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第7話 魔法師団員たちは驚愕する


「これを作ったのは、誰だと思う?」

「マギウス家の人間としか明かされていませんが、『神域の魔導師』ルインズ=マギウスというのが定説……」


 そう言いかけてミアは、途中で口を閉じる。

 今の話の流れからすると、この魔導具を作ったのはルインズではない。


 普通であれば、ありえないと断じるところだ。

 これらの魔導具が出たのは10年前……つまり、ネイトンが12歳の頃だ。

 12歳の人間が、世界を変えてしまう魔導具など作れるわけもない。


 だが、あの模擬戦を経験した後では、彼に常識が通用するとも思えなかった。

 幼少期から天才だったと言われたほうが、逆に納得感がある。


「まさか、彼が開発者なのですか?」

「……この情報は、軍事機密と同様に扱ってくれよ」

「承知いたしました」


 師団長の言葉に、ミアは頷く。

 それと同時にミアは、自分がやったことの恐ろしさを反省していた。

 彼があれだけの力を持っていたから問題はなかったものの……自分は危うく、歴代最高峰の魔導具設計者をこの世から消し去るところだったのだ。


「もし、その話が事実なら……いえ、彼が私との戦いで使った魔法を見ただけで分かります。彼はまず間違いなく魔法学の歴史に名が残る、我が国の……いえ、魔法界の至宝です」

