ミュージカルを観に行く
今日はクラス全体でミュージカルを観に行くので、電車に乗っていた。
午前の部を観に行くので、朝から皆、テンションが高かった。
授業は息苦しくて、流れゆく景色を見ていたほうが楽である。
「今日は皆、元気だね」
彼女は向かい側に座っており、俺は少し眠たそうな目で答える。
「そうだな。俺なんかミュージカルを観ないで寝ないか心配だ」
ふわあとあくびが出ると、彼女が手でフィルターを作る。
「パシャリ!! ライオンさんの寛いだ姿を撮った!!」
「あのな…。全く、うちのうさぎさんはユニークなんだから」
「そう? えへへ」
彼女が笑いながら、髪をいじる。
彼女の毛は極上の絹のようにさらさらで、触ろうかどうしようとうずうずする。
「…ちょっと持った」
俺はのんびりモードから、急に真剣な顔つきとなる。
彼女は目をぱちくりとまばたきし、俺の言葉を待つ。
俺は斜め方向を睨むと、じっと見つめる。
彼女も同じ方向を見、「わあ」と声をあげる。
「美男子だね」
「…美男子か」
どうりで周りの女子がうるさいと思った。
まるでシャム猫みたいに、気位の高い人間が、3人立っていた。
先程から視線を感じていると思っていたが、目的は何だと見極めようとする。
「アイドルみたい」
「お前は好きなタイプなのか?」
2人で会話していると、1人が動き出し、こちらへやって来る。
他校の生徒らしく、制服が異なる。
何しに来たとすごむと、シャム猫はびびったらしいが、負ける気はないようだった。
「彼女、可愛いね」
よりにもよって、俺の彼女に話かけたので、俺は更に神経を尖らす。
目的はうちのうさぎさんのようで、俺は嫉妬心をむき出しにする。
「俺の彼女なんだけど」
立ち上がり、向かい合うと、俺のほうがでかかった。
シャム猫は後ずさったが、仲間2人を手招きし、対抗してくる。
「別に。君には用がない」
「は?」
俺は額に青筋を立てると、3対1で負けてたまるかと胸を張る。
彼女はどうしようか迷っているらしく、
「喧嘩は、あの、その!!」
上手く言葉にならないようだった。
ライオンが全身のオーラを強めると、シャム猫達は横に並び、拡散させる。
こいつら…と俺が殴ろうかどうしようか、拳を作っていると、車掌さんがやって来た。
「君達、何をしているのかな?」
丁寧な言葉遣いだったが、警戒しているのが分かる。
「別に何も」
シャム猫が少し生意気に答えると、俺も反論する。
「何でもありません。ただのいざこざです」
「いざこざね…」
車掌は間に入ると、両手で交互に胸を指す真似をする。
「とりあえず座りなさい。皆の邪魔になるから」
「そいつらがどこかに行ったら座ります」
「何…!!」
ライオン対シャム猫軍団のゴングが鳴るかと思ったが、車掌のほうが頭の回転が早いらしい。
「若くて血気盛んなのはいいけれど、ここは君達だけの空間じゃないんだ。他のお客さんのことも考えて」
「…はい」
俺が渋々、引き下がるのに対し、シャム猫達はあっかんべーをしたり、中指を立ててきたりと、やりたい放題だった。
どういう教育を受けているんだと、堪忍袋の緒が切れそうになると、車掌がたしなめる。
「君達!! やめろと言っただろうが!!」
「はい…」
3人は大人しくなり、車掌が彼らの背中を押す。
「向こうの車両に行きますよ。ここにいたら、喧嘩が勃発しそうなので」
「ありがとうございます」
俺が頭を下げると、車掌はシャム猫達を連れて行ってくれた。
俺はふうと息を吐き出すと、彼女が心配そうに言ってくる。
「大丈夫?」
「ちょっとだけ疲れた。見た目は綺麗なのに、心は黒いんだな。最悪だ」
吐き捨てると、どかりと椅子に座り直す。
俺はまだ苛々しており、うさぎさんに言う。
「寝る。お前も気をつけろ」
「う、うん」
彼女が俺の膝を擦ってきたので、少しだけ機嫌が良くなったのだった。




