忘却(イヤイヤ)の迷い子――妖怪イヤイヤ坊主の呟き
オイラの名前はイヤイヤ坊主。いつ、どこで生まれたかなんて知らない。気がついた時には、もうドロリとした霧になってこの世を漂っていたんだ。
何から生まれたかって? そりゃあ、人間たちが溜め込んだ「嫌だ、嫌だ」という黒い気持ちと、子供が地団駄を踏んで喚く「嫌だ!」っていう未熟なエネルギーさ。そんなものが溜まりに溜まって、オイラになったのさ。
オイラは別に、人間のそばになんて寄りたくないんだよ。だけどさぁ、世の中の「イヤイヤ」って心に、オイラは勝手に引き寄せられちまう。オイラの都合も考えてほしいよねぇ?
でも、いざ人間に近づくとあら不思議。相手にはオイラが「愛らしい幼子」に見えるらしいんだ。自分じゃ鏡も見られないから分からないけど、みんな声を揃えて「可愛い、ぷくぷくしてる」って言うんだから、まあ、そういうことなんだろうね。
……オット、また引っ張られそうだ。ひどい澱だなぁ、これは。
ふんふん、なるほど。自分が嫌でたまらないのかい? そんなの簡単だよ。そんな自分を、丸ごと忘れちゃえばいいんだ。
え? 「嫌な自分を忘れても大丈夫か」だって?
大丈夫、大丈夫だよぉ。うんうん、そうなんだ。忘れるんだ。そんな嫌な自分なんて、ポイっと捨てちまうのが一番さ。それが一番、いいことなんだよ。じゃあゆっくり、おやすみ。明日は嫌なことなんて、全部空っぽだ。
……さて、朝だから様子を見に来てやったよ。一応、これでも心配性だからさ。
あらあら、うまくいったようだ。何もかも忘れちまったみたいだぞ。自分の名前も、昨日まで抱えていた嫌なことも。鏡を見ても自分が誰だか分からず、親の顔を見ても他人を見る目をしてる。
自分の魂すら嫌だったのかい? なんとまぁ、呆れるくらいイヤイヤが多い人間だねぇ。
でも、良かったじゃないか。忘れられたんだから、幸せだろ? そうだよねぇ?
あぁ〜、また呼ばれてる。引っ張られていくよぉ。
今度はどんな「イヤイヤ」が待っているのかな? オイラがぜ〜んぶ、綺麗に忘れさせてやるからね。




