぶり。」

未来の自分にどんな嫌がらせをしてやろうかと悶々としながら歩いている私に珍しい人物が声を掛けてきた。

私は彼のことを「まこと」と呼んでいる。

まことは世間一般で言う不良に属する人間である。

何故か知らないが私は不良にもてるのである。

普通の人にはあまり好かれない私だが不良にとってはそんなことは関係ないらしい。

「ほんとに久しぶりだな。単位は大丈夫なのか?」

ちなみにまことはすでに一浪している。

原因はバイト中毒である。

バイト中毒とはお金を稼ぐ目的ではじめたバイトがいつのまにかバイトそのものに目的を感じるようになることだ。

まことは重度のバイト中毒者であったが一浪したことをきっかけに少しずつ直ってきている。

今日もリハビリの一環として久しぶりに学校に来たのだろう。

「まだ大丈夫。あと8日は休める。」

まことはまるで残りの有休について話すサラリーマンのような口調で言った。

「そうか、それならいいけど。」

私はチャックを確認しながら言った。

あの日以来私はチャックを確認する癖がついてしまった。

「そういえばさぁー、このまえ隆たちがさぁ―」

隆とはまことと仲の良い不良のことである。

隆達とはいつも5,6人のグループでかつあげや万引きなどの犯罪行為をしている連中だ。ちなみにまことはこういった犯罪行為はしない。

ただ少し短気なので気に入らない奴を殴ったりするが、何の理由もなしに暴行を行う不良とは違い、ちゃんとした理由に基づいた拳しかもっていない非常に好青年的な不良なのである。