「そうだな」


 ミアの言葉に、師団長はそう言って頷いた。

 ネイトンが模擬戦で使った魔法は、明らかに現代魔法の技術や理論を超越していた。

 彼の魔法を解析するだけで、魔法技術は十年単位で進歩することだろう。


「……彼を軍人として前線に出すのは、間違っているのでは?」


 結局のところ、魔法師団は軍の組織の一つであり、その団員は軍人だ。

 危険な目に合うことも多いし、前線に出ることもある。


 そんな組織にネイトンを入れる理由が、ミアには理解できなかった。

 もし魔法師団での任務中にネイトンが死ぬことがあれば、それは世界にとっての損失だ。

 優れた魔法研究者は、前線で戦わせるのではなく、安全なところで研究や魔導具設計をさせるべきなのだ。

 だが師団長は、首を横に振った。


「それには反対だな」

「何故ですか?」

「大事にしまっておいたとしても、ネイトンは結局狙われることになる。……だったら事前に鍛えておいて、ネイトンが自分で身を守れるようになったほうが安全だろう」


 ……確かに、一理なくもない。

 だが、そのために彼を前線に出すというのは、本末転倒ではないだろうか。

 そう考えてミアは口を開きかけたが、ラジウス師団長がそれを制した。


「いずれにせよ、これは決定事項だ。反論は認めない」


 師団長の言葉に、ミアは渋々こう頷いた。

 ラジウスがこういった言い方をする場合、その裏には常に何らかの……魔法師団長クラスの人間にしか知り得ない情報や事情がある。

 恐らく今回も、そのケースなのだろう。


「じゃああの人、他の国から狙われたりもするってことですか?」


 師団長とミアの会話に、ネムが口を挟んだ。

 王立魔法学園の首席だっただけあって、発言の内容は的を得ている。

 確かに、その可能性はあるだろう


「ああ。だから念のために魔法師団員をつけておきたい。過保護にするつもりはないが、無防備すぎるのも考えものだからな」


 その言葉を聞いて、ネムが考え込む。

 そしてネムは、心配そうに口を開いた。


「他国が魔法師団を出してくる可能性もありますけど……私達だけで大丈夫ですか?」

「それは流石に、心配し過ぎなような気もするが……ないとは言えないな」


 正直なところ、一般兵による襲撃はあまり心配の必要がない。

 一般兵の1000人や2000人であれば、ミアとネムだけでも簡単に焼き尽くせるだろう。

 魔法師団のメンバーは、文字通り人間離れした巨大戦力なのだ。


 とはいえ彼女らも無敵ではない。

 他国の魔法師団は王国魔法師団と同レベルの戦力を持っているし、冒険者や犯罪組織にも、少数ながら魔法師団に準ずる力を持つ人間がいる。

 その中でも、大戦力を組織的に動員できる魔法師団は厄介だ。


 もちろん、ネイトンは魔導具設計者というだけではなく、王国の貴族でもある。

 それを武力で拉致するために軍などを送り込むのは、宣戦布告と取られる可能性も高い。

 だが彼が設計した魔導具の重要性を考えると、可能性はゼロとも言えないだろう。


「まあ、別に護衛として考える必要はないさ。ネイトン狙いの敵がいる可能性があるから色々と余計なことを教えたが、基本的には魔法師団の新入りとして扱ってくれ」

「……特に意識して、ネイトンさんを守るような動きをする必要はないということですか?」

「そうだ。ここは王宮でも貴族の屋敷でもなく、魔法師団だ。自分の身は自分で守るのが基本だからな」


 魔法師団は、家柄や政治的な事情を理由として、特定の団員を守ったりはしない。

 たとえ王族であろうとも、魔法師団に入った以上は、普通の団員と同じように扱うのが慣例だ。

 もちろん師団長などの判断で、比較的安全な場所に配置したり、周囲に強い団員を配置したりといった配慮はあるのだが……個々の団員自身は、他の団員を特別扱いしないように教育されている。

 その扱いに納得できない人間は、そもそも魔法師団には入れないのだ。


「それに、もし敵が魔法使い相手を出してきたら、対処は簡単だ。ネイトンを盾にすればいい」

「……冗談ですよね?」

「冗談じゃないことは、さっき理解しただろ?」


 ラジウス師団長の荒唐無稽な主張を聞いて、ミアは疑いの表情になった。

 確かにネイトンが魔法への防御力に優れているのは、嫌というほど理解した。


 とはいえ、相手が誰でも同じ真似ができるとは思わない。

 ミアは自分の魔法には自信を持っていたが、自分が最強の魔法使いだとは思っていない。

 自分より技術のある魔法使いも何人か心当たりがあるし、それには他国の人間も含まれている。


 ちなみに、その筆頭がネイトンの父、『神域の魔導師』ルインズ=マギウスだ。

 そんなルインズの名前が、師団長の口から出た。


「ちなみに……ここにルインズさんからの手紙がある。これによると……彼自身ですら、ネイトンを魔法で傷つけることはできないらしい」

「ルインズさんが……?」


『魔導師』の2つ名を持つ人間は、いずれも世界最強格の魔法使い達だ。

 中でも最も技術に優れていると言われるのが、他ならないルインズだ。

 そのルインズでも無理だとすると……ネイトンを魔法で傷つけられる人間は、この世界には存在しないことになってしまう。


「まあ正直なところ、ちょっと信じがたい情報でもある。ネイトンの実際の戦力が確認できたら、俺に報告してくれ」

「分かりました。……確認が取れるまでは、彼は私が守ります」

「……お前より、あいつのほうが強いんじゃないか?」


 ミアの言葉を聞いて、師団長はそう尋ねた。

 実際のところ、本気でそう思っている訳ではない……というか、どちらが強いなどという比較には意味がない。


 状況によって要求される能力は違うし、相手との相性などもある。

 直接戦えばネイトンが勝つのだろうが、魔力を持たない剣士の群れなどが相手なら、ミアのほうが役に立つ可能性が高いだろう。

 強さというのは、状況や相手によって違うのだ。

 それでも、こう尋ねたのは……純粋に反応が気になったからだ。


「それでもです。私はただの軍人、彼は魔法界の至宝……命の価値が全く違いますから」

「そう思うのは勝手だが……必要な時は、ちゃんと盾にしろよ?」

「……ご命令でしたら、従います」


 こうしてネイトンには、2人の教育係がつくことになった。

 そして教育係の2人は、便利な盾を手に入れた。



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