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第35話 最強賢者、偽物を買う


「あの魔道具の魔力、この街の中にもあるぞ」

「ほ、本当か!?」


俺の言葉を聞いて、ミアが驚きの声を上げる。

俺も、まさかこんなに近い場所にあるとは思わなかった。

意識してみると、意外と見つかるものだな。


「こっちだ」


俺はそう言って、魔力反応のもとへと向かう。

そこにあったのは、専門の魔道具店ですらない、雑多な日用品を売っている店だった。


「これを買いたい」


俺はそう言って、目当ての魔道具が入った箱を指す。

それは俺が設計した魔道具と少し似た……だが細部の設計が異なる魔法灯だった。

値段は3000ラピス……魔道具としてはかなり安いな。


「旦那、魔法師団員ですかい? 仕事とかで使うなら、こっちのほうがおすすめですぜ」


店主は俺の制服を見て、そう告げる。

彼が指した魔道具は3万ラピス……なんと10倍もする。


こちらの魔道具の設計は、見覚えがある。

俺が3年ほど前に頼まれて描いた設計図が、ちょうどこんな感じだったはずだ。


よく見てみると、木箱には工房の名前とともに、マギウス家の紋章が刻まれている。

名前もただの『魔法灯』ではなく、『戦闘・冒険対応 高耐久魔法灯』となっているようだな。

設計を頼まれたときも『術式は多少複雑になってもいいから、とにかく壊れにくいように作ってくれ』という注文だったので、そうなるように作っておいた。

あの注文の目的は、これを作るためだったんだな。


「別に高いのを売りつけようってんじゃねえです。命を預ける魔道具なら、絶対に壊れないほうがいいでしょう?」

「まあ、それはそうだけど……」


俺はどう話を持っていくかを考えながら、店主の言葉に答える。

実のところ俺は魔道具を使いたいのではなく、これがどこで作られたのかを知りたいだけだ。

だがそれを正直に言えば、製造元にも話が伝わってしまうかもしれない。

自然な流れで魔道具を買って、誰も見ていないところで調べるのがいいだろう。


「もし安いほうがよければ、こっちはどうです?」


そう言って店主が出した魔道具は、1万ラピスの値札がついていた。

こちらも俺が設計した魔道具だな。

とにかく安く簡単に作れるように設計したものだ。


「……一応冒険用には高耐久のほうを使えってことになってますが、このマークが刻まれてる魔道具が壊れたって話は聞いたことがねえ。マギウス家の職人が設計したんです」


彼はマギウス家の紋章を指しながら、そう言葉を続ける。

やはりマギウス家の紋章は、かなりのブランド力を持っているようだ。

この紋章を使う以上、俺の魔道具もその名声を傷つけないような設計ができていればいいのだが。


それはそうと、俺が買いたいのはこの3000ラピスの魔道具のほうだ。

普通の買い物であれば『とにかくこれがほしいんだ、売ってくれ』と言えば済む話だが、怪しまれてはいけないというのが問題だな。

魔法師団の制服を着ていると、貧乏なふりをすることもできないし。


「訓練用に、気軽に壊せるやつがほしいんだ」

「……壊す前提ですかい。それなら、これでもいいかもしれませんが……」


彼の言葉は、少し煮えきらない感じだ。

やはり商売人としては、少しでも高いものを売りたいのだろうか。


「なにか売りたくない理由でもあるのか?」

「いや、パチモンを売るのがちょっと気が引けるってだけです。どうしても金がない人のために安物も置いてるが、ちゃんと金を払える人には本物を使ってほしい」

「……パチモン?」

「マギウス家の印がない魔法灯は、全部パチモンだと思っていいと思いますぜ。マギウス家の設計をパクってるんだ」


なるほど、設計図が真似られているのか。

確か王国には、魔道具の設計を勝手に真似てはいけないという法律があったはずだが……確かに安い魔法灯は、どれも俺が設計したものと似た部分が多い。

細部の術式が違うため、性能や安定性がだいぶ劣る状態になっているが、『自分たちで設計した』と言い張るために一部だけ変えたということでも納得がいくな。

まあ、そんなことをして劣化版を作るくらいなら、普通に自分で設計をしたほうがいい気がするが。


「どうして自分たちで設計しないんだ?」

「マギウス式じゃない魔法灯を買うのなんて、骨董品マニアくらいのもんです。全然明るくないし、魔力はすぐになくなるし、マギウス式のパチモンよりさらに壊れやすい」


そんなにひどいのか……。

正直、まともに設計してそんなに差がつくとは思えないのだが、なにか事情があるのだろうか。

高いものを売りつけたい商人のセールストークの可能性もあるので、あまり信用はできないが。


「使い勝手を比べてみたいから、これ3つ全部くれ」


少し考えた後、俺は彼のセールストークに乗ってあげることにした。

安い魔道具を怪しまれずに売ってもらうには、これが一番いい方法だと思ったのだ。


「まいどあり!」


俺から金を受け取ると、商人は笑顔で魔道具を渡してくれた。

出費としては痛いが、うまくいったようだな。

魔法師団の高い給料には、こういった時に使う経費の分も含まれているのかもしれない。


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