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第36話 最強賢者、普通を守る



それから少し後。

俺達は師団長のもとに魔道具を持ち帰り、出どころを調べていた。


「製造元はリバエノ魔道具工房……かなり大手だな」


魔道具の箱を見ながら、師団長がそう告げる。

市販の魔道具を買うのは初めてなのだが、製造元の情報は箱に刻印されているようだ。

俺は初めて聞く名前の工房だが、どうやら大手らしい。


「大手の魔道具工房が、犯罪組織の隠れ蓑になってたんですか……?」

「驚くには値しないさ。大量の魔石を怪しまれずに手に入れられるし、利益率が高いから資金集めにも最適だ」


ネムの言葉に、師団長はそう答える。

確かに、魔道具を使った犯罪をするつもりであれば、魔道具工房は最適な隠れ蓑だな。


だが……ひとつ気になることがある。

これだけ派手に事件を起こせば、地面に埋まっている魔石が見つかるのは時間の問題だろう。

そして魔石と同様の魔力反応が市販の魔道具から検出されれば、犯人の正体が簡単にバレてしまう。


もし本当に組織ぐるみで犯罪を行うつもりなら、市販の魔道具と犯罪に使う魔道具は、担当者を分けるはずだ。

大手の工房であれば1人くらいは犯罪専門に回す程度の人手は用意できるだろうし、魔力がほとんど割れていない人間が、秘密拠点かなにかで魔道具を作ることもできたはずだ。

せめて他の地域などで売る魔道具を作るなら分からなくもないが、犯罪を実行する街や王都にまで魔道具を売るのは、もはや捕まえてくれと言っているようなものだろう。


そう考えると、一つの可能性が浮かんでくる。

犯罪集団は、あえて犯人がわかりやすいようにしたのではないかという可能性だ。


「師団長、自分から魔力を見つけたと言っておいて申し訳ありませんが……これは罠じゃないですか?」

「罠? どういうことだ?」

「これだけの大事件を起こすような犯罪者が、市販の魔道具なんて作りますか? それも攻撃対象の街にまで並ぶような形で売るなんて、見つけてほしいとしか思えない」

「……ああ、それなら安心していいぞ。魔道具の魔力なんかで見つかるとは思わんからな」


俺の心配を、支部長はあっさりと否定した。

なんだそんなくだらないことか、と言わんばかりの口調だ。


「魔道具の魔力のうち、付与者の魔力はどのくらいだ?」

「付与者の腕や刻む術式、使われた魔石の魔力量などにもよりますが……今回の魔道具だと100万分の1くらいでしょうか」

「そんなもの、検出できる人間はネイトンくらいだ。……専用の魔力機関があれば照合できなくもないが、この国に1台しかない精密魔導鑑定機で3日がかりの大仕事になる」


確かに、王立魔法学園に巨大な精密魔導鑑定機があり、それが凄まじい精度を持っているというのは有名な話だ。

王国最高峰の魔道具職人たちが集まり、10年以上の歳月をかけて完成させた怪物のような魔道具らしい。

そんな代物が、たった2つの魔導具の作者が同じかどうかを判定するだけで3日もかかるのか……?

そう困惑していると、師団長が口を開いた。


「ネイトン、君の魔力認識能力は、文字通り人外の領域だ。自覚しておいたほうがいい」


……以前、父にも同じことを言われたことがあるな。

単なる親バカだと思っていたのだが……魔法師団長が言うのだとすると、もしかしたら本当に魔力分析は俺の得意分野なのかもしれない。

体内に魔力がないというのが、いい効果を発揮しているのかもしれないな。


「とはいえ……結局は魔道具を精密魔導鑑定機にかける必要があるな。強行突入の許可を取り付けるには、客観的な証拠が必要になる」

「ネイトンが魔力で調べたと言ってもダメですか?」

「確認できる人間がいないと、上からの許可が下りないんだ。……ただ調べるだけなら王国の許可などいらないが、強行突入となると話が変わってくる」

「もし犯人が抵抗した場合、即座に略式処刑するための許可というわけですか」

「ああ。そう思ってもらっていい」


……そう聞くと、確かにちゃんと機械で判定してもらったほうがよさそうな気がするな。

俺の感覚だけを頼りに犯人を処刑して、後から実は冤罪だったと分かったら、目も当てられないし。


「まあ、敵はまさか魔道具の魔力から作者を特定できる人間なんかがいるとは思わないだろう。しっかり証拠が集めて、背後関係も調べてから動いても、逃げられたりはしないさ」