「・・・・・・」

いつも好き勝手に話してくるまことのくちがとまった。

少しまじめな口調で再びまことの口が動く

「なんかさ、ヤクザみたいなオッサンたちとつるんでるの見かけたんだよね。あいつら大丈夫かな?」

先程言ったようにまことはとても好青年的な不良であり、とても友達思いのいい奴なのである。

平気で犯罪行為をするような奴らのことも心配なのである。

「別に大丈夫だろ。いくらあいつらでもそんなにやばいことはしないでしょ。」

私はチャックを確認しながら軽い調子で何も考えずに答えた。

この会話が後の重大な事件に関わっているとも知らずに。


--------------------------------------------


今日もまた未来の自分にどんな嫌がらせをしようかと貴重な授業の時間を使って考えていた。

特にいい案も思い浮かばず時間だけが過ぎ、気が付くと帰路についていた。

悶々と考えながら歩いていると前方から人なつっこそうな犬がヒョコッと現れた。

私はふと思いついた。

こいつに家のカギを与えて見たらどうだろうと。

実は私はわけあって一人暮らしをしている。

その理由についてはこの物語では語る気はないので皆さんでかってに想像してもらいたい。

まさか犬がカギをくわえて逃げていくなんて漫画のようなことなど起きないだろうと思いながら、面白半分でカギを犬の口に近づけてみた。

するとどうだろう、犬はうれしそうにカギを口にくわえ西に落ちる夕日に向かって走っていったではないか。

私は思わず「パトラッシューーーーー!」と叫んでしまった。

当然、世間の目が気になるので心の中でだが。

私は唖然としてしまったが、結果的に未来の自分に良い嫌がらせができたと思い満足げに再び帰路についた。


--------------------------------------------


今日はいつもにまして実りのない一日だった。

平気で一日を無駄にする自分が私は嫌いだ。

そう思いながらポケットに手を入れた。

「あれ?カギがない」

右ポケットも左ポケットも後ろ右ポケットも後ろ左ポケットも胸ポケットも空である。

かばんの中も捜してみたがカギは見当たらない。

どうやらどこかに落としてしまったらしい。

私としたことがカギを落としてしまうとは不覚であった。

とにかく事実として私は家に入れない。

しょうがないのでカギを探しに再び道路に出た。

するとどこかでみた覚えのある人懐っこそうな犬がヒョコッと現れた。

眼鏡越しに目をこらしてよくみてみると口になにやら見覚えのあるカギをくわえているでわないか。

見覚えのあるどころの話ではない。まさしくあのカギこそ魔王を倒せる唯一のアイテム「家のカギ」である。

私は戦士というよりは魔法使いタイプである。

無理に追いかけずに慎重に間合いを詰めていく。

一歩、また一歩と間合いを詰めていく。

「よし、今だ!」

私は絶妙な間合いで犬に飛びついた。

「わん!」

犬は西に落ちる夕日に向かってさっそうと走っていった。

もちろんカギをくわえたまま。

私は思わず「ネローーーーー!」と叫んでしまった。

当然、世間の目が気になるので心の中でだが。

「うぅ・・・」

私は数分間うなだれた。

そして十分うなだれたあとゆっくりと立ち上がり夕日に向かってゾンビのように歩き始めた。


--------------------------------------------


「チュンチュン」

今日はなんてすがすがしい朝なんだろう。

やさしい朝日に照らされて鳥の囀りとともに起きる。

私はなんて幸せなのだろう。

「・・・・・ところでここは何処?」

すべり台、ジャングルジム、砂場、シーソー、そんな遊具ばかりが目にはいる。

そうだ!思い出した。

結局昨日犬を見つけられなかったんだ。

それでしょうがないから公園で野宿したんだった。

「・・・・・・・・今日こそは見つけよう。幸い今日は土曜日、学校もないし。」

人生初の野宿は私の精神を少し強くした。

「さあ!はりきって行くぞ!!」


--------------------------------------------


「チュンチュンチュン」

今日はなんてすがすがしい朝なんだろう。

やわらかい日の光に照らされて小鳥の鳴き声で起きる。

私はなんて幸福なのだろう。

「・・・・・今日こそはがんばろう。」

昨日散々探したけれど結局犬は見つからなかった。

足には豆ができ、体中が痛い。

私は今までこの町の地理に詳しくなかったが昨日歩き回ったおかげでかなり道を覚えることができた。

「今日は昨日とは別ルートで犬を探しにいこう」

私は昨日できた頭の中のマップを思い浮かべた。


