第8話 最強賢者、初任務を受ける
入団試験の翌日。
俺は魔法師団長の呼び出しを受けて、魔法師団本部へとやってきていた。
俺は大した荷物もないし、準備も必要ないということで、即日入団だ。
正直なところ、まだ自分が魔法師団に入団できたことに実感はない。
試験の後で、俺の魔法能力が魔法師団員として十分であることは説明されたが……半信半疑というのが正直なところだ。
とはいえ、入団がまったく嬉しくないかと言われれば……もちろん、すごく嬉しい。
魔法師団といえば、この世界でも最高峰の魔法研究機関だ。
なにしろ潤沢な国家予算を使って魔法の研究ができる訳だからな。
もちろん魔法師団に入ったからと言って、魔法の研究ばかりができるわけではない。
魔法師団員は要するに一種の軍人なので、軍人としての任務が沢山ある。
訓練の時間では魔法の練習ができるが……軍務の役に立たない魔法などをいじっていると、怒られたりするかもしれない。
一応、『研究員』という役職があって、それに任命されると前線での任務などを考えず、ひたすら研究だけできるらしいが……研究員は、魔法師団の中でも狭き門だ。
基本的に魔法師団は一種の軍事機関なので、前線に立って戦う人間が一番多く必要なのは当然だろう。
しかし一般の団員であろうとも、魔法師団員は王国が保有する魔法書や、魔法技術に触れる権利を持っている。
魔法研究に必要な道具や設備も利用可能だし、一般人とはまったく研究環境が違うのだ。
そして何より『魔法師団員』の肩書は、魔法研究の世界では非常に力を持っている。
たとえそのうちクビになってしまうとしても、ここにいる間に何らかの結果を残せれば、他の魔法研究機関などに潜り込める可能性だってある。
なにかの間違いとはいえ入団することになった以上は、このチャンスを逃す訳にはいかない。
などと考えつつ俺は、団長室へと入る。
すると、団長が口を開いた。
「ネイトン、君は確か、研究員志望だな?」
まだ研究員志望と言った覚えはないが、おそらく父から連絡が入っていたのだろうな。
もちろん、研究員志望だ。
「はい! 非才の身ではありますが……」
「やめてくれ。君が非才とか自称し始めると、うちの団員たちが泣いてしまう」
……師団長がそう言って、俺の言葉を遮った。
どうやら魔法師団長は、魔法だけではなくジョークの才能もあるらしい。
「実力だけで言えば、すぐにでも君を研究員……たとえば魔導具開発の役職につけたいところだ。しかし……魔法師団の規則があってね。研究員になるためには、一般団員歴が最低でも5年は必要なんだ」
「5年……ですか」
思ったよりは短いな。
今いる魔法師団の研究員は、いずれもかなりの高齢で、現役を退いた団員のはずだ。
最低でも30年……いや40年はかかるものと思っていた。
「長いと思うか?」
「いえ。正直なところ、もっと長いものかと」
「普通は最低でも60歳からだな。だが君の場合は、少し事情が特殊だ」
なるほど、分かったぞ。
やはり魔法師団長は、本気で俺が魔法師団にふさわしい人材だとは思ってないのだろう。
結局のところ、父に配慮して入団を認めつつ、適当におだてて後方に押し込もうというわけだ。
前線に足手まといがいると迷惑なばかりか、下手をすれば他の団員の危険にすら繋がるので、当然といえば当然の判断だな。
本当は5年後とは言わず、すぐに俺を名ばかりの研究員にしたいのだろうが、規則が許さないので仕方なく任務を回す……と。
まあ納得行かないところもあるが、好都合といえば好都合だな。
お飾りの魔法研究員は、魔法研究の環境として考えればむしろ最高かもしれない。
お荷物みたいで気が引けるが、まあ魔力を持たない俺など生まれた時点からお荷物なので、もう諦めたほうがよさそうだ。
「……まあ、君にとってもいい機会だ。現場で役に立つ魔法を開発するためには、まず現場を知っておく必要があるだろう?」
「仰る通りかと」
まあ、俺なんかが現場を知ったところで何の役に立てるのかという疑問はあるが、現場を知らなければ話にならないのも確かだ。
魔法師団は魔法師団で、魔力を持たない人間など受け入れたことはないだろうから、『魔力なしがどれだけ役に立たないか』を思い知ることになるだろうが……俺は俺で、素晴らしい魔法の数々を間近で見る機会を得ることができる。
一人の魔法好きとしては、嬉しいチャンスでもある。
断る理由はないな。
「というわけで、さっそく任務の話に入ろう。……入ってくれ」
「失礼します」
「失礼します!」
魔法師団長の言葉で、2人の女性が部屋へ入ってきた。
2人とも、見覚えがある団員たちだ。
片方は炎獄のミア……あの試験で俺と戦った団員だ。
まだ八百長疑惑は晴れていないが、ともかく有名な魔法使いであることは確かだな。
もう一人は名前を知らないが、試験のときに見に来ていた魔法使いの一人だ。
魔力量がやたらと大きかったので、記憶に残っている。
「ネムとネイトンは初対面だな。……ネム、ネイトンは知ってるな?」
「はい! なんかすごい魔法で、ミアさんをやっつけた人です! ……ひっ!?」
ネムはキラキラした眼で俺を見ていたが……ミアの視線に気がつくと、後退りして縮こまった。
……魔力が大きいせいで、縮こまっていても存在感があるな。
「ネイトン、彼女がネム……ネム=ウィーナーズだ。王立魔法学園を首席卒業した、期待のホープだぞ」
「ネムです! よろしくお願いします!」
王立魔法学園を、首席卒業……。
入学できるだけでも超エリートなのに、その頂点に位置するのが彼女というわけか。
道理で、やたらと魔力が巨大な訳だな。
魔力は訓練でも伸びるが、その伸び方や上限は、生まれ持った才能が大きいというのが定説だ。
本人の努力も大きいはずだが、王立魔法学園の中でもトップとなると、才能の影響はかなり大きいはずだ。
魔力に愛された人間……俺とは正反対だな。
「ネイトンです。よろしくお願いします」
俺は魔力量の理由に納得しつつも、そう挨拶をした。
少し羨ましくは思うが、別に彼女本人に対して思うところがあるわけではない。
才能の話をするなら、その辺を歩いている一般人だって、俺よりはずっと才能があるわけだしな。魔力があるだけマシだ。
「さて、挨拶が終わったところで……君たち3人に王国北部の魔物分布調査を頼みたい。」
師団長の言葉を聞いて、ネムが露骨に嫌そうな顔をした。
どうやら、好き嫌いが顔にでるタイプらしい。
「ネム、魔物分布調査は苦手か?」
「苦手ですけど……まあ、ネイトンさんがいるので大丈夫かと!」
現役の魔法師団員が嫌がる任務……どれほど厳しいものなのだろう。
そう考えていると、なぜか流れ弾が俺に飛んできた。
「ネイトンは新人だぞ……人任せにするなよ……」
おお、団長様がまともなことを言っている。
とても俺の入団試験で『最悪でも命は助かるから大丈夫だ』などと言った人間だとは思えない。
そう考えつつ俺は、魔法師団員としての初任務を受け取ったのだった。
……安全そうな任務でよかったな。
ただの調査なら危険はないだろうし、戦いになる可能性もゼロに近いだろう。
こういう任務を選んでくれたのは、やはり団長なりの配慮なのかもしれない。