「後は我々というより、王国諜報部の出番というわけですか」

「そういうことだ。……マギル」


会話が終わったところで、師団長は部屋の済で待機していた魔法師団員の一人、マギルの名前を呼んだ。

マギルはそれを聞いて、すぐに頷く。


「資料運びですね」

「ああ。犯行に使われた魔道具とネイトンが買ってきた魔道具を、確実に王都の諜報部に届けてくれ。護衛の人選は任せる」

「了解です!」


そう言ってマギルは魔道具を受け取り、慌ただしくどこかへ走っていった。

どうやら、これで俺達の役目は終わりみたいだな。

などと考えていると……師団長が俺達のほうへと向き直った。


「さて、これで事件が一段落したというわけで……表彰に移ろうか」

「……表彰?」

「たった3人の調査隊が、街一つを滅びから救ったんだぞ? 表彰は当然だろう?」


……実際に救ったのは魔法師団だと思うが……まあ、俺達が逃げていれば街が滅んだのは事実だな。

2人で時間を稼ぎながら、俺が助けを呼んだような感じだ。


「なお、これは通信魔法で国王陛下より賜った、正式な国家表彰だ」


ずいぶんと大事になったようだ。

まさか入って間もないうちから、国王陛下の表彰を受けるようなことになるとは。


「ネイトン=マギウス、ミア、ネム=ウィナーズ。貴殿らは王国の危機に際し、卓越した勇気と能力をもって特一級大規模魔法災害『レオニリア大侵攻』に対応し、絶望的な状況にあった王国民の命と財産を守り抜いた。よってその功績をたたえ、3名に国家一等勲章を極秘授与する」


国家一等勲章……あまり詳しくはないが、なんかすごい勲章だったはずだ。

確か、名誉以外にも特別な年金がもらえたりとか、いろいろ特典があったような気がする。


「……なお、本件は現在のところ秘匿すべき情報が多いため当面は極秘での表彰とし、勲章に付随する特典類は魔法師団員としての昇給などの形で支給するものとする」


秘匿すべき情報というのは、転移門などのことだろうな。

勲章を贈ることによって、誰がどう動いたのかが露見することを避けたいというわけだ。


「式典は以上だ。本当は陛下に謁見してちゃんとした授与式があるんだが、そういうのは事件の詳細が公開できるようになってからだな」

「それまでは、本件に関する情報は部外秘というわけですね」

「ああ。転移門絡みだから、公開されるまでには時間がかかりそうだがな」


ミアの言葉に頷きながら師団長は窓へと歩き、カーテンを開く。

すでに日の落ちた中、あちこちの家から、魔法灯の証が漏れ出している。


「どうだ? 守り抜いた街の眺めは」


街を見ながら、師団長がそう尋ねる。

自分たちで守った街と聞くと、少しは特別に見えそうなものだが……その景色は、あまりにも普通に見えた。

なんというか……ただの街だ。

助かったお祝いに誰かが開いた宴会の酒瓶が落ちていたり、通りに酔っ払いが寝転がっているところを見ると、あまりきれいな街とも言えないかもしれない。


「なんか、普通ですね」


俺は一瞬、なにかきれいな言葉で取り繕うべきか迷ったが、結局は素直に答えることにした。

ロマンのない奴だと言われるかもしれないが、普通にしか見えないのだ。


「普通……はは、普通か! まあ、確かに普通の街だよな」


俺の言葉に、支部長が頷く。

どうやら怒られたりはしないで済んだようだ。


「ちなみに、さっき一瞬なにかうまいことを言おうとしてやめただろ?」

「……どうして分かるんですか」

「魔法師団長をやってれば、このくらいのことは分かるさ」


嘘をつこうとしたことまでお見通しだったらしい。

これは適当に取り繕っても、絶対にバレていただろうな。

師団長の前で嘘をつくのはやめておこう。


「でも普通ってのは、実は正解だ。……その『普通』を守るのが、俺達の仕事なんだ」


そう言って師団長が、窓の外を眺める。

……魔法師団員というのも、なかなか悪くない仕事かもしれない。

まあ、俺の力で魔法師団員が務まるかどうかは、また別の話だが。

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