--------------------------------------------


「カァーカァー」

たそがれ時、西の空に夕日が浮かぶ。

赤い光に照らされると心の中の寂しさがひょっこり顔を出す。

そして私の目から涙が流れた。

「い、いぬぅ。みつからねーよ。ワンワンワーン」

感極まった私は思わず叫んだ。しかも心の中ではなく実際に声に出して。

「ワン!」

どこかで聞き覚えのある泣き声が聞こえた。

私はその鳴き声のするほうに行った。

「ワン!」

姿は見えないが確かに泣き声が聞こえる。

「ワン!」

少しずつ泣き声が大きく聞こえるようになっている。

「ワン!」

ふと空を見上げると一番星がわれ先に光り始めていた。

「ワン!」

私はようやく犬を追い詰めた。

うまい具合に行き止まりの路地に犬はいた。

私は戦士のように一気に犬に飛びついた。

「ワン!」

犬はびっくりしてカギを吐き出した。

そして路地にあいていた小さい穴から逃げて行った。

バーサーカーと化した私は犬が逃げて行った穴めがけて体ごと突進した。

「ドーン。バキバキ。」

犬一匹しか通れないような小さな穴は人一人がとおれる穴になった。

「・・・・やべぇ、壊しちゃった。」

壁を壊したことで私はバーサーカーから魔法使いへとジョブチェンジをした。

そしてなんでこんな大変な目にあったのか考えてみた。

そう、犯人は過去の私である。

私は過去の自分に怒りを感じた。

けれども私にはどうすることもできない。

そこで私のこの怒りは未来への自分と向けられ「未来の自分に嫌がらせをしよう」という思考に再び至るのである。

そして私はふといいことを思いついた。

ここに学生証をおいていくのだ。

そうすればこの壁を壊したのは私だと誰かが気づくだろう。

そしたらきっと学校に連絡がきて未来の私は先生に怒られるだろう。

未来の自分が先生に怒られる姿を想像する。

「フフフフフ、」私は泥だらけの顔で笑った。


-------------------------------------------


今日は期末テストの日。

ここ最近私は自分のことがさらに嫌いになっていた。

今度はどんな嫌がらせをしてやろうか考えながら頭の中のマップから今日の気分にあった道を選び登校する。

「うぅ・・誰か、」

ケーキ屋さんの近くに差し掛かったとき、とても苦しそうなおじいさんを見かけた。

私は人助けをするような人間ではなく見てみぬふりをする人間だ。

そんな自分が嫌いなのである。

いつものように見てみぬふりをしようとしたときふと、いい考えが思いついた。

今日は期末テスト、ここでおじいさんを助ければテストを受けれない。

そうすれば未来の自分はさぞかし困ることだろう。

そう考えた私はおじいさんに声を掛けた

「大丈夫ですか?」

「フガフガ」

どうやら大丈夫ではないらしい。

私はおじいさんをおぶって病院まで連れて行くことにした。

病院につきお医者さんにおじいさんを預けた。

医者曰く「軽い貧血ですので、今日一日点滴すれば大丈夫。」とのことだった。

ふと、私は時計を見た。

まだ今から学校にいけばテストに間に合ってしまう時間だったのでケーキ屋に行きおいしそうなシュークリームを買っておじいさんのお見舞いに行くことにした。

「ほう、おめ―が助けてくれたのか、坊主ありがとよ」

どうやらこのおじいさんは江戸ッ子らしい。

やけにしゃべり方が威圧的だ。

「あのーもしよかったらこれ、シュークリームです。どうぞ食べてください。」

私はシュークリームを差し出した。

「・・・・・」

おじいさんは鋭い目でシュークリームをにらんでいる。

「もしかして甘いもの嫌いですか?すいません気づかなくて」

自分が甘いものが好きだからっておじいさんも好きだろうと決め付けた自分が嫌いだ。

「いや、甘いものは大好きだ。実はシュークリームをちょうど食べたかったんじゃ」

そういうとおじいさんはもぐもぐとシュークリームを食べ始めた。

私は時計を見た。

今から行ってもテストには間に合わない時間になっていた。

「では私はこれで」

早く未来の自分が困る姿を想像して笑いたかったので私は病室を後にした。


--------------------------------------------


今日は期末テストを受けなかったもの及び赤点をとったものの補習の日である。

「よう、ひさしぶり」

当然のようにまことは赤点をとっていた。隆と隆がいつもつるんでる連中もあたりまえのように集まっていた。

結局補習を受けたのは不良軍団と私ともう一人体が弱くいつも休んでいる中川君だけであった。

無事に補習を終え帰ろうと玄関にいくと校門のほうに向かって歩いている隆たちを見かけた。

さらに隆たちの向こうの校門に怖いおにいさん達がサングラス越しにこっちをにらんでいるのが確認できた。

私の脳裏にまことの言葉が浮かんだ

『なんかさ、ヤクザみたいなオッサンたちとつるんでるの見かけたんだよね。あいつら大丈夫かな?』

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「まさか・・・あいつら何かやらかしたのか?」

不安が頭をよぎった。

不安はすぐに現実となった。

隆たちはヤクザのお兄さんたちに囲まれている。

隆たちは一方的にいいよられているようだ。

先にも述べたと思うが私は見てみぬふりをする人間だ。

だから今回も見てみぬふりをしようと思った、のだがいつものように未来の自分に嫌がらせをしようと思ってしまったのだ。

気が付くと私はやくざと隆たちの間に割ってはいっていた。


--------------------------------------------


「あなたたちは何なんですか。警察呼びますよ」

私の足は震えていた。

「おいおい、坊主、さきに手を出してきたのはこいつらだぜ。こいつらは俺らの大事な取引品をぬすみやがったんだ」

サングラス越しに眼光が光るのが見えた。

たしかに隆の手には怪しい品が握られていた。

ヤクザの話はほんとらしい。

「そ、それで隆たちをどうするきなんですか?」

なんでこんなことになったのだろう。

私は過去の自分に殺意を覚えた。

と同時に未来の自分に嫌がらせをしてやろうと思った。

「なーに、大事な取引品を返してもらって、ちょいとお灸を据えるだけさ。ちょいとね」

ニターとヤクザは笑った。

その笑いには残虐性が含まれていた。

私はここでいいことを思いついてしまった。

隆の持っている怪しい品を持って逃げるのだ。

そうすればさぞ未来の自分は困るだろう。

私はヤクザの隙を突いて隆の手から怪しい品を奪い取り頭の中のマップから最善のコースを選びながら逃走した。


--------------------------------------------


何でこんなことになったのだろう。

「まてーゴラァ!」

これもすべて

「ブッゴロズ」

過去の自分のせいだ。

「○×★△~!!!!」

こっちの道は行き止まりだったな。

頭の中のマップを必死に思い浮かべる。

「わん!わん!」

犬の鳴き声が聞こえる。

頭の中のマップでは犬の鳴き声がするほうは行き止まりのはず、

なのに気が付くと犬の鳴き声のする方へ走っていた。

「はぁー、はぁー」

だいぶ息が辛くなってきた。

行き止まりのはずの路地に行くとそこには人一人通れるような穴が開いていて、

何かカードのようなものをくわえた犬が穴の向こうに走って行くのが見えた。

「ラッキー、いったいだれがこんな穴をあけたんだ?」

穴を抜けるとそこには巨大なお屋敷があった。

後ろを振り向くとヤクザの気配はなくなっていた。

「フーーーーーーーゥ」

深いため息をはくと同時に体中の力が抜けてそのばに座り込んだ。

「おい!」

急に肩を叩かれた、と同時に全身の筋肉がフル可動し、私の体は跳ね起きた。

「おい、俺だよ俺、まことだよ」

そこにいたのはヤクザではなくまことだった。

「よ、よかっぱ」

また全身の力が抜けた。

「おい、早く逃げるぞ。」

まことはやけに急いでいる。

「大丈夫、大丈夫、もうヤクザは巻いたから」

私はいつものように簡単に答えた。

「馬鹿野郎!ここがそのヤクザの総本部なんだよ!」

「・・・・・へ!?」

なんと私はヤクザから逃げてここまで来たはずなのにそのヤクザの総本部に自ら飛び込んでいたのだ。

「まってたぞ。坊主。」

時すでに遅し。

ヤクザがお屋敷からぞろぞろと現れてきた。

「さてどうやって落とし前つけさせてもらおうか」

ずうたいのでかいヤクザがちかづいてくる。

「父さん、母さん、今まで育ててくれてありがとう。先立つ息子を許してください。」

そんなことを呟きながら私は神に祈りました。

「ゲームをしましょう。」

まことが突拍子もないことを言った。

「あぁん」

ヤクザがにらみをきかせてくる

「もし僕らが勝ったら見逃してください」

まことは怖気づくことなく続けて行った。

「てめらぁにそんなこと言う権利なんかないんじゃい!」

ヤクザは今にも殴りかかりそうな勢いでまことにつっかっかてくる

「まちな」

明らかに他のヤクザとは別格の男が言った。

「いいだろう。そのゲームとやらうけてやろう。ただし条件がある。ゲームの内容はこっちで決める。そしてもしおまえらが負けたら小指おいてけ。この条件がのめるならいいだろう」

小指って!まじっすか!?私は現実を受け入れられていなかった。

「いいですよ。その条件のみます」

まことは答えた。

「おいまこと、なにかってに言ってんだよ」

私は小声で言った。

「この状況じゃしょうがないだろう」

まことは小声で言った。

このとき初めてまことの声が震えているのがわかった


--------------------------------------------


私とまことはヤクザたちに囲まれてお屋敷の中へと案内された。

とても広い部屋へと案内された。

そこにはさらに数人のヤクザたちが待っていた。

「ルールは簡単。おまえらもみたことくらいあるだろう。二つのサイコロをふって半か丁かをあてるだけだ。わかるな?」

私は考えた。

つまり確立は2分の1。

たった二つの選択肢で私の人生は決まってしまうのだ。

そう思うとこれはなんと恐ろしいゲームなのだろうと思った。

「さあさあ、みなさんおたちあい」

どうやら私達に乗じて他のヤクザたちも賭けをしているらしい。

「は!」

サイは投げられた。

あまりにも早い展開に私は全く心の準備ができていなかった

「半」「俺も半」「俺は丁だ!」

ヤクザたちはどちらにかけるかどんどん決めて行く。

そしてついに決めていないのは私達だけになってしまった。

早く選べという空気が流れる。

そのとき無意識下で私はチャックが開いていないか確かめた。

するとチャックが見事に開いていたのだ。

「早くしろよ!」

ヤクザからやじが飛んでくる

「チ、チョックが・・・」

あせっていたのか私はチャックのことをチョックといってしまったのだ。

「丁だな」

しかもヤクザがそれを聞き間違えてしまい私達は丁に賭けることになってしまった。

「いやちが・・・・」

私は必死に今のは間違えだと弁明を試みたが時すでに遅し。

「では勝負・・・・いきます。」

カップが開かれ二つのサイコロが顔を出した。

「・・・・・・・・・・丁、丁です」

神様ありがとうございます。

私は心から神の存在を信じました。

「よし!」

私の隣でまことが小さくガッツポーズをしているのが見えた。

「これで僕達のこと開放してくれるんですよね・・・」

「坊主、悪いけどそれはできねーな」

場の空気が張り詰めた

「なんでですか、僕達勝ったじゃないですか」

「うるせぇ。いまのはいかさまじゃ!そっちの坊主が台を動かしたんじゃ」

一人のヤクザがまことの方を指差して行った。

「そうじゃそうじゃ」

「わしもみとったぞ」

次々とヤクザたちがいいがかりつけてきた。

どうやらすんなり返してくれるわけではなさそうだ。

私はこのとき本気であきらめかけました。

「ぐだぐだいってんじゃねー。てめーら負けたんだろ。潔くみをひけい、この馬鹿野郎ども」

どこかでみおぼえのあるおじいさんがどなりあたりはシーンと静まり返った。

「お、おかしら。しかしこいつら・・」

「しかしも糞もあるかい。黙ってこの方達を解放しろつってんだよ」

おじいさんのしゃべり方をきいて私は思い出した、

ヤクザのおかしらはいつぞやの道端で倒れていたおじいさんだった。

「しかもこの方はわしの命の恩人だぞ。」

ヤクザの御かしらの足元にはいつぞやの犬が座っていて、

おかしらの手には私の学生証が握られていた。

「わしはもらったオンは必ず返す。あんたわしを助けてくれたあとすぐにいなくなってしまったじゃろ。だからずっとあんたにお礼がしたいとおもってたんじゃよ。そんなとき家の犬があんたの学生証をくわえていたんでね、まさかと思ってきてみたらこんなことになっているとは。本当に申し訳ない」

そういうとおかしらは頭を下げた。

すると他のヤクザも全員頭を下げた。

あらためてこのおじいさんのすごさを感じた。

私とまことは抱き合い互いの無事を確認しあった。


--------------------------------------------


あらためて今日一日のことを考えてみた。

もし怪しい品を奪って逃げなかったら隆たちを助けられなかっただろう

もしこの町の地理に詳しくなかったら道に迷ってすぐにヤクザに捕まっただろう。

もし壁に体当たりをして穴をあけていなかったら行き止まりで捕まっただろう。

もしまことがきてくれなかったらひどい目にあっていただろう

もしチャックを確認する癖がなかったら賭けには勝てなかっただろう

もし学生証を落としていなかったらヤクザのおかしらは私の存在に気づかなかっただろう

もしおじいさんを助けなかったらやくざのおかしらは私達を助けてくれなかっただろう。


今日助かったのはすべて過去の自分のおかげだ。

過去の自分がいたから今の自分がいるんだ。

未来の自分にとって不利益だと思ってやったことがめぐりめぐって役に立つこともある。

人生に無駄なことなんて何もないのかもしれない。

もう一度言おう、私は自分が嫌いだ。

けれどこれから少しずつ、少しずつだけど自分のことが好きになれそうな気がしてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『未来の自分に嫌がらせをする』という、もうすでにめちゃくちゃな設定が、個人的に好きだという事。そのむちゃくちゃさを完結まで持っていく情熱。 [気になる点] んんー…特に思い当たらないんです…
2011/09/06 21:45 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